表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

恐怖の本棚

1円



 それは、ある日の仕事帰りのことだった。俺はその日、仕事のことでひどくイラついていた。


「クッソ、あの主任!自分がやらかしたくせに、俺に責任全部なすりつけやがって!ああ、ムシャクシャするっ!!」


 あまりにもイライラしすぎて、その辺の電柱や壁を蹴飛ばしていた、時。


「…お?何か落ちてる。金か?」


 蹴りを入れようとした電柱の側に、キラリと光るものが落ちていた。その光るものを拾うとそれは…


「チッ、1円かよ!こんなの腹の足しにもなんねーよ!!」


 俺はその拾った1円を思い切り道に叩きつけ、革靴でグリグリと踏みつけた。


「せめてそこは100円だろ。1円とか金じゃねーよ!」


 その踏みつけた1円にペッと唾を吐き、舌打ちしながらその場から離れた。




◼◼◼◼




 翌日の朝。出勤時にあの1円があった電柱側を通ったが、その1円は無くなっていた。


「唾吐いたあの1円を持っていったやつがいるのかな?きっしょ!」


 そう思いながら、俺は会社へと向かった。




 そして、その日の夜。


 仕事帰りに例の電柱側を通ると、昨日俺が1円を叩きつけた場所にまた1円が落ちていた。


「また1円かよ~。いらねーって言ってんだろ!?」


 俺は落ちてる1円をまた革靴で踏みつけ、暴言を吐いた。


「チッ!どこのどいつがボロボロボロボロ1円なんて落としてるんだか。いや、邪魔臭くて捨ててんのかな?1円なんて何の価値もねーもんな」


 そう言いながら、俺はその1円を石蹴りのように蹴りながら家に向かった。けど、その途中の下水の穴にぽちゃんと1円を落としてしまい「まあいいか」と言って、俺はそのまま家に帰った。




 それから次の日。また、次の日の仕事帰りの時にも、1円はいつもの電柱の側に何故か1枚だけ落ちていた。俺はその1円を見つける度に「また落ちてやがる」と舌打ちをして、途中の道まで足で蹴って帰った。


 そんな日が4日ほど続いた頃。


「…やっぱ今日も1円が落ちてやがる。さすがに毎日、おんなじところに1円が落ちてるのは気味わりぃな…」


 その日の仕事帰りにも、いつもの電柱側に1円が落ちていた。気味が悪くなってきた俺は、その1円には何もせず家へと向かって歩いた。

 すると。


「うわ、また1円が落ちてやがる…」


 少し歩いたところにまた1円が落ちていた。俺は謎の恐怖を感じ、その1円を無視して早足で歩いた。だが、また少ししたところにも1円。また少ししたところにも1円。また1円…



 1円…


 1円1円1円…






1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円1円

 


「うわあああああああ!!!!」


 まるで1円たちが俺のことを追いかけるように、俺が進む先に何十枚何百枚何千枚何万枚と1円が落ちていた。俺は怯えながらその1円たちから逃げるようにして走るが、()()()を踏み、ずるっと思い切り道の真ん中で転んだ。


「くそ!こんな時に何だ─よ…」


 体を起こしながら、俺は踏んだものを睨むようにして足元を見た。すると─



 じゃらっ…



「ひいっ!?な…何だよこれ!!!?」


 狭い住宅街の道に、敷き詰められるようにして1円が並んでいた。俺の走ってきた道から、俺が帰る道までびっしりと。


「も、もう勘弁してくれぇっ…」


 俺が声と体を震わせながら立ち上がろうとした、時。1円が束になり手の形のようになると、俺の足を捕まえて再び転ばせた。

 すると、目の前の道にびっしりと敷き詰められた1円たちが、まるで海のように大きな波を作り、じゃらじゃらと音をたてながら俺の方に向かってきた。


「すみませんすみません、俺が悪かったです。だから許し───」




 じゃらじゃらじゃらっ!!!!!














『速報です。昨夜9時頃、○○県○○市の住宅街で、男性の変死体が発見されました。男性の遺体の口内に何故か大量の1円が詰め込まれており、死因はその詰め込まれた1円により窒息死したかと思われ───』



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] めちゃくちゃ印象に残るお話でした。 ホラーなのにタイトルに惹かれてうっかり読んでしまった! ラストがやっぱりホラーだった(^▽^;) でもグイグイ続きが気になったのです~っ 昔、同じ勤め…
[良い点] 1円玉、まず拾いませんよね。通貨の最低単位を10円にすれば(欧州の多くの国が5セント以下を無効扱いしている)、1円玉も安心して引退出来ると思いますが、そんな気持ちの裏をかいたお話でした。 …
[一言]  万札に直せば、叩き殺すこともできない厚みだったかも。  一円、恐るべし!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