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第6話 くしゃみ

 どこか遠くで流れるアラームの音で、有は目を覚ます。彼は辺りを見回し、見慣れない部屋に少しだけ焦るが、すぐに状況を思い出した。


 昨日は悪魔を召喚して、そしたら魔法陣から死んだはずの姉が出てきて、それで...。有の思考がぐるぐると回る。考えつかれた有は、また元の姿勢に戻り、目を瞑る。


 自身の肌に柔らかい感触を感じた有は、今度ははっきりと目を覚ます。ふと、後ろを向くとそこには静かに眠っている明理の姿が。


 姉の膝の上で寝ていた事を思い出した有は、自身の状況を整理する。さっき肌に柔らかい感触があったという事は...?有は、自身の体を見る。


 そこには、一矢纏わぬ自分の姿があった。思わず咄嗟に局部を隠し、姉の方を見る有。有の目には、すやすやと眠る姉の姿が映る。


 ほっと胸を撫で下ろす有。早く着替えないと、と思い立ち上がるが、明かりの側からどうしても離れる事ができない。制約の所為であった。


 有はフルチンのまま、困り果ててしまった。まだ眠っている姉の方に目をやる。昨日までは、突然のことに頭がついていかず、姉についてじっくり見る機会はなかったが、改めて見ると露出の多い悪魔のコスチュームは有にとってかなり刺激の強い物だった。


 じっと姉の方を見る有。思わず有の「有」も飛び起きそうになる。しかし、有の理性は強かった。血の繋がっている姉で勃起してしまうことを避けたい。そう考えた有の脳は、直ちに脳内でラジオ体操の歌を流す。


 有の脳裏に、思い浮かぶ夏の暑い日差し。早起きして押してもらったスタンプ。そんなノスタルジーが彼の勃起を妨げる。


 額に伝う汗を拭い、なんとか興奮の波を乗り越えた有。さて、どうするか。と考えていると、唐突に寒気が襲ってきた。はっくしょん!とくしゃみをする有。


 くしゃみによって、彼の鼻から鼻水が飛び出す。有は姉の方を向いていたため、その飛沫は明理の服に飛び散ってしまった。狼狽する有であったが次の瞬間、驚くべき光景を目にする。


 姉の服が、鼻水や唾液を吸収していたのだ。さっきまで、それらが付着していた箇所を撫でる有。そこには最初から何もついていなかったかのように乾き、心地の良い感触が広がっている。


 有はまさかと思い、部屋の埃を姉の服に落とす。ほこりが服に付着した瞬間、あっという間にほこりは消えてしまい、もとの状態に戻ってしまった。有はいたく感動した。


 そして同時に、まだ有の鼻の中には残留した鼻水があることを思い出した。姉の服は、どんな物質も吸収する。有は、部屋を見回してみる。なぜか姉から離れられない自分。そして、ティッシュは、部屋の隅。遥か遠くに存在している。


 どんどん心臓の鼓動が早くなっていく有。姉の服を引っ張ってみる有。練り消しのように心地よく伸びるその素材は、鼻を何回噛んだとしても肌を傷つけないだろうという確信を持つ事ができた。


 有の視界は、その服に釘付けであった。そのまま、有は顔を近づけ、ついには鼻を当ててしまった。ちーーーーん。という音が部屋に響き渡る。豪快に出た有の鼻水を、その服は綺麗に吸収していった。


 スッキリとした感情とともに、少々の罪悪感に襲われる有。早いところ寝たふりをしようと顔を上げたその時。有は、これでもかと目を見開いた明理と目があってしまった。


 有は驚き、慌てて逃げ出そうとする。しかし、制約によって有は明理から離れる事ができない。姉とある程度の距離を保った後、恐る恐る振り返る有。明理は、聖母のような笑顔で有を見ていた。


 そして、明理は魔術を使用し、有に冷たい風を吹きつけた。またもや、その寒気でくしゃみをしてしまう有。鼻からはだらりと鼻水が垂れる。


 さらに、明理は、部屋の隅にあったティッシュを魔術で引き寄せる。有は、その様子を呆然と見ることしかできなかった。


 明理はティッシュを自分の真横にある机の上に置く。そして、弟に問いかけた。


「有くん。さぁ、どうする?」


 有の足は震えていた。ふらつく足取りで地面を踏みしめる有。ティッシュで鼻を噛まなきゃ。ティッシュで鼻を噛まなきゃ。ティッシュで鼻を噛まなきゃ。彼は頭の中で何度も繰り返す。


 その内、有の脳内では、またラジオ体操の音が流れ出す。ラジオ体操、蝉時雨、かき氷。彼の中で、夏の思い出が渦巻く。ふらふらと姉とティッシュに近づいていく有。


 ティッシュで鼻を噛まなきゃ。ティッシュで鼻を噛まなきゃ。有はうわごとのように繰り返す。


 そして、有は姉の前に立っていた。


 彼の目には、ティッシュなど始めから映っていなかった。姉の服に顔を近づけ、その服を伸ばす。有を歓迎するかのように、包み込むように伸びていく。そのまま、彼は鼻を当てて、ちーーーん。と鼻を噛んだ。


 あっという間に消えていく鼻水。憔悴しきった有は、そのまま姉の膝の上に頭を置く。ゾクゾクとした表情で有の頭を撫でる明理。有の「有」は完全に勃起していた。


 再会の朝、有と明理は新たな性癖の扉を開けてしまうのだった。

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