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悪役令嬢はシナリオを知らない(旧題:恋に生きる転生令嬢)※再掲載です  作者: 柊 一葉
未書籍化部分

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恋愛指南書

私は今、カバンの中にある一冊の本の取り扱いに困っている。


ええ、とてつもなく困っているの。なぜなら、シーナがどうしても私に読ませたい本というのがこの恋愛指南書なんだけれど……。


『踊り子流!男を誘う方法100』


100パターンもあるの!?マ、マスターできるかしら……。っていやいやいや、そうじゃない!万が一、こんな本を読んでいることがサレオスにバレたら困る!私のイメージが一気に卑猥な感じになっちゃったらどうしてくれるの!?


あぁ、でもサレオス以外に好きな人なんていたことがないから、自分のことを意識してもらう方法がまったくわからないのは事実だわ。


むしろこれまで、変な人を生み出さないために「衣服の乱れは厳禁」、「1秒以上見つめない」、「不用意に話しかけない」とか、いかにガードするかだけを考えろってお父様から言われてきたのよ……。


異性へのアプローチ方法なんて知っているわけがない。ううっ、自分の経験不足が悔やまれる。


ただでさえ余裕がないのに、サレオス相手にってなると考えただけで緊張が走るわ。失敗したくない、でももっと近づきたい。両極端な想いの狭間で、何にも身動きが取れないのよね。


お嫁さん以前に、恋人になるハードルが高すぎるわ。


もしもこの男を誘う方法とやらを覚えたら、サレオスは私のことを監禁するほど好きになってくれるかしら?あぁ、でも私の危機管理能力が叫んでいる。この本は禁断の書であると……!


じっと本を見つめ、大きくため息をつく。


「やっぱり無理。読まずに返そう……」


昨日渡された時点で、その場で返せばよかった。


とりあえずかわいい布のカバーをかけておこう、そう思って偽装してみたけれど、もしバレたらと思うと不安で落ち着かない。タイトル文字がやや透けているのが切ない!


とにかくシーナに返してしまおう。そう決めた私は、教室でひとりシーナを待っていた。


ーーガチャ


扉が開く音がして、私はバッとそちらを振り向く。


「マリー」


でも入ってきたのは、シーナじゃなくサレオスだった!


いやぁぁぁぁ!!!一番会いたくないときに会ってしまった!!!


「ど、どうしたの!?もう授業終わった!?」あ、声が裏返った。


私は本を後ろに隠し、窓に背を預けてサレオスに対峙する。ヤバい、こんなもの見られたら恋が終わる。


『俺を誘惑するつもりだったのか?』


好きな人から向けられる軽蔑の眼差しになんて耐えられない。

だいたい訴えられるかもしれないわ、王子様を誘惑しようとするなんて国際問題じゃないの!

じんわりと冷や汗がにじむ。


「シーナから伝言だ。だいぶん遅くなるから先に帰っていてほしいと」


ひえええええ!ってことはこの本お持ち帰り決定じゃない!夜、寮で部屋に乗り込むしかない。


「あ、あははは……そうなんだ。伝言、ありがとう」


早く!早くサレオス、どこかよそ見してっ!私は本をカバンにしまう隙を探すも、まっすぐにこちらに歩いてくるサレオスにそんな隙はない。


「どうした」


「え……何が?」


「不自然だ」


いやぁぁぁぁ!!!バレてるー!!!


「何を隠してる」


マズイ、両手を後ろにしているのが怪しすぎたか……!でも私はどうしようもなく、ひたすらじっとして絶句していた。


すぐ目の前まで来たサレオスは、意地悪く笑って私の後ろを覗き込もうとする。急接近にも心臓がバクバクなっているけれど、やましいことがあるからさらにドクドクと脈打つ音が聞こえてくる。


「いやっ、何も!何もありません!隠してはいるけれど、これはシーナに……」


「ほぉ。俺に見せられないものか」


「お願いだから見ないで!大丈夫だから、大丈夫だから!」


「何がだ」


「何がって、何かしら……?とにかくお願いだから見ないで、色々と終わるから!」


あわわわわわ、どうしよう。こんなもの見られたら嫌われる!神様助けて、恋愛ハードモードな神様!!!

