2. 時間跳躍
「つまんない。」
話を読み終えたタカハシはそう言った。
「いつも同じパターンなんだよな。なんていうか、結末がない。」
「そうかなあ。」
と、平静を装い俺は応えた。内心腹が立っている。
「あとさ、フォロワーを増やすために、人気のある転生モノを書こうとしたんでしょ? なんで、こうなるのさ。」
ぐうの音も出ない。
確かに読者は、楽しむために小説を読む。
沢山ある他ジャンルを含むエンタメの中から、数ある文章の中から、小説の中から選んでもらわなければならない。時間の過ごし方の余白を、取り合わないといけない。
「でも、今の俺には、こういうのしか書けない。」
「ふーん。」
「やめたら?」という出かかった言葉を飲み込み、そう言いたげな雰囲気で、タカハシは質問を投げかけてきた。
「じゃあ、俺とお前の今の状況、どうすればこれから面白くなる?」
試されている。
「そうだな――」
その質問の背後には「才能ないよ。」が待ち構えている。
嫌なプレッシャーが重くのしかかる。
「まず、空間に裂け目ができて、そこから全裸の美少女が出てきて、その場に倒れ込んでだな――」
タカハシの軽蔑するような冷ややかな目。
(まずい。どうにかしないと。)
「――で、どっちが先に襲うか揉めて、俺がお前を殺しちゃう。」
嘲笑の予想に反して、タカハシは激怒した。
「俺が真剣に聞いてやってるのに、馬鹿にしてんのか!」
俺のTシャツの胸ぐらを掴み、荒々しく持ち上げた。
何も言えない俺に「オイ!」と繰り返す。
(なんでこんなこと、されなきゃいけないんだ。俺の趣味で、俺の勝手だろ。)
冷静だった俺にも、タカハシの怒号にあてられてか、段々と怒りが湧いてくる。
「なんとか言ってみろよ!」
「うるさい!」
俺は、ありったけの力で、タカハシを押しのける。予想外だったのか、タカハシは、体制を立て直すことができず、バランスを崩し後ろに倒れそうになった。
そこから、シーンが、スローモーションに映る。
タカハシの後ろには、机があり、その角にタカハシの後頭部が当たり、倒れた後頭部からは血が流れた。息をしていない。
目の前の光景が現実として受け入れられない。
真っ当な現実が、グニャリと歪んだように感じた。
ハッ、と気付くと、何事もなく床に座るタカハシは言った。
「つまんない。」
◆
(タイムリープ、したの、か?)
「いつも同じパターンなんだよな。なんていうか、結末がない。」
見ていたタブレットから顔を上げ、タカハシが言う。
(まさか、自分の死ならまだしも、他人の死がトリガーになりうることなんてあるのか?)
「おい、どうしたんだよ? そんなにショックか? これ、そんなに自信あったの?」
「いやっ! 何でもない。ちょっと考えごと、だ。」
「ふーん。」
(このままいくと、マズイな。)
「ちょっと、トイレ。」
そう言うと、俺は逃げるように立ち上がった。
「ちょっと、待てよ!」
何かを察したのか、タカハシは俺の立ち上がる動作を止めようとした。
「あっ!」
と、タカハシは置いたタブレットに足を取られ、体制を崩した。
違う箇所だが、タカハシは、頭から血を流し死んでいた。
◆
それから、何回、頭から血を流して横たわるタカハシの亡き骸を見ただろう。
何度も、どんなに行動を変えようとも、結果的に、タカハシは頭から血を流して死ぬ運命から逃れることはできない。
そして、俺もこのループから抜け出すことはできない。
自分じゃなく、他人の死、なのに。
これは、罰なのだろうか。ベタな話を書いた。
ベタに逃げ込んだから、こんなベタな状況に陥ってしまったのか。
「つまんない。」