家庭教師初日〜午前〜
リビングに降りて朝食を食べたら、動きやすい服装に着替えて庭に出た。庭にはすでにウルドさんがいた。
「はぁ、遅いぞ。お前、自分の立場を分かってるのか?」
目が合ってすぐに嫌味を言われた。その嫌味が当たっているからこそイラッときてしまう。
「わ、分かってますよ!それより早く授業を始めてください」
「人にものを頼むときは相応の頼み方というものがあるんじゃないのか?」
私は笑顔を貼りつけて丁寧に対応する。
「授業を始めていただけませんか、先生?」
「まあ、よしとしてやるか」
(いつか絶対ぶっ飛ばしてやる…!)
私はグッと手を握りしめ、そう誓った。
「それで最初は何をするんですか?」
「まず基本から始めるぞ」
「基本…ですか」
「ああ、お前は魔法を使えないからな」
「そ、そうですね。基本ということは魔力の循環とかでしょうか?」
「いや違う。まずお前には魔法と魔術の違いを理解してもらう」
「魔法と…魔術?」
「ん?ああ、そうか。お前たちは魔術を知らないのか」
「は、はい。魔法と似たようなものなのですか?」
「まあ考え方は間違っていない。だがこの二つは根本が違う。魔術は魔神のみが使えるもので、魔術を人間が使えるようにしたのが魔法だ」
「え!?そ、そうなんですか!?」
「ああ。これでなんとなく分かっただろ?お前が魔法を使えない理由が」
(私が魔法を使えない理由…。まさか…!)
「もしかして私は魔術しか使えないということですか…?」
