Ep.31"テロの時間"
拠点へ戻る道すがら、魔術について話を聞く。
俺自身も魔法のような効果のあるアイテムや攻撃は見たことがある。しかし魔術系スキルは今まで一度も見たことがなかった。
キャラクリの時にナナさんがゲームの世界に来てすぐに使えるようになる訳では無いと言っていた。個人的にMPの感覚に慣れる事が重要なのだと推測している。
「それでどうやって魔術を使えるようになったんだ?」
「アンタがどうしてもって言うなら教えてあげなくもないけどぉ?」
「ギャル子、ウザイ」
「誰がギャル子よ! 私はメグミって名前があるのよ!」
「それでどうなんだ?」
「おいっ!」
答えたのはメグミではなくえんじぇる☆さん。
「魔術のスキルを覚えるには師匠というか教えてくれる人を見つける必要があるの」
「師匠?」
「えぇ。一番簡単な方法は学園に通って授業を受けること。これさえ行けば基本的な魔術は網羅できるわ」
「学園」
「そう。ワンダー魔術学園。2つの街ワンダーにある学校よ」
プレイヤーにとって2つ目の街『ワンダー』。"魔術都市"とも呼ばれるこの街はその名の通り魔術の研究、教育が盛んに行われている。この国にいる魔法使いを目指す人はまずこの街で暮らすことを推奨されるくらいには魔術特化の街である。
そんな街の中に聳え立つ尖塔。それこそがこの街1番の名物でもあり熟練魔法使いから魔法使いの卵までが集まる場所『ワンダー魔術学園』だ。ここではありとあらゆる魔術形態の研究や授業を行っている。在野にも熟達した魔法使いは存在するがそういう人たちは閉鎖的で独自の研究を行っているため師事することは難しく、最も手っ取り早く魔術を覚える方法が学園に通うことなのだという。
「ちなみに授業は好きな物だけを受けられるから、覚えたい魔術系統の授業を受ければいいわ」
「そういうギャル子はなんの授業を受けたんだ?」
「全部よ」
ぜんぶ。
「頭悪いな。お前」
「ふーん。これでも攻撃魔術の授業でプレイヤー首席ですぅ」
すご。ハイスペックガールじゃん。
「実際メグミちゃんはプレイヤーの中では最も多彩な攻撃魔術を使えるのよ」
「小悪魔は?」
「えんじぇる☆ちゃんです! 私は治癒魔術の授業だけですね」
「ちなみにこいつ現地人含めても首位のバケモノよ」
えぇ。スーパーハイスペックガールじゃん。
「各授業の順位は公式ホームページで毎回発表されてるわよ」
「なんでやねん」
「順位発表があった方がやる気出るでしょ。って運営が言ってた」
今の時代それはいいのか? まぁ俺は気にしないのだが。
そんな風にだべっていると拠点となるキャンプ地に到着した。カーマインから布代わりの大きな毛皮を受け取りテントを作っていく。……と思ったのだが残りの木材を集めるのを忘れていた。深く森に入ってまたエンカウントするのも嫌なので手ごろな場所で木を切り倒す。ついでに幹に巻き付いていた蔓も回収する。引っ張ても切れない。案外丈夫だ。若干余裕をもって木材を収集したら制作に取り掛かる。途中で変えるかもしれないが自身が寝てすごす場所になるのでいい物を作りたい。よってマニュアル制作を行う。一覧から簡易テントを選択。……布を用意しろと言われた。毛皮じゃダメか? ダメか。そうか。あ、簡易テント(ワイルドver)ってのがある。ふむふむ。これなら毛皮で作れるのか。ならこれでいいや。
木材を地面に打ち込み布を被せる。四方を張りながら地面に固定。完成だ。ワンポールテントと呼ばれるタイプのものだ。メリットは風に強く設営しやすいこと。デメリットは自立しないこと。
中で火を扱って燃やしたくはなかったので作業スペースはテントの外にある。テントは居住用といったところだ。
日が暮れる前に夕飯の準備をしよう。手元にあるのは森で拾った山菜と果物、カーマインたちから貰った猪の肉だけ。連結猪というモンスターのドロップ品らしい。その名の通り五匹が連なって走ってくるんだそうだ。
手元の木材で簡単なフォークとナイフ、スプーン、菜箸、お皿を作る。このくらいならすぐに完成する。いい感じの厚さと大きさの石を拾って洗う。フライパン替わりの石板にするのだ。
拾ってきた石を火にかける。その間にお肉を柔らかくするため筋を切り、フォークで滅多刺しにする。お肉にオシの実とコショウをまぶす。オシの実は土壌の塩分を吸収し、果実に蓄積させる性質があるそうだ。そのため塩の代わりになるほどしょっぱいのだとか。石が温まってきたら油代わりに肉の脂身を塗りたくる。そこにお肉をドーン! ジュウジュウと聞くだけで美味しいと分かる音色を奏で、発生する煙は鼻腔をくすぐり空腹を刺激する。これぞ飯テロの時間の真髄だろう。 焼けてきたらひっくり返す! 油が跳ねないように注意する。
焼いている間に付け合せを作ろう。と言ってもその辺の山菜サラダと果物の切り身だけだが。肉が焼けたら一度プレートに移し大きな葉っぱで蓋をする。アツスギという木らしい別に杉な訳では無い。どちらかと言うとバナナの葉っぱのような見た目だ。どうやらこの植物は熱を反射する性質を持っているようだ。余熱で火を通すには誂え向きな植物だ。
葉っぱをとりフォークでお肉の硬さを見る。……うん。ウェルダン。一番好きな硬さだ。付け合せと共にお皿に移して完成! 連結猪のステーキ〜山の恵みを添えて〜と言ったところか。香りも良し。見た目も良し。辛抱ならん。
「「いただきます」」
……ん? 我が妹よ。君の分は無いぞ。俺が食べる分だけだ。
手を伸ばすでない! こら! あ、アキャリ! 皿を持っていくな! マリリンさんナズェミテルンディス!! ギャル子! 助けろ! やつを止めろ! え、その肉くれたら? それは助けるとは言わないぞ! 略奪と言うんだ! オンドゥルルラギッタンディスカー!! 元から仲間じゃないとか言わないでくれ! あ、アキャリが森に逃げた! オッペケテンムッキー! ムッキーいないけど!
次回「Ep.32"お宝ちゃん"」
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