1 なんかもう、あるあるになってきてる
所々書き直しています。
こっちの事情で002と003は削除、そしてヒロインの名前が変わりました。
「…はぁ?」
私の第一声は、これだった。そしてすぐに把握した。あ、私、転生したんだって。
この発端の原因は目の前にいる十歳くらいの少女。綺麗なブロンドヘアは緩く巻かれ、肌は雪のように白い。澄んだ紫色の瞳は意思の強そうな吊り目で、瞳を縁取るように生えた長い睫毛。将来は美人になるだろうと軽く予想できる。
彼女の名前はイルゼミア・オグナーズ、オグナーズ公爵家の長女として生を受け、この国の王太子と幼い頃に婚約した。その事もありイルゼミアの両親はイルゼミアを厳しく育てる。まぁ、よくある話だね。自分の婚約者のために頑張ってきたのに、それが報われないってヤツ。そしてその元凶の一人が今の私、イルゼミアの義妹のアリーヤ・オグナーズ。
ゲームではサポートキャラで、結構重要なポジションだった。序盤から仲良くなっていないと後々が物凄く大変らしい。私は可愛いなぁ~感覚で話しかけ、無意識に貢いでいたので軽く出来た。ただ思うこととすれば、アリーヤは絵を描いた人の性癖が詰まってるんだろうなってくらい。
アリーヤの見た目は黒髪ロングのロリ巨乳、公式では虹色らしい瞳、そしてジト目、イラストを見る限り出てくるキャラで一番小さいと思う。イルゼミアに虐められていた事もあり薄情で他人なんてどうでもいいと言う精神、でもそこでヒロインは頑張るんだよ、いくら無視されようが貶されようが、怒らずに話しかけ続ける。そうするとアリーヤはいくら跳ね除けても話しかけてくるヒロインに興味を持ち始める。…というシナリオ。今思うとヒロインのカウンセリング能力凄っ!あ、今回のヒロインも普通に痛かったよ。難聴系で天然だよ。ゲームプレイしてて結構イラッとしたよ。
「はじめまして、私はイルゼミア・オグナーズ、貴女が私の新しい妹でしょう?…フーン……まぁ、用がないなら話しかけないでね、私、忙しいの」
…私、別にヒロインが好きな訳じゃないけど、イルゼミアが好きって訳でもないんだよね。見た目もだけど、中身も。
「…そう、わかった」
そしてアリーヤは、王子に対しても敬語を使わないと言う、コイツ打ち首になんじゃね!?と言うキャラでもある。
「なっ…!」
案の定、イルゼミアは眉間にシワを寄せた。ですよねー。まぁ、あんまり設定を変えるのもなんだから、ちょっとは設定通りに動こうかな?私もそっちの方が楽だし。
「話が無いなら、私は部屋に戻る」
なんとなくもうこの空間に居たくなくて、私はさっさと自室に戻った。
大きな扉を自分の小さい手で押す。扉が重そうだが案外軽く、キィィ…と音を立てて開いた。部屋の中は茶色で統一されたアンティークチックな家具が置いてあり、子供っぽい物は置いていない。あるのは可愛らしい人形と、綺麗な挿絵が描いてある絵本くらいだ。
人形も絵本も床に放置されたままで、人形なんてグッタリと横たわり、アリーヤが通る度に踏まれ、蹴られていた。絵本も全く読んでいなかったので新品同様、折り目も着いていない。
私は床に放り出された人形をポイっと玩具箱に投げ、ポスっと椅子に座った。目の前には引き出しがついた勉強机。私は引き出しから紙の束をとインク壺を取り出し、このゲームの事を描き始めた。
まず初め、これはスマホアプリでの乙女ゲームであり、私は攻略対象に愛されるヒロインでも皆に嫌われている悪役令嬢でもゲームに全く関係ないモブでもなく、一番微妙な立ち位置であるサポートキャラだ。なのでゲーム通りに動こうか動かまいが、私には関係がない。私は死ぬことないし、悪役である姉はあんなだし、ヒロインだって転生者かもしれない。ハーレムだのヒロインだから愛されるとか言っている阿呆で馬鹿な脳内お花畑な奴であれば尚更嫌だ。これは現実で、絶対に無いって言うのが分かっているならまだ手を貸そうとは思えるが。それにサポートキャラって言ってもアリーヤ以外にもいるから私がサポートしなくてもストーリーは進む…訳無いか。それを断言出来るのは理由がある。
