影の王
人類。それは賢く強大であり、破壊と創造の申し子。
他生物を捕らえ食し、また管理し、神を差し置いて地球の支配者たる振る舞いをしている。
……だが、違う。支配者などではない。
真の支配者、影たる王はそうまさに、暗がりの中に潜んでいるのだ。
愚かな人類はそれに気づくこともできない。次元が違うのだ。
たとえ、視界に入れていても、その心の深層を知ることはできないのである。
影の王。それは……
『はっ、まーた人間のやつが山登りに来たよ。
何が楽しくて、あ、あ、まあ、どうでも、あ、あ、またく、く、くる!
きたきたきた、あ、いいのが、ふぉ、フォォオオオオウ!
あはん、あはっ、あは、あはあはははははは!
んふぅ! ふぅふぅ! あ、あ、ああああぁぁぁぁぁん!」
菌類。
推定150万種類。繁殖行為というものに快感を伴うのはどの生物も同じ。
山道を外れた林の奥で、そのキノコは今日も絶頂に達し、胞子をばら撒いている。
人間には聞こえないがキノコ、カビ、酵母といった菌類たちの
喜悦の声がこの地球を覆っているのだ。
己の身が朽ち果てるまで快楽に溺れるその様を、王と呼ばずに何と呼ぶか。