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悪口は自己申告で

放課後、なぜかフレデリック様とサレオス、私、そしてクレちゃんの四者面談が行われることに。

私とクレちゃんは一心同体という扱いがもはや定着していて、フレデリック様もそこには何も触れなかった。


カフェテラスには誰もいない。貸切にしたからだ。誰がってそんなの王子様に決まってるわ。


今、丸テーブルを囲み、私の正面にフレデリック様が、右側にサレオス、左側にクレちゃんが座っている。

真正面から見つめられて居心地の悪さを感じていると、フレデリック様がサレオスにいきなり本題をぶちこんだ。


「マリーに気安く触らないでくれないか。私が妃に望む女性なのだから、節度を持ってくれ」


うーん、そこに私の意志はないのかしら。いつもながら自分中心ですねフレデリック様。まぁ、私もなんですけど。


サレオスは安定の無表情で、怒っているフレデリック様を黙って見ていた。


ただ一つ心配なのは、空気の読めないフレデリック様が私の気持ちをサレオスに暴露しないかということ。自分の口から好きだと言うならまだしも、人から告げられるほど悲惨なことはない。私は怯えながら二人の様子を見守っていた。


「何がダメで何が許されるんだ」


迷惑そうな顔をしたサレオスが、フレデリック様に対して尋ねた。そうよね、迷惑よねこんなことに……


「ごめんなさい」


半泣きで呟くと、「マリーが悪いわけじゃない」と優しく言ってくれた。そしてテーブルの下で軽く指先を握られて、ふいに来たキュンに悶える。こういう、こういう優しいところが好きなの……私のことを気遣ってくれるところが!フレデリック様とは大違いだわ。


フレデリック様は、サレオスに問われたことを考えているようで腕組みをして黙っている。いやいやいや、どこまでオッケーかなんて私に決めさせてくれませんか?私は現状、あなたとはクラスメイトでしかないんですけど。


私が険しい顔をしていると、右手を包む力がぎゅっと強められた。「うくっ……!」っと小さな呻き声を漏らした私は、俯いて幸せを噛みしめる。


あぁもう、どうにかして嫌いになってくれないかな。いっそ嫌な女だと思ってくれたらいいのに。そうだわ、帰りに図書室に寄って好感度を下げる方法が載ってる本を探そう。

ひとり頷く私の前で、フレデリック様は呆れたようにサレオスを見て言った。


「とにかく……今日みたいに髪を撫でるのはダメだ!それくらいわかるだろう、自重してくれ」


サレオスを睨み、フレデリック様は険しい顔つきになっている。サレオスは何も返事をしていないのに、もうこの話は終わりに向かいつつあった。私が少しほっとしていると、そこに予想外の人が現れた。


「フレデリック様、少しよろしいですか?」


「セシリア嬢、今は遠慮してもらいたいんだが」


赤い髪をなびかせて颯爽と現れたセシリアは、意味深な笑みを浮かべていた。私をちらりと見て、またフレデリック様の方を見た。


「実はお耳に入れたいことがございますの……」


「なんだ」


セクシーに、甘えるような声を出すセシリアはさすが恋愛マスターというお色気っぷりだった。このまま陥落してくれたらいいのに……


二人のやりとりを見ていると、私の右手がゆっくりと放されて自由になる。


はっ!サレオスはセシリアに見惚れてないかしら!?好きな人が自分の友達を好きになるって、けっこうなあるあるよね?


慌てて右隣を確認すると、サレオスは腕組みをして寝る体勢に入っていた。

嘘、この状態で寝ようとする!?それを見たクレちゃんが「ぷっ」と噴き出した。


いったん彼は寝かせといて、私はセシリアのことを見守った。

何を言うつもりなの……?さっきチラッとこちらを見た意味深な視線も気になるわ。アイコンタクトだったらどうしよう、まったくわからないわ!


ドキドキしながら動向を観察すると、セシリアが口元を片手で覆い、大げさなまでに苦しげに話し出した。


「お耳に入れようか迷ったんですけれど……実はマリーウェルザ様はフレデリック様についてとても不敬なことをおっしゃっておりますのよ。私は胸が痛くて、もう耐えられませんわ!」


セシリアの言葉に、クレちゃんが立ち上がって応戦した。


「まぁ、何をそんな作り話を?妄想が言葉に出てるだけじゃなくて?」


うおっ、修羅場だわ!