ゲームの終盤に必要なアイテムがあり、それは私が今首に着けているチョーカーに繋がれた鍵だ。これは好感度を一定数上げないと貰う事が出来ない、つまりゲームが進まない。しかもその一定数が結構高く、アリーヤと全く関わっていなかった場合は終盤にまた好感度のレベル上げが待っている。
でもこのゲーム、結構サブキャラやサポートキャラのレベルを上げている人は多かった。きちんと顔があって名前があるキャラには全員に好感度があったし、サブで本当にモブ同然なキャラにもきちんとハッピーエンドがあったからだ、エンドの種類は少なかったけど。
このゲームには攻略対象と結ばれるハッピーエンド。良い友人、もしくは攻略対象のメイドとして一緒にいる友愛エンド。別れ離れになったり、死に別れたりする悲恋エンド。攻略対象が病んでヒロインを閉じ込めたりするメリーバッドエンドの四種類がある。モブ同然なキャラにあったのはハッピーエンドとメリーバッドエンドの二種類。攻略対象によってはハッピーエンドより違うエンドの方が作り込まれていたりする。実際私の推しではメリーバッドエンドが一番手が込んでいて好きだったし。
私の推しはルイと言う名前のキャラだ。白髪に赤い瞳と言うちょっとありがちな見た目だが、一番好きなのはこのキャラだった。だって髪の毛が後ろだけ長かったり、軍服にガスマスク付けてたり、高圧的な態度をしてきたと思ったらヘタレだし、可愛いの塊だわ。しかも帽子を外すと可愛いケモ耳がこんにちは~だ。推すしかない、私の好みを分かってらっしゃる運営さん。課金はしなかったけど、私まだ未成年だったし。何で死んだのかな?と思うけど死因はどうでもいいので割愛するとして…。
ゲームのストーリーは単純に、庶民だったヒロインが光属性を持っていて、貴族へ養子に来た事から始まるシンデレラストーリー…ならぬ、成り上がりの話だ。よくあるストーリーだが、これはもうここまで来るとしっくりくるので良いと思うし、分かりやすい。
ヒロインの名前はメアリー。ストロベリーブロンドのふんわりボブカットに、チェリーブラウンの瞳をしている。髪の毛は編み込まれていて、桜色のリボンが着けていた。これはデフォの容姿であるが、ゲームの中には着せ替え要素もあったので終盤までこの姿のプレイヤーはほとんどいない。但し、桜色のリボンは全部の髪型に着いていた。そのリボンを攻略対象に受け取って貰えるとハッピーエンドの合図だからだ。他のエンドでは受け取って貰えないのでとても分かりやすかったのを覚えている。
あと攻略対象、これに関しては調べる必要がある。何故ならこのゲームは二つに別れているからだ。筋肉ムキムキな脳筋系か、細身の可愛い兼カッコイイ系かで。私は迷わず細身系、ゴツイ人って怖いんだよね。
そして区別するのは簡単、姉であるイルゼミアの婚約者が第一王子か第二王子か…らしい。私はやってなかったので知らないが、脳筋系の方は第一王子が婚約者らしい。義父からは王太子の婚約者としか聞かされていなく、どっちかは知らない。会った事も無いしね。
そして肝心なアリーヤの設定だが、結構チートだ。まず初めに、アリーヤはイルゼミアの父の実の妹の子供。なので関係上従姉妹同士である、あんな義姉は返品したいが。そしてその妹である私の母は持病を拗らせ亡くなり、実の父親は母の後を追って逝ったんだそうだ。なので私は母親の兄であるオグナーズ家に連れて来られた。
そして私がチートだなと思ったのは父親の存在だ。アリーヤの父親は世界で最も最恐と言われている少数派の戦闘民族、アンフィニ族だという設定がある。白銀の髪をしていて、くすんだグレーの瞳を持つ。ちょっとした小国であれば一人で制圧出来ると言われている程の強さだ。それに仲間意識が強く、忠誠心も強いんだとか。どんだけチートなんだろうか、私の実の父親よ。
母親が死んで、それを追った父親がアンフィニ族の者であれば仕方がないと言っていた義父は悲しそうだったが、それでも嬉しそうだった。実の妹がきちんと愛されていた事が嬉しかったのだろう、きっと。
