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悪役令嬢はシナリオを知らない(旧題:恋に生きる転生令嬢)※再掲載です  作者: 柊 一葉
未書籍化部分

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カウンターが一番効く

私が教室に入ろうとすると、フレデリック様が廊下で待っていた。


うわぁ、この展開はさっそく予想外だわ!あとで特別室に呼び出して、ヴァンやエリーを交えて冷静な話し合いをしようと思っていたのに……。だってさすがに今この場でお断りします、なんて言えないわ。あぁ、フレデリック様が王太子でさえなければ……!


「マリーが考えていることくらいわかるよ?でも私にだって、君と一緒に過ごす権利はあると思うんだ」


何その謎の権利!私はいつも通り、平穏無事に過ごしたいんですフレデリック様!

でも麗しい王子様は、くすっと笑ってとんでもないことを言い放った。


「君が今、もし嫌だと言ってもそれは断ったことにはならないよ?私のことを知らないままなんだから」


どういう理屈なの!?ってゆーかキャラ変わってない?フレデリック様ってこんなんだっけ。相変わらず自分の都合しか押し付けないけど、ここまで無理強いする人だったかしら……。会話が噛み合わなさすぎて、怪しげな新興宗教にて勧誘されてる気分だわ。


「ね、だから今日から一緒に授業を受けよう。マリーの隣に座らせてもらうよ」


「え……」


そういうとフレデリック様はにっこり笑って教室へと入っていった。そして、私がいつもサレオスと一緒に座っている席に向かう。


教室に入ると、まだクラスの半数程度しか席についていなかったけれど、みんなの視線が私に集中した。あまりの緊張感に足が止まってしまう。


「さぁ、マリー。こっちに」


「……」


拒否権がないことを悟った私は、無言でフレデリック様のところに歩く。

テーブルと長椅子は5人掛けで、いつもだいたいサレオスと私、クレちゃんが3人で座っていたのに私はそこに一人で押し込まれてしまった。


「これで一緒に授業が受けられるね」


ぐいぐい詰めてくるフレデリック様に押され、私はぎりぎり1人分を空けるくらい奥に追いやられてしまった。

これじゃあサレオスが来ても座れるかわからない。でも私の心を読み取って、フレデリック様がまたにっこり笑う。


「自由席だからね?どこに座ってもいいはずだ。まだまだ席はあるし大丈夫だよ心配しなくても」


くっ……!何て嫌味なの!?私とサレオスを引き裂く気なのね!こっちが必死で付きまとっているのを知ってるくせに!


サレオスが来てこの状況を見たら、何も言わずに他の席に座っちゃうのかしら。そうよね、恋愛小説みたいに「俺のマリーに手を出すな!」なんてことは言ってくれないわ。


それに、一番後ろの席はあと2テーブルもある。10人は座れるし、なんなら寝転べるし、むしろ一人でのんびり座れると思うかもしれない。


「王太子だってことは忘れてくれて構わないよ。私はマリーの心が知りたいんだ。これからは私が一番に君に寄り添えたらと思っている」


ご機嫌で話しかけてくるフレデリック様だけれど、まったく話が耳に届かない。マリーの心が知りたい?荒んでますよ、どこのダンジョンかってくらい荒れています。

私は俯いたまま、一言も返さなかった。不敬で処罰されるならもうそれでいいわよ。


あぁ、カチューシャのダメージで耳の後ろあたりが本格的に痛い。もう、いかにそれを和らげるかだけを考えるわ。


私が拗ねてぶすっとしていると、教室の入り口の方がざわついたのがわかった。ちらっと目をやると、そこにはサレオスが立っていた。こっちを見て、少し驚いた顔をしている。


あぁ……顔色が元に戻ってる。よかった、昨日は疲れがはっきり見てとれたけどちゃんと回復したみたいね。私はほっと胸をなでおろした。


「さぁ、どう出るかな?」


フレデリック様が余裕の表情を浮かべてる。


「どうも何も、サレオスは……」


くぅぅぅ!

