家庭教師初日〜魔術訓練〜
「じゃあ早速魔術の訓練に取り掛かるぞ」
「はい!」
「まずは魔力の感知からだ。さっき自分でも言ってたから、魔力の循環は出来るんだろ?」
「まあ、それくらいなら…」
そう言って私は自分の中の魔力を身体中に巡らせる。いつも通り、魔力の循環なら何の問題もなく行えた。
「ほう、やはりなかなか良い魔力量だな。人間の中ではトップレベルだろう」
「私、魔力量だけは凄いんですよね。これで魔法が使えたら…」
「何度も言わせるな。お前が使うのは魔術だ。魔法じゃない」
「ご、ごめんなさい」
「まあいい。次は基礎的な魔術を教えるぞ」
(ようやくだ……。ようやく魔術が……)
ウルドさんは人差し指を立てて、そこに魔術を発動した。
「黒炎」
ウルドさんの人差し指に黒い炎が灯る。無から有を生み出す。原理的には魔法と変わらないみたいだ。
「これは魔術の中でも初歩中の初歩だ。すぐに出来るようになる。まず指先に魔力を集めてみろ」
私は言われた通り、指先に魔力を集中させる。
「よし、そしたら燃える炎をイメージしろ。大事なのはイメージだ」
「イメージ…ですか……」
私はさっきウルドさんが出した炎をイメージする。
「イメージできたらあとは形にするだけだ。そのために言葉を発する。言葉にも力があるからな」
私はイメージを崩さず、言葉を発する。
「黒炎!」
その瞬間、私の人差し指に黒い炎が灯った。
「うまくいったな。やれば出来るじゃねえか」
そう言ったウルドさんの顔は少し笑っていた。
(やった……。私やっと使えるようになったんだ……)
嬉しかった。学校ではバカにされて、悔しくて、でも言い返せなくて。
お父さんやお母さんにいっぱい迷惑もかけた。色々な家庭教師の先生に見てもらったけど、全然ダメで。それでもいつか使えるって信じてくれた。
そんな想いの全てが溢れ出してきて、私は泣いた。涙が止まらなかった。
「はぁーー、ったく。何泣いてんだよ。まだ基礎中の基礎だぞ?この程度で泣いてたら、この先どれだけ泣かないといけないんだよ」
ウルドさんにそう言われた私は急に恥ずかしくなり、一生懸命涙を拭いた。
「な、泣いてないです……」
「……嘘が下手すぎるんだよ」
ウルドさんが何か呟いた気がしたが、よく聞き取れなかった。
「今、なんて」
「俺は喉が渇いたから水を飲んでくる。戻ってきたら再開するぞ。それまでは休憩だ」
ウルドさんは家の中に入っていった。少し口調がきつかったり怖そうな感じもするが、もしかしたらいい人なのかもしれない。
私はまだまだ出てくる涙を懸命に拭った。