だが知りたいのはここからだ。私にその血が入っているとして、私はチートなのだろうか?アンフィニ族は体術は勿論、魔法だって最低でも人並みに使えるのだ。ゲームでアリーヤは闇属性だったので魔法は使える、使い方知らないけど。
そして鍵の話に戻るが、この鍵は母親の形見だ。舞台である魔法学校の開かずの部屋と言う場所の鍵で、何故母親が持っているのかは知らないが攻略する為の必需品、設定上でしかないので今は放置。開かずの間でボス戦をした後にラスボスが出てくる。ついでに言うと、ラスボスは婚約破棄されて精神的に壊れたイルゼミアだ。
裏話では魔王に操られていたと言う設定があって、後々攻略対象の追加で魔王が出てくる予定だったのだが、私はアップデートされる前に死んだので攻略していない。なので見た目は知らない、でも出回っている話で有力だったのが誰かの兄弟説だった。
魔王だって聞くし、獣人キャラの兄弟じゃないかって。ただ、そのゲームを作った会社は常識が通用しないと言われていて、もしかするともう出ている攻略対象が魔王じゃないか、とかもあった。
このゲーム、ヒロインの選ぶ選択肢が好感度は変わらないのに正解が二つ合ったりして、どれも二面性があったため、ヒロインに魔王が取り憑いているとかいう考察をしている人もいた。言われてみれば納得出来る部分がゲームのセリフにある為、私はこれを押している。
まぁ、とりあえず先にするのはイルゼミアの婚約者の事だろう。
描き終わった紙を引き出しに入れる。フゥ…と一息ついていた時、コンコンと扉をノックする音が聞こえた。
「失礼します。」
開いた扉から入って来たのは私の専属の侍女であるナイツ。キャラメル色のストレートボブにオレンジ色の瞳をした、子爵家の令嬢だ。背は高いし雰囲気は冷たいし目は元々細いからキツい印象が強い。まぁ優しいし、他のメイド達にも慕われているので特に問題は無い。何でも九番目に産まれた事からナイツと言う名前になったらしい、それでも下にはまだ幼い妹弟や従姉妹がいるんだとか、凄いな。
「何?もうご飯の時間?」
「いえ、旦那様がお呼びです。」
「あぁ、お義父サマ…」
私が顔を歪めたのを見ると、ナイツは死んだ目でこっちを見た。
「旦那様を嫌わないであげて下さい。機嫌を損ねた場合、相手するのは私達なので。」
「無理。私はあの奇行、見たくない。」
そう言いつつ椅子から降りる私は優しいと思う。義父であるあの人物はとても苦手だ。暴力を振るってくるとかではなく、ただのかまちょ。妹ラブ♡のシスコンで妹の娘である私を可愛がってくる。別にそれはいいんだけど、愛でかたがキモイ。
「だってさ、ナイツ。お義父サマが私を褒める時、なんて言うか覚えてる?シャーロットのように可愛らしいとか、将来はシャーロットのように綺麗に育つとか。全部お母サマが基準になっているの。しかもお母サマが小さい頃に着ていた服を着せようとするんだよ?その時の鼻の下がどのくらい伸びてたか教えてあげようか?」
「…遠慮させていただきます。」
何処か遠くを見るナイツの手には深紅の可愛らしいドレスがあった、今日は赤いドレスらしい。淡々とドレスを着せてくれている中、私はボーッとある事を考えていた。これからの事とかじゃなくて、単純にナイツの事。私専属の侍女はナイツだけだから、大変だろうなと思ってしまう。
アリーヤの侍女がナイツだけなのは、アリーヤが自分で自分の侍女を決めるからだ。何故ナイツを選んだのか、それはナイツの性格だろう。
アリーヤは擦り寄ってきたり裏で陰口を言うような侍女はいらないと、辞めさせたりなんやらしていた。その中で気に入ったのがナイツだけだったのだ。
実力主義で擦り寄って来ず、明らかに上の身分の私にきちんと怒ってくれる人は中々いない。何とか繋ぎ止め、アリーヤはナイツを侍女にした。アリーヤは利己主義で多少横暴な事をしたなとは思ったが、ナイツはそんなアリーヤを妹みたいに思っている節があった為、快く?受け入れてくれた。
「お嬢様、終わりましたよ、着いてきて下さい。」
