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第8話 ユウ・ローゼンタール

 弟の頭を撫で続ける明理。姉に頭を撫でられる感触が有にとってはとても心地よく、その手に身を委ねていた。有の頭が横にぐらぐらと揺れる。


 すると、冬葉は振り返り、その揺れをめざとく見つける。さっきまでの自分の言葉を否定されたと思い、冬葉は問いかける。


「ちょっとあんた!あんたの物はあたしの物よね!?」


 撫でられる感触が心地良く、冬葉の話をほとんど聞いていない有。そんな有を見て、冬葉はさらにヒートアップする。


「有!あんたの物はあたしの物だし!そのッ....。あんたはあたしの物みたいなもんでしょ!」


 取り巻きの女子2人がきゃーーー!!と叫ぶ。一方、明理に撫でられる感触に5感をジャックされている有は、顔を真っ赤にしながら喚く冬葉を見て、不思議そうな表情を浮かべながら、首を横にゆらゆらと揺らす。


 そんな有を見て、発狂しそうになる冬葉。ちょっとその首振らすのやめなさい!!と冬葉は有の顔に手を伸ばす。有の柔らかいほっぺをむにむにと掴む冬葉。そのまま有の首を固定しようとする。


「ふゆはひゃん。やめへよ。」


 姉の撫でる手の心地良さと、冬葉の手による固定に翻弄されるも、なんとか冬葉に対抗しようとする有。それでも冬葉は、このっ!このっ!と有の揺れを止めようと必死に有のほっぺを掴む。


 事態の複雑さに思い悩んで、目を瞑りながら弟の頭を撫で続けていた明理は、ここで冬葉が有のほっぺを掴んでいる事に気がつく。


 流石に、昔から知っていて、なおかつ冬葉の恋心と思春期ゆえの行動にも明理は同情しているが、弟への実害を見逃すわけにはいかない。


 とはいえ、迂闊に姿を現してしまえば、それこそ大問題になってしまう。どうやって、冬葉を止めようか考えていると、明理はある物を見つけた。それは、冬葉の服の袖からわずかに見える一本の腕の毛であった。


 妙に長いその毛は、有のほっぺをむにむにとするたびに、力の方向へ揺れていた。


 明理は、その毛をバレないように抜き、その痛みによってできた冬葉の隙をついて有と冬葉の間に魔術で見えない壁を作成しようと考えた。


 いざその作戦を実行する明理。自分の腕をするりと冬葉の袖に入れる。そして、袖の内側の外から隠れている部分だけ指を現実化させ、そのまま冬葉の腕の毛をぷちっと抜き取り、床に捨てる。


「いたっっ!」


 冬葉は、すこしちくっとした刺激に気付き、有のほっぺから手を離す。むにむにされ続けた有のほっぺはぷるんとしている。


 服の袖を捲り、痛みの箇所を確認する冬葉。そして、明理は魔術で有と冬葉に見えない壁を作成するつもりだった。しかし、ここで冬葉が叫ぶ。


「あれ!?どうして!?」


 思わぬ冬葉の大声に驚く明理。何かミスをしてしまったかと自身の体を確認するが、ちゃんと透明化できている。


「えぇ!?なんで!!なんでよ!?」


 さらに冬葉は続ける。有は不思議そうな顔で冬葉を見つめ、明理はごくりと唾を飲む。取り巻きの女子2人も心配そうに冬葉を見つめる。そして、冬葉は、虚な目で叫ぶ。


「いないのよ!ユウ・ローゼンタール伯爵がいないのよ!!」





 とある日の夜、冬葉はお風呂の時間にある事に気がつく。いつの間に生えていたのだろうか。周りと比較して、1本だけ明らかに成長している腕の毛がある。


 冬葉も最初はすぐに抜いてしまおうと思ったが、頑丈に肌に張り付く腕の毛。最終的に、冬葉はその毛を抜くのを諦め、まぁ誰にバレるわけでもないし、こんなに長い毛もレアだし、放っておこうという結論に至った。


 それから、お風呂に入る度に、その毛を確認するようになった冬葉。いつしか愛着も湧き始めるようになり、冬葉はその毛にユウ・ローゼンタール伯爵という名前をつけた。


 さらに何日も経過し、冬葉が最初に洗う場所がユウ・ローゼンタール伯爵になった頃、その時には冬葉にとってユウは家族の一員も同然だった。お風呂の時間のたびに、ユウ・ローゼンタール伯爵と触れ合う冬葉。


「いつか本物の有と一緒に...。ってもう!なんで有が出てくるのよ!!有のエッチ!!」


 などと言いながら、大変に楽しい日々をユウ・ローゼンタール伯爵と過ごしていた冬葉。そして、先程、明理が泣いてしまった一本の長い毛こそ、ユウ・ローゼンタール伯爵本人であった。


 冬葉は一生懸命に教室の床を探す。そして、彼女は見つけてしまった。抜かれた事によって、床で丸まってしまったユウ・ローゼンタール伯爵を。


「ユウーーーーーー!!!!!」


 床に手をついて、冬葉は絶叫する。そんな冬葉を見て、目をまん丸にして驚く有識姉弟。


「ユウ!!どうして!?こんな別れなんて嫌よ!!帰ってきてよ!!ユウ!!」


 冬葉は、ひたすらに叫び続ける。お互いに目を見合わせる有識姉弟。


「冬葉!床の毛に話しかけるのは、流石にヤバいって!!」


「そうだよ、冬葉ちゃん!人として何かが終わっちゃうよ!」


 取り巻きの女子2人は錯乱している冬葉を連れて、女子トイレに駆け込んだ。よくわからないが助かった有と、よくわからないが弟を助けた明理は、とりあえず青い空を見上げた。

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