セシリアったらどうしてそんなこと言うんだろう、仲良くなったと思ったのに。


…………はっ!?


まさか私の「フレデリック様に嫌われたい」という思いを汲んでくれたの!?えええ、なんていう以心伝心!

私は口元を右手で押さえ、プルプルしてしまった。

そんな私を見て口角を上げたセシリアは、さらなる攻勢に出てくれた。


「マリーウェルザ様はフレデリック様のことを強引だとおっしゃって、さらには悪魔だとも罵っておられたんですのよ!こんな方が王太子妃だなんておかしいですわ。フレデリック様、どうかお気づきになってください」


バレたぁぁぁ!悪魔よばわりしてるのバレたー!!!


ってあれ?そういえば街であったときも何となく悪魔よばわりしてるの聞かれてたような。あのときは聞こえてなかったのかな?ま、いっか、今はそれより嫌われて諦めてもらうことの方が大切だわ!


私はセシリアのナイスアシストに感謝して、フレデリック様の反応を見守る……のだが、やはりこの王子様は一筋縄ではいかなかった。


「私のマリーがそんなこと言うはずないだろう!セシリア嬢、さてはあらぬこと私に吹き込んで、マリーを貶める気だな」


ちがーーーう!何で信じてくれないの!?私は目を見開いた。


フレデリック様はセシリアを睨んだ後、不機嫌なオーラを放って紅茶を一口飲んだ。大変だわ、このままじゃセシリアが悪者になっちゃう!

私はすぐに口を開いた。


「……ました」


「え?マリー、今なんと」


「言いました!私、フレデリック様のことを悪魔で強引でひどい人だって思ってて、恋愛になるとなんでこんなに空気が読めないポンコツなのって腹が立ってしまって、しかもそれを口にしました!」


叫ぶように言い放った私に、クレちゃんから冷静な突っ込みが入る。


「いや、マリー様、悪口の種類が増えてます。斬新な自己申告だわ!」


はっ、しまった!さすがに本音を言いすぎた!でももう遅い。フレデリック様は顔面蒼白で、私を見て絶句している。

サレオスまで起きていて、フレデリック様の目の前で手をひらひらさせて意識の確認を行う始末だ。


「フレデリック?生きてるか」


サレオスの声で、はっと意識を取り戻したフレデリック様は俯き、テーブルの上で拳を握りしめている。

私は急におそろしくなってしまった。


「ふっ、不敬罪で罰せられますか……?」


胸の前で手を組み、祈るようにしてお裁きを待つ。投獄されたらどうしよう、そんなことを考えていると、立っているクレちゃんから優しい声がかけられた。


「大丈夫よ、マリー様。ねぇ、フレデリック様。先日、従者のヴァン様からいただいたコレ、生きてますよね?」


賢者がさっと取り出したのは、一枚の紙。そう、何を言っても不敬罪にならないと書かれた誓約書だった。

フレデリック様はそれを見て、今思い出したかのように「あ、それ」と呟いた。


「フレデリック様、もちろん、マリー様が何を言ってもお許しになりますよね」


おおっ、クレちゃんの笑顔がものすごい圧を放っている!私なんてその誓約書を寮の部屋に置きっぱなしなのに、持ち歩いてたなんてびっくりだわ!!!

クレちゃんに向かって祈りを捧げる私を見て、サレオスが苦笑いしている。


「なっ……!?そんなことって!」


セシリアが驚きのあまりフラついていた。私は立ち上がってセシリアのそばに寄り、お礼を言おうと思ったら一瞬にして立ち去ってしまった。


あぁ、急ぎの用事があったのにわざわざ来てくれたんだわ。ありがとうセシリア……!菓子折りを届けようと心に決めた。


その後フレデリック様は、フラフラと立ち上がって何も言わずにどこかに行ってしまった。どうしよう、少し心配だわ。


しかし翌日、何がどうなったのかはわからないけれど、「これからまだ挽回できるってことだよね」と意味不明なことを言われ、心配する必要はなかったと思い知らされるのだった。


「何事も努力すればどうにかなってきたんだ。私は君のために励むよ!」


どうしよう、なんだかやる気を出させてしまった……。


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