そりゃ私が助けてと言えば助けてくれるんだろうけれど、さすがに隣国の王子様を巻き込むのはダメだわ。これは私の問題だもの、それくらいわかる。

今となってはもう、彼の定位置を私が奪ってしまっていることが申し訳ない。


「マリーは自分を放っておく男でも好きでいられる?」


きぃぃぃ!その余裕の笑みがイライラするー!私はフレデリック様に恨みがましい視線を一瞬だけ送り、そのまま机の方に向き直る。


そしてしばらくの間ややさぐれモードで俯いていると、左の肩にポンと手が置かれた。


「え?」


見上げると、長椅子の背もたれをサッと跨ぐサレオスがいた。私の左、いつもの位置に体を入れた彼は、まるでフレデリック様の存在が何でもないようにそのまま座った。


「「え?」」


私もフレデリック様も、驚きのあまり声を上げた。


…………普通!


ものすごく普通に座った!なんなの!?四隅の席に対する執着がオセロくらいすごいの!?


クラス中の視線を集めているのに、平然としているのもすごい。え、王子様だから見られるのに慣れているとはいえ、どういうメンタルの強さなの!?


それにあまりに狭いから、私の左肩と彼の腕が当たっている。なにこれ、完全に重なってるのに何も言わないのがちょっとキュンだわ!


はっ!また煩悩が!いけないわ……でも何て声をかければいいのかわからない。


私がじっと横顔を見ていると、サレオスがそれに気づいて「ん?」と眉を上げた。


「サレオス、あのね……?」


話しかけようとして気づいた。一体、何を言えばいいの?「いつもとちょっと違うんですが、どこでしょうか?」みたいな感じで間違い探しを始めればいいの?ダメだわ、ちょうどいい言葉が思い浮かばない……。


混乱して言葉が続かない私の髪を、サレオスは何気なく指に絡ませる。今日はエリーに巻いてもらったからくるくるで、指に巻きつけやすいのかしら……?


あれ、近くで見るとちょっと眠そう。昨日、あれからすぐに眠らなかったのかしら?それともまだ疲れが抜けていないの?


私がじっくり観察していると、サレオスはいつものイケボで話しかけきた。


「なんだか今日は狭いな」


「「え?」」


また私とフレデリック様の声がかぶる。あ、うん、狭いことは気づいたんだ。フレデリック様がいることにはノータッチなのに。


「狭いならよそに座れば?」


フレデリック様がとげのある言い方をする。


「そうだな」


サレオスが何か考えている。


ちょっとぉぉぉ!誰のせいでこんなに狭くなってると思ってるのよ!?フレデリック様のせいなんですけれど!?だいたい今あなたが座っている席は、クレちゃんの席なんですけれど!?


私は座ったまま、フレデリック様の方に上半身を向けて抗議しようとした。キレる直前だ。


なのに。


その怒りは、サレオスの行動によって一瞬でどこかに飛んで行ってしまった。


「マリーがこっちに来ればいい」


「ひゃっ……!?」


急にお腹に回ってきた腕が、私の身体をぐいっと強く引っ張り浮き上がらせた。そして気づいたときにはストンとサレオスの膝の上に乗せられてしまっていた。


「「きゃぁぁぁぁぁ!!!」」


クラスの女子から黄色い悲鳴が湧き上がる。


「ちょっ……!?」


一瞬にして血が沸騰したかのように赤くなった私は、どうにか膝から降りようとジタバタするがしっかり捕獲されていた。


「サレオス!やめろ!マリーになんてこと……!?」


あぁ、空気の読めないフレデリック様までオロオロし始めた!サレオスなにしているの!?私は恥ずかしすぎてもはや悲鳴も出ない。

あなたはかっこいい王子様なのよ!?私を膝に乗せたりなんかしたらダメよ!