いつの間にか着替え終わっており、髪の毛もメイクも終わっていた。クルリと扉に向かってコツコツと歩き始めたナイツの後を追い、私は自分の部屋から出る。
着いたのは客室、アリーヤには友人と呼べる存在がいないので何故呼ばれたのか理解が出来なかった。
「旦那様、お嬢様をお連れしました。」
ガチャリと扉を開けると、見るからに高そうなソファに腰掛けた義父がこっちを見ていた。義父であるこの人物はまだ三十歳前半くらいで、二十代だと言っても信じてしまう程の美形だ。私は好きじゃないが。
王族出身の義父は金髪碧眼の見るからに王子様、これでシスコンとかギャップ凄すぎだろ。私の頬が引きつっているのはきっと見間違えだ、うん。
「いやぁ~、アリーは本当に可愛らしい。将来はきっとシャーロットのような可憐で美しい女性になるよ。シャーロットは淡い色のドレスしか着ていなかったが、アリーは赤いドレスがよく合うね。」
「…あっそう。」
「素っ気ないねぇ~…そんな所も可愛らしいよ、アリー。」
殴りたい、この笑顔。後ろに控えているナイツを見ると、私と同じような顔をしていた。
…本当は自分の子供ではないのに愛してくれる人がいる事には、感謝しなくてはいけないのは分かっている。だが、私が実の妹であるシャーロットの子供だから愛されているに過ぎない。どうしてもそこが引っかかり、拒絶してしまう。ナイツも分かっているからさほど強く出てこない。
だがイルゼミアにとってこれは地獄だったのだろう、イルゼミアは義父から愛情を貰っていないから。実の娘より自分の妹の子供であるアリーヤに溢れんばかりの愛情を注ぎ込んだ、イルゼミアが入る隙も無いほど。そして唯一の理解者である婚約者も取られる、自分より圧倒的に劣ったヒロインによって。
このゲームのプレイヤーは悪役であるイルゼミアを嫌う人は少なかった。逆に婚約者がいる人に媚び売って略奪するヒロインもねって話が珍しく出ていた程。
攻略対象の攻略後、おまけストーリーが幾つか見れるのだが、最初からいた攻略対象を全員攻略するとイルゼミアのおまけストーリーが見れるようになる。最初はいらね~って思ったが、それを見るとイルゼミアを憎めないとプレイヤーの中で話題になった。そして可哀想になって好きなキャラになった人もいる。悪役だから悪いって訳じゃないって教えてくれたものだ。ただ、助けるとなると別。私は同情はしてあげるが、助ける気は更々無い。
そして私の母親であるシャーロットと言う女性、以前絵を見せて貰ったのだが、私とは全くと言って似ていなかった。背が小さかったり、アリーヤが目を見開くと猫目だったりする所はよく似ていたが。まず始め、母親は金髪、父親は白銀髪、この黒毛は何処から来たんだと思ってしまった。
「それで要件はなんですか、お義父サマ。」
「改まらなくて良いんだよ?そのままでも。」
義父が言っているのは敬語の話だろう。言っておくが、実の娘にはバリバリ敬語使わせている。そう考えると義父は私に甘すぎるんだよなぁ…。
「アリーは将来イルゼミアの護衛になってもらうつもりなんだが、その為に魔法の属性を知らないといけないと思ったんだ。」
「…つまり属性を調べろと。」
「その通りだよ。アリーはとても賢いんだね~、まぁ知っているが。にしてもアリーの属性は何かな?アリーは風なんかが~~」
延々と喋り続ける義父を尻目に、私は何だろうな~と考えていた。闇属性は確実にあるが、他にも使える属性がある可能性は無くはない。
この世界では、火、水、土、風、雷、光、闇の七属性ある。封印や毒、氷なんかは別だったり応用だ。そして元の属性が分からない限り魔法の練習はしてはいけない。魔法、魔力を暴走させたりしたら目も当てられないからだ。この世界での暴走は=死、なので早く魔法を使ってみたかった私にとってこの場はとても好都合だ。本当は七歳から十歳までの間に調べるのが普通だが、あまり気にしなくて良いだろう。
個人的には風と雷が使いたい。風が使えたら暑い時に涼しくなるし、ワンチャン空飛べるかも。雷は扱いやすそうだから、私は電気を溜め込みやすい体質でよくバチバチやっていた。仲の良い友人が静電気に浴び過ぎて耐性がついてしまうくらいに。
