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悪役令嬢はシナリオを知らない(旧題:恋に生きる転生令嬢)※再掲載です  作者: 柊 一葉
未書籍化部分

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探しもの

フレデリック様の公開告白から一週間が経った。

以前のように露骨に苛めを受けるということは予想に反してまったくなく、陰口は言われるものの物理で嫌がらせされてはいない。


「マリー様に何かしたら即投獄っていう噂が飛び交っていますよ」


アイちゃんがそんな風に教えてくれた。実際には投獄じゃなくてヴィーくんによる抹殺だから、噂よりも事実の方がタチが悪い。


あえて言わないけれど!サレオスもすべて知っているようで、「誰かに何かされる前に消せばいい」と冗談だか本気だかわからない目で言っていた。その発想はヴィーくんと同じだからね!?


ちなみに、「私は王太子に目をつけられたいわくつきの女ですが、お嫁さんにしてくれますか?」なんてことは怖くて聞けていない。以前と変わらぬ態度や言葉に、ときおり胸が締め付けられた。いっそこちらから求婚してみようか、とも思ったけれどお父様が絶対に許してくれないだろうな。


あれからフレデリック様は、同じ授業ではすべて隣に座ってくるから気を抜けない。私はときにサレオスとフレデリック様という180センチオーバーの二人に挟まれ、前世の日本でいう新幹線の真ん中席くらいの圧迫感を味わっていた。座席の面積は同じはずなのに、居心地の悪さがすごい。


自然にサレオスの方に寄って行ってしまっているのに、それでも狭いとかうっとおしいとか文句のひとつも言わずに私の心を汲んでくれる黒髪の王子様が神様に見えた。目敏(めざと)いフレデリック様にたまに容赦なく引き離されるから、もう本当に私のことは放っておいて欲しいと思った。


そして、実習になるとすぐに私とペアを組もうとするのも困る。そのたびにクレちゃんやアイちゃん、シーナに助けてもらっている。やはり「女の子同士で組みます」というセリフは効果抜群だ。免罪符としては最強だわ!


あ、でもいいこともあった。


セシリア様が優しく声をかけてくれたの。「公開告白するなんてひどいわよね」と、私に同情してくれたのだ!黒板の落書き事件以来、セシリア様とは距離があったのに「何でも相談して」とまで言ってくれて私は感動に震えたわ!


クレちゃんは半眼で「何を嘘くさいことを」って言っていたけれど、私はセシリア様の優しさが嬉しかった。毎日声をかけてくれるようになって、これはお友達になれる日も近そうだと思う!


あぁ、でも積もり積もっていく「フレデリック疲労」はやはり膨大なわけで。今日、午後の授業がない私はシーナを巻き込み、図書室に避難していた。図書室は西棟の4階から6階まであるから、たとえフレデリック様が追ってきたとしても逃げられるはず。


シーナは今まで4階にしか入ったことがなかったらしく、不人気エリアである6階には初めて足を踏み入れたという。


「ねぇ、マリー。私は上まであがってきたことなかったんだけれど、こんな異世界にもジュン◯堂ってあったのね」


「いや、ないから。図書室だから」


ここ6階には、謎の画集や詩集、歴史書の中でも古いもの、学校関係者が書いたおもしろくない本が仕方なく詰め込まれている(これはシーナ予測)ので、不人気エリアなのだ。そこらかしこに梯子や踏み台、ひとり掛けのアンティーク風の椅子が置かれていて、少し雑多な雰囲気だ。


「へぇ……『眠りかけのときに読みたい詩集』って安眠効果でもあるのかしら。借りよう」


「またおかしな本を借りて」


シーナはタイトルで本を選ぶ。もともと、今日図書室に行きたいと言い出したのはシーナで、私が……例のときに隠れ蓑にしようとしたけれど投げたあの本を返しに来たという目的もある。でも私には、探している本があった。


「で、マリーは今日、何を探しに来たの?」


シーナが脚立の上に乗り、気になる本を取りながら尋ねる。こ、これは恋愛小説おなじみの、脚立から落ちてかっこいい男子に助けてもらうというキュンが発生するんじゃ……って私しかいないわ。今じゃない、それ今じゃないわシーナ!