「フレデリックが狭いと言ったから」


「ちがう!狭いと言ったのは私じゃない。おまえだ!」


「そうだったか?」


「あぁもう!私が端に寄ればいいんだろう!?だから今すぐマリーを放せ!」


「そうか」


フレデリック様はすぐに端に寄り、私たちと距離を開けてくれた。でもそのとき、私の耳元にそっと低い声が響いた。


「このまま授業を受けてもいいが、どうする?」


ひっ……ひゃぁぁぁ!!!無理ィィィ!死んでしまうぅぅぅ!!


わ、私は今、頭から煙を出しているんじゃないかしら……!どうにかサレオスの体を手で遠ざけようとして、「降ります」と意思表示をした。そこで私はようやく座面に降ろされた。


「っ……!!!」


何この無自覚イケメン攻めは……!圧倒的な破壊力とキュンに悶える私は、令嬢の仮面をかぶっていられず、両手で顔を覆い机に突っ伏してしまった。


無理よ無理!トゥランに行ったときも思ったけれど、この過剰接触でどんどん追い込まれて行っているのよ!好きすぎて死んだらどうしてくれるの!?


突っ伏したまま、ちらりと左を見ると、サレオスはもう平然としていて本を読みだしてる。


あぁ、ダメだわ。私をキュン殺ししそうになっているという自覚がない。おかしなことをしたという意識がない。ある意味フレデリック様よりも空気が読めない人なのかも……!


そうこうしているうちに、先生が入ってきて全員が着席する。


今日は初日ということで、この後引き続き世界地理の講義があるだけで終了だ。


大丈夫よ、大丈夫よマリー。落ち着いて。今までだって、度重なるイケメン攻めを乗り越えてきたでしょう!?こんなところでキュン死にするわけにはいかないのよ!大切な思い出にして、あとは今をがんばって生きましょう!


そう、心に決めたのに。


ホームルームの途中で、左手がふいに捕まれた。


「なっ……!」


当たっただけかと思って指を少し引いたら、追いかけるようにして手をしっかり握られてしまう。


うわぁぁぁ!!!授業中ですけれど!?サレオスさん、なんで手を握っているのでしょうか!?淋しくなったの!?どうしたの!!!


ほんのちょっと、ほんのちょっとだけ全身がビクッと跳ねたけれど、隣のフレデリック様はおろか誰にも気づかれていない。


ギギギギ……っと音がしそうなくらいのぎこちなさで左側に顔を向けると、机に片肘をついて眠っているサレオスがいた。あぁ、寝ている顔もかっこいい……ってそうじゃない!


寝てる!?寝てるのね!?こんなに私を動揺させておいて寝ているのね!?


あぁそっか、疲れてるんだやっぱり。


無理して飛ばして帰ってきたりするから。ルレオードで別れるとき、無理なら会いに来なくていいって言ってあげればよかったわ。


ううっ……!どこまで好きにさせればいいのこの人は!?もうキュンが大渋滞よ!


こんなことで今日からまたやっていけるのかしら?


だいたい、私とサレオスの関係って何?キスはしたけれど、やっぱり私が一方的に好きなままなのかしら!?


キスしてもいいくらいには好かれているかもしれないけれど、でも私の「好き」の量とサレオスの気持ちは絶対吊り合わない。天秤になんて乗せたら、一瞬でズガンッ!って私の方の(はかり)が落ちるわ。


ちらりと横を見れば、完全に寝入っているサレオスがいる。

もうダメ、想いの量が違っても好きだから離れられない。でも聞けない!あぁ、どうすればいいの!?クレちゃん助けて!


結局この日、午前中すべての時間でサレオスは眠っていた。私がもらったプレゼントを髪につけていたことに気づいたかどうかはわからない。


でもまぁ、「かわいい」とか「きれい」だとか褒め言葉を量産する人じゃないってことはわかっているから、一緒にいられただけ幸せだと思うことにした。


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