「イルゼは水属性だからなぁ、土だったら相性良いんだが…火は相性悪いんだよ。…あ、もうすぐかな?」
私が考え込んでいると、義父がそう言った瞬間、辺りは白い煙で覆われた。いきなり部屋に煙が出てきたので焦ったが、煙の中心に人の影が見え、ライブとかでこんな登場の仕方あったな…と思った私は夢が無いのだろうか。
「あぁ、来たね。彼が今回属性を見てくれる人だよ。」
どんどん煙が晴れ、そこにいた人物の姿が見えた。が、その瞬間、私は目を見開いた。そこにいたのはゲームでの推しでは無い、推しでは無いが…。
「俺はルア、さっさと始めるからお前、こっち来い。」
貴族、しかも公爵家にしてはいけない言葉遣いだが、義父は全く怒っていない。この人はかなりの大物なのだろう。…というかそんなの今はどうでも良いんだ。私が言いたいのはこれじゃない、私は…
「ルアさんで良いのかな?…ルアさん、私と結婚してください。」
盛大にプロポーズをした、そして場の空気が凍った。私があれ?と思っているのも束の間、義父は少しの間放心し、泣き始めた。ルアさんはと言うと項垂れていた。
一つ言うことがあるとするなら、私は誰にでもプロポーズする訳では無い、私そんな陽キャじゃない。でも顔を見た瞬間、この人だって思った。
ゲームでの推しでは無い。私と同じ、私にとって見慣れている黒髪。髪の毛に隠れて見えにくいが、私より圧倒的に身長が高いので目元はきちんと見えた。赤いと言う程鮮やかでは無い、多分臙脂色に近い深い赤をした、アーモンドアイの瞳。口元は隠れてよく見えないが、物凄く肌が真っ白で陶器のように滑らかなのは見るだけで分かる。
「ヴゥ…こんなに早くに見つかるなんてぎぃでないぃぃっ!!」
ポ~っとルアさんを見つめていると、義父が何故か泣き叫び出した。見つかるって…私は一体何を見つけたんだ。
私が困惑していると、この場で唯一表情を変えていないナイツが説明してくれた。
「旦那様に口止めされていたのですが…、お嬢様の父上様がアンフィニ族であるのは知っていますか?アンフィニ族は運命の番のような存在がいるんです。但し同性の場合もあるそうなんですが…、お嬢様の番は男性だったようで。」
チラリとルアさんを盗み見るナイツ。というか番設定なんてゲームに無かったよ!?獣人キャラ普通にいたけど。いや、あれはゲームだからなのか…?
「ついでに、獣人族は個人で番を決めます。なのでアンフィニ族の様に決まっていないんです。」
「…ナイツって賢いんだね。」
でもそうすると納得がいく、だからこの人って思ったのか…。
「言っとくが、俺はそれ、受け取らないからな。」
ルアさんがそう言った瞬間、場はついさっきよりも寒くなった、圧倒的に。何故か私も心臓がいきなり締め付けられるような感覚がした。
「お前がアンフィニ族ってのは知ってる。運命の番って存在も知ってる。が、別にそれを受ける義理は無い。実際に運命の番と結ばれるのは約百人中一人だ、多そうに思えるかもしれないが、根本的にアンフィニ族は人数が少ない。確認出来ている限り五十人いるかいないか程度、しかも世界で見てだ。」
「なるほど…じゃあ私がルアさんを落とせば良いんだね!」
「はぁ!?」
ズタボロに言ったのにめげない私が可笑しいのか、ルアさんは素っ頓狂な声で思わずと言う風に叫んだ。
何が可笑しいんだろうか、欲しいなら自力で手に入れなければいけないだろう。無理矢理手に入れても嬉しくないからね。
「何か可笑しい?だって、欲しいなら頑張らないと。そうでしょ?」
私が欲しいのは心であって、上辺だけの関係じゃない。欲しいなら、それだけの努力が必要。それでも無理なら諦めろって事だね。
私が意気込んでいると、泣き叫んでいた義父がブツブツと何か言い始めた。下を見ている為、どんな表情をしているのかは分からないが。
「ヴゥ…また何処かに行ってしまうのか、シャーロットみたいに…」
…分かってたよ!あんたはシャーロットが大切であって、私自身は何とも思って無いもんね!知ってたよ!