つちのこうやのラブコメ (それぞれ別々にお読みいただけます)
超絶寒がりな僕が弱冷房車に乗って登校してると、美少女で寒がりな(ふりをしている暑がりな)クラスメイトと必ず一緒になる。なんか美少女が汗かいているので心配
朝。
僕はゲームのアプリを閉じて、単語アプリを開いた。
最近は便利すぎるので、優等生になるのもたった五秒くらいでできてしまう。
僕を乗せた電車は減速して行った。
そしてゆっくりとホームの狙った位置に止まり……だからこそ、今日も彼女はいた。
クラスでも美少女と話題の松木さんである。
「あ、おはよう。村崎くん」
「おぅ、おはよう!」
あ、また変なおはようを返してしまった。
でもやっぱり女の子の前だからそうなるのもしょうがない。
しかも今からずっと、学校まで二人なんだし。
いや、そもそもなんでそんな美少女と毎朝登校してるの? って話になるよねまず。
そう。それはその通りなはずなんだけど、本当にたまたまなだけなのだ。
まあ強いて言うなら、僕と松木さんは似ている部分があるってことかな。
どういうところが似ているのかっていうと、超絶寒がりな点。
超絶寒がりだと何が起こるのかというと、朝の電車の冷房が寒すぎてやばいということが起きる。
そんな人々のためにあるのが、弱冷房車である。
弱冷房車というのは、その名のまんまで、冷房が弱めに入れられている車両。僕たちの使う路線では、二号車が弱冷房車。
だからその車両に乗れば寒くないはず……なんだけど、僕は超絶寒がりなのだ。
つまりはただの寒がりよりもさらに寒がり。
したがって弱冷房車でもまだ少し寒く感じるので、弱冷房車の中でも一番冷房の効きが弱い、「二号車一番ドア」を選択している。
試行錯誤して一番寒くない場所を見つけた成果である。
そして僕と同じ結論にたまたまたどり着いた、超絶寒がりな方がもう一人。
それがクラスの美少女の松木さんである。
というわけで電車の中に話を戻そう。
「村崎くん、また電車の中で勉強してるのね」
「ま、まあそうだね。結構勉強好きなんだ」
大嘘を言う、勉強をしているところを美少女に見られることが好きな僕。
まあだってさ、朝からくだらないゲームをスマホでしてるってなったら、松木さんもちょっとなあって思うだろうし。
松木さんはいつも難しそうな小説とか、歴史の本とかを読んでいるのだ。
だから僕も松木さんに少しでも寄れるように優等生ぶってるってわけ。あ、物理的にも寄っちゃってるんだけどね。段々と電車は混んできているから。
☆ ○ ☆
私は、今日もほんと、ものすごくドキドキしながら、村崎くんの隣で本を読んでいた。
ってちょっとくっついてるし!
まあね、朝の電車なんて人とくっつくことはあるよ。
でも、やっぱり……それでもね。
っていうかそれは別として……暑すぎる。
これは私が、村崎くんと一緒に登校したいがためにすごく寒がりなフリをしてるのがいけないんだけど。
あ、やばい。
暑すぎて汗が垂れてきた。
どうしよ……村崎くんにほんとは暑がりだってバレたら。
いやその前に、汗の匂いとか大丈夫かな。こんなにくっついてるし。
もう! こんないい子ぶって本なんか読んでないでゲームしたいよお!
でも村崎くんは毎朝単語アプリで勉強をするくらい真面目で努力家。
そんな村崎くんのことを好きになってしまった私は、精一杯、優等生ぶってるのだ。
それにしても暑い!
首にどんどん汗が溜まってるのがわかる。
村崎くんが単語アプリから顔を上げてこっちを見た。
「大丈夫……? なんか調子悪い?」
「ううん! 大丈夫だよー」
だけど私が相当苦しそうにそう言っていたのが伝わっちゃったみたい。
「いや、無理しない方がいいよ。一回降りようよ。汗もなんか出てるよ」
「う、そ、そうかも」
実際暑くて辛かったのは事実で、私はそれしか言えず、そして村崎くんに手を引かれて電車を降りた。
えええええ。手、繋いでるよ……。
いやそこじゃない問題は。
私、村崎くんに迷惑かけちゃってる。
途中で電車を降りることになっちゃって。
謝らないといけないんだけど、頭がうまく回らない。
もしかして本当に体調が少し悪くなってる……?
結局、私はそのまま、村崎くんに駅の救護室に連れていってもらってしまった。
☆ ○ ☆
いや僕はダメすぎだ。
単語アプリに集中なんて全然してなかったんだから、松木さんの方を恥ずかしがらずに見ればよかった。
そしたらもっと早く、松木さんが体調が悪そうってわかったのに……。
僕と同じレベルに寒がりな松木さんが、汗をめっちゃかいてたんだから。
本当にごめん。
僕は駅の救護室で寝ている松木さんに無言で謝った。
「……ん、えっ……と……」
松木さんが起きた。
「大丈夫?」
「う、うん。大丈夫そう。ごめんなさい」
「いや僕がごめん」
松木さんが起き上がった。
汗が結構すごくて、ベッドや制服が濡れている。
「あ、あせ、はずかしい……」
「全然大丈夫だよ。駅員さんも、脱水症状っぽいって言ってた。水、また飲んだ方がいいかも」
「確かにそうかも。ありがとう。ごめんね」
僕が天然水を渡すと、松木さんは控えめに受け取った。
「でもあれだな、僕たち寒がりとは言え、夏だし、脱水症状とかは怖いよな」
「うん。で、でも、私……わたし、ほんとはね、すごい暑がりなの」
「え?」
松木さんが天然水を飲んで、そう言うので、僕はものすごく驚いた。
なんで?
暑がりならあの弱冷房車の中でも一番冷房が効いてない二号車一番ドアは相当辛いよな。
「私……村崎くんと学校一緒に行きたくて、嘘、ついちゃってた」
「……え」
超絶寒がりな僕だけど、なんか暑い。
だってさ。それってさ……。
「私、村崎くんがね、好き」
控えめに、だけど恋している女の子の顔の赤らめ方をして、松木さんは、言った。
☆ ○ ☆
そしてそれから一週間後。
五号車一番ドアに、一枚上着を羽織った僕は乗っていた。
「おはよう〜」
そこに、松木さんが乗ってきた。
まだ付き合い始めたばかりの彼女を下の名前で呼ぶのに戸惑う僕だけど、それでも変わったところはある。
電車の乗る場所が変わったのもそうだし。
「ねえねえ! 今日ガチャ運すごかった!」
「マジで?」
ゲームの話を早速始めるところもそうだし。
「うお、ていうか人今日いつもより多くね?」
「そう言いながら私の胸が当たるかどうかばっか考えてません?」
「考えてねーよ」
なんというか、遠慮のない雰囲気になれたのだ。
それがよかった。
上着を羽織れば、別に弱冷房車じゃなくても寒くないし。
それに、好きな女の子が楽しそうにしているのが可愛すぎるから。
僕は、暑がりな彼女と一緒が良くてたまらないのだった。
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