顔を逸らし、ぎゅっと目をつぶって耐えていると、下ろしている髪がふわっと持ち上げられるのを感じた。


いつもみたいに指に絡ませるのかと思いきや、そのまま口元に持っていく。


いやぁぁぁ!やめてー!!!なんかエロイ!直視できないし胸が痛いし倒れそう!


私がオロオロしていると、サレオスは意地の悪い笑みを浮かべてから髪を放した。


「無理に見たりしない」


「……え?」


私はほっとして、少し気が緩んでしまった。隠したい気持ちが全力で腕に伝わっていたせいで、痙攣しそうなくらいだ。


目の前にいるサレオスをおそるおそる見つめると、また白金の髪を少しだけ持ち上げ指に絡ませていた。何やら楽しそう。


「ど、どうかしたの?」


おそるおそる尋ねると、濃紺の瞳がまっすぐこちらを見ている。サレオスがゆっくりと近づいてきた、それを認識したときにはもう唇にチュッと軽いキスをされていた。


「ひぁっ……!」


ふ、不意打ち!?一瞬で顔が赤くなったのが、自分でもわかった。びっくりして危うく本を床に落としかける。でもせっかく死守した秘密をなんとしても守ろうと、指がつりそうなほど力を込めて持ちこたえた。


私がギリギリの状態で本を背中に隠していると、ぎゅっと抱きしめられて頭をポンポンと撫でられた。


「なっ……!?」


あわわわ、これは一体どういう状況!?今にも本がズリ落ちそうになるけれど、指先に力を込めてなんとか掴んでいる。

あぁ、でも幸せ、このぎゅっとされてる感じが…………って思っていたら、少し本がひっぱられる感じがした。


「っ!?無理に見たりしないって言ったのに!」


私は慌てて身を反転させ、本を抱きしめて確保した。なに今のちょっと卑怯な手法は!抱きしめて油断させといて本をこっそり取りに来るって、あやうく騙されるところだったわ!

怒る私を見て、サレオスはくつくつと笑っている。あぁ、またいいように面白がられてるわ私ったら……。取る気なかったのね、私で遊んでたのね。


サレオスは「ごめん」と一言いうと、教室の扉に向かって歩き出した。私はドキドキしながら、そばにあったカバンを手繰り寄せて素早く本を収納する。気分は万引き犯だ。


でも彼の後ろ姿を見ながら、私は心の中で叫んだ。


あああ!シーナ、この本役に立ったわ!キスしてくれたもの!……使い方、多分違うけど。

まだぼおっと立ったままの私に、サレオスが声をかける。


「マリー、帰るぞ」


ううっ……!キスしておきながら、どうしてあなたはそんなに普通なの!?

まだ熱い頬を手で冷やしながら、カバンで顔を隠しつつ扉の方に向かった。


そんな私を見てサレオスは笑っているけれど、とても顔を合わせられない。

私はカバン越しに不平を訴えてみた。


「さっきのはとっても卑怯だったわ」


「仕方ない。かわいくてつい」


「なっ……!」

こ、これは丸め込まれようとしている!?褒めてごまかそうとしているわ!

カバンをちょっとズラしてチラ見すると、何だか楽しそうにしていた。そして挙動不審な私を見て、少しだけ口角を上げる。


「これに懲りたら隠し事はしないことだな」


うっ……!悪い顔もかっこいい。ダメだ、キュン殺し犯はどこまでも前科を増やすつもりだわ。

顔がアツイ、焼け焦げる。

不審者と思われようが、熱が引くまではこの状態でいよう……そう決めた私はカバンで顔を隠したまま歩いて帰った。


そして。

結局この本はいったんヴィーくんの手に渡った。踊り子系セクシー美女が好きだと言っていたから、騙されないようにと……。


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