「えっとね、ルレオードに行ったとき、街並みが何となく見たことあるような気がしたの。だから、街の風景が描いてある各国の画集を見て、そこがどこだったか探そうかと」


そうそう、街歩きをしていたときに思ったのよね。あの赤や黄色、オレンジのレンガづくりのきれいな街並みや、リンゴ型の大きなランプ。多分どこかで見たことがあるんだけれど、それがどこだったか思い出せなくて。クレちゃんの領の一部に、似た造形の街はあるんだけれど、そこは青や緑で配色が違うなと。


クレちゃんに聞いてみたら、「アガルタから東に行くにつれてこういう街並みになっているのよ」って言っていたわ。確かに、クレちゃんの領地はアガルタの最東だけあって、ちょっとトゥランに近い雰囲気があるのよね。建物や人の顔立ちがアガルタとトゥランの中間みたいな感じで。


「マリーは外国に行ったことがあるの?」


「昔よ?5歳から7歳くらいまでは、お父様の仕事の都合で色んなところに招待されて行っていたわ。アガルタの国内がやっぱり多いけれど、近隣諸国はだいたい行ったと思うの」


「うえっ、だいたい行ったなら候補がものすごく多いじゃない!見つかるの?」


「うう~ん。多分、東の方だと思うわよ。西や南はどう見ても街並みが違うもの」


「それならトゥランかエルティアに絞れるわね」


私は画集を手に取って、しばらく通路を歩き回った。それらしき画集を集めていたら、15冊にも及んでしまった。


「シーナ、これ借りて?1人10冊までだから5冊オーバーしちゃった」


「は~い」


実は図書室の貸し出し冊数が、10冊までになったのだ!私の投書のおかげかしら?ありがとう司書さん!


私は分厚い画集を両手で持って歩く。ほぼ前が見えていないけれど、シーナが手伝ってくれたからこれでもマシだわ。あいにく謎の腕力のおかげで、「どうしよう、持てないわ」なんてことにはならない。……私、鍛えていないんだけれどなぜ!?


でもさすがに10冊持つのはダメだった。階段を下りきったとき、角を曲がろうとしたらおもいきり誰かと衝突してしまった。


――ドンッ


「わっ!」


「きゃあ!」


画集が勢いよく床に落ちて散らばった。マズイ!この世界の本は糊付けがあまいから、本がすぐにバラバラになってしまう。糊じゃなくて紐で止めてある画集は大丈夫だったけれど、2冊ほどバラバラになって散らばってしまった。


「ごめんなさい!」


私は相手の顔も見ずに、とにかく謝罪した。シーナが慌てて自分の持っていた本を置き、私のところに駆け寄ってきてくれた。


「マリー大丈夫?」


「私は大丈夫」


「あの、すみませんでした。僕、まさか人が来るとは思っていなくて!」


床に座り、散らばった紙や画集を集めていた私はパッと顔を上げた。そこには学園の制服ではなく、シャツにベストなどの貴族令息の一般的な服装をした男の子がいた。


「いいえ、私がいけなかったの。本で前が見えていなかったから」


なんてカワイイ男の子なの!?金色のふわっとした髪に淡い紫色の瞳、華奢な体。女の子って言われたら信じてしまいそうだわ。うちのレヴィンにはない儚げな美しさがある。


「まぁ、あなたすっごくかわいいわね!」


シーナがはしゃいで、本人にかわいいと言ってしまった。


「ふふっ、それはどうも。でもお二人の方がかわいいと思いますよ?」


あ、もうこれは言われ慣れている感じね。男の子にかわいいは失礼かと思ったけれど、まったく気にしていないようでよかった。


「手伝います」


彼はそう言って、私が落とした画集を拾っていってくれた。なんていい子なの!?


「ありがとう。ケガとかしていない?」


「ええ、大丈夫です。こう見えて頑丈なんです」


「ふふふ。ならよかったわ」


あぁ、美少年は癒されるわ。レヴィンにもこんな素直な時期……なかった。私が記憶喪失でなければ、うちの弟にこんな天使な時期はなかった。おそらく未来永劫、ない。


「どうかしました?」


画集をすべて拾い上げた彼は、私がニヤニヤしているので不審に思ったのだろうか。


「ううん、何でもないわ。ちょっとうちの弟の残念さを思い出しただけ」


私は画集を集めながら答えた。


「ねぇ、あなたって1年生なの?まさか2年?」


私服で図書室にいる彼にシーナは興味津々だ。


「いえ、今日、試験だったんです。春からの入学試験です」


あ、そうだ!確かレヴィンも今日、学園に試験を受けに来ているはず!すっかり忘れていたわ。


「そうなのね!」


「はい。それで図書室を見学して帰ろうかと思って」


「そう。本が好きなの?」


「ええ、ここはたくさん本があるので、入り浸ってしまいそうです」


にっこりと笑った顔がまたかわいい。シーナは完全にキュンキュンしていて、「かわいいわ~」と心の声が漏れている。


「あ、僕はロニーです。ロニー・リンド」


あれ?リンドってどこかで聞いたことがあるな。


「ふふっ、そんなに困った顔しないで。テルフォード様にマレット様」


「私たちのことをご存知なの?」


「有名ですよ?おふたりは」


どういう意味で有名なんだろう。シーナはミスコンで優勝したから、社交界で名前が知れ渡っていても当然だけれど、私は病弱設定からのひっそりおとなしく暮らしてきたはずなのに……。


「マリー。あなたひっそり暮らせていないわよ」


なんでみんな私の心を読むの!?エスパーなの!?


「お二人は色々有名ですが、僕は姉がいるので知っているんです。セシリア・リンド、同じクラスでしたよね?」


私は驚愕のあまり目を見開いた。うわぁぁぁ、セシリア様の弟さんだった!!!そうだ、リンド侯爵家はセシリア様のおうちだわ!私ったらすぐに思い出せないなんて失礼なことを……。


「ご、ごめんなさい。ぼおっとしていて」


「大丈夫ですよ。僕の方こそ、すぐに名乗らなくてすみません」


「あなた本当にセシリア様の弟なの……!?」


シーナがものすごくじっくりロニーくんを見つめている。見つめているというか、観察している。確かに髪色も雰囲気も似ていないけれど、私だってレヴィンとあんまり似ていないしありえなくはないわよ?


「一応、弟ですよ?両親ともに同じです。あ、この本、借りるんですか?」


そういうとロニーくんはさっと画集をもって、反対方向を向いた。


「え?あ、そうなんだけれど、大丈夫よ!私、こう見えて力あるの、全部持てるわ」


「そんなこと言わないでください。せっかくなので、お手伝いさせてください」


なんていい子なの!?見た目が天使で、それでいて性格もいいなんて!なにこの絶滅危惧種は!私は感動でフルフルしてしまった。シーナなんて「嘘っ……ありえない。セシリア様の弟が性格いいなんて」と呟いている。こらこらこら!聞こえるよ!?


「ありがとう。嬉しいわ」


「いいえ、こちらこそ嬉しいです。こんなにきれいな先輩方と知り合えて」


ぐっ!?なんてことなの!?お菓子をあげたくなっちゃう!このときめきは、エレーナがピンクの小熊を拾ってきたときくらいのキュンだわ!飼いたい、愛でたいという欲求が湧いてしまう。


私は同じように悶えるシーナを連れて、ロニーくんに手伝ってもらいながら司書さんのカウンターへと向かった。本を借りると、「それではまた入学後に」と言って颯爽と去っていった美少年は、まるで小説のワンシーンのように素敵だった。


あぁ、どうかレヴィンがロニーくんみたいな良い子と友達になって、性格を軌道修正してくれますように!


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