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亡国の悪魔は今日も嗤う  作者: 夏風邪
第一章 魔法学校入学編
13/22

第13話 とある青年の思惑



 ◇ ◇ ◇

 



 絢爛な調度品が飾る室内にて。


 青年は豪奢な椅子に腰掛け、考え事でもするかのように目を伏せていた。

 手に持つグラスの中では濃い赤紫の液体が水面を揺らしていた。


 

「ご報告致します」


 傍に立つ側近の男は、恭しく彼に声をかけた。


「アスファレス国にて、密売組織がひとつ壊滅いたしました。頭目含め成員の過半数が殺害されていたようですが、組織への所属が確認されていた魔導師が数名姿を眩ませたようです。誰の手によるものなのかは不明。現在アスファレス国の警備隊が調査中とのことです」


 側近からの報告に青年は伏せていた瞼を上げた。


「密売の対象は」


「人間です。主に東海、西海の貴族への脅迫や人身売買に多数関与していたようです」


「当件の実行者についてお前の見解を申してみよ」


「僭越ながら。事件直後にアスファレス国警備隊に何者かより一報入っております。警備隊が駆けつけた時にはすでにその場にいなかったようですので、賞金稼ぎの類ではなく、当組織による被害関係者の怨恨によるものの可能性が高いかと。また、殺害されていた成員のうち数名は的確に急所を狙っての刺傷のみということですので、相当殺しに慣れた者による仕業と思われます。以上の点を考えますと、やはりこれは”彼ら”の手によるものではないかと」


「そうか」


 青年は鷹揚に椅子から立ち上がり、大きなガラスが嵌められた窓際に立つ。

 仕草の一つ一つをとっても気品に溢れ、夜の帳を見下ろすその姿はなんとも美しい。


 見た目はまだ青年になりたての若々しさが漂うが、柔らかく携えた微笑と落ち着き払った物腰はまるで百戦錬磨の雰囲気さえ醸し出す。


 側近は知っている。

 青年の姿形と実年齢が伴っていないことを。

 彼に仕えて数十年になるが、その間一切青年の容姿が変わっていないことを。


 果たして彼はどれほど生きているのか。


 《強欲》の称号を持つ青年にそれを訊くほど、側近も命知らずではなかった。



 やや濁した側近の考えを正確に読み取っているであろう青年は、グラスに口をつけ、嚥下する。


 青年は他者に意見を求めることは度々あれど、自らの思考を口に出すことは滅多にない。

 聡明な彼が頭の中にどんな思考を持っているのか、どんな構想を描いているのか、それを従者が推し量ることなど不可能だった。


「あの国の情報は手に入ったのか」


「申し訳ございません。情報機関により調べさせてはおりますが、やはり信憑性のある情報を集めるのは難しいようです」


「よい。あそこには彼の国特有の《古代魔法(アポカリプス)》持ちが複数存在していたからな。そう簡単に情報を得られるとは思っていない」


 青年は口元に緩く笑みを浮かべながらも、さらりと揺れる髪と同じ色をした金色の双眸に確かな思惑を宿す。


「情報が入り次第、余に報告せよ」


「承知いたしました。皇帝陛下の仰せのままに」




 ◇ ◇ ◇

 

 


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