第5話
おまたせしすぎました。
本当にすいません。
「んじゃまぁ、いつも通り分析から始めるかぁ」
瑞生は欠伸まじりに言った。
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祓魔師は祓った魔物についての報告書を協会に提出しなければならない。
祓魔協会が中心となって魔物に関するデータを集め、彼らについての研究・考察を行なっているからだ。
魔物が出現してからしばらく経つのにも関わらず、魔物に関する研究はあまり進んでいなかった。
これはひとえに、人類が培ってきた科学が彼らに一切通用しなかったからだ。
ほとんどの魔物が実体を持たないため、拘束して実験台にすることも難しい。
そのため、
魔物がどこで、どのようにして生まれるのか。
なぜ突然に現れるようになったのか。
知性を持つものと持たないものの差はどこにあるのか。
ほとんどの実態はまだ明かされていないのだ。
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「メモ取ります」
「おーけー。体長は70cm強、横幅は55cmくらいで、レベル1。被害内容は後で詳しく聞く」
「ここまでOKです」
「単体で移動できない感じするな」
「前の住人についてきたんでしょうか?」
「おそらくな。怪現象のきっかけは環境不適による拒絶反応、あるいはストレスだろう。
他にやばそうなヤツは見当たらないし、犯人はこいつで間違いないな」
「僕もそう思います」
「でも、レベル1にしては力がありすぎる気がするんだよなぁ」
「珍しいケースではありますけど、他にもこういうヤツはいるらしいですよ。
確か協会のブログに書いてありました」
「お前、ちゃんとチェックしてるんだな。よくあんなにつまらなくて長ったらしい文読めるよな」
「祓魔協会が集めたデータを毎日更新のブログに載せることで、祓魔作業の効率化を図ってるそうですから。一般的な祓魔師は毎日あれをチェックして日々の仕事に役立てているそうです」
「いきなりの説明台詞。どうした?」
「ちょっと台詞が続いてたんで、いきなり説明を挟むのはリズムが崩れるかなと思いまして」
「???」
「コイツと同じような魔物を祓ったデータによると、他のレベル1を祓う感じでいいそうですよ」
「なるほどな。
あっ、今の話もメモっといて」
「もう書いてますよ」
春樹は綺麗な字が陳列された手帳を瑞生にみせた。
「バッチリじゃねーか!優秀かよ!メモはこんくらいでいいかな?
細かいところは後で聞くなり、なんなりしよう」
「ですね。じゃあスケッチとります」
そう言って魔物に近づこうとする春樹の肩を、瑞生が掴んだ。
「いや、スケッチは俺がとるよ」
「この前もそう言って止めたじゃないですか。
なぜですか?僕のスケッチが下手くそだって言うんですか?」
「特徴を捉えてて良いと思うぞ、“俺”はな。
とにかく貸せ、少なくとも俺の方が上手くて速いことは確かだろう?」
「瑞生さんにはスケッチに対する情熱が足りてないと思いますけどね」
仕事を奪われた春樹は、サッサッとスケッチを描いていく瑞生を横目で睨んでいた。
魔物は写真に写せるものがほとんどであるため、姿形を記録するのはカメラが主流だった。
しかし、写真で見る魔物と実物は若干違うことが多かったため、現在では殆どの祓魔師がスケッチを行なっている。
見え方が違った原因については「レンズとフィルターが違うから」という考えが広まっている。
機械的に物を捉えるカメラと、心情というフィルターありきで物を見る目とでは、ピントの合う部分が変わってくる。
魔物が持っている威圧感や、それに対する人の恐怖感・緊張感は写真では表現しきれない、ということだ。
「よし描けた。これで資料はバッチリだな」
「ですね」
「じゃあ、祓うか〜」
瑞生は腕を上げて背筋を逸らす。
目付きがかわり、沈んだ光が放って見る者を圧倒する。
普段はだらしなく、様々な面において春樹を頼っている瑞生だが、沢野祓魔相談所の代表祓魔師であることに変わりはない。
彼に実力がなければ、ここはとうに潰れていただろう。
そう、彼は祓うことに特化している。
他のステータスを削り、祓魔に盛り込んだような人間なのだ
ここに来てやっと、祓魔師として、瑞生が本領を発揮する。
と、思われた。
「春樹、頼んだ」
瑞生は壁に身体を預け、ゆっくりと座ってしまった
一章完結は保証します。
が、モチベが上がると、更新頻度も上がると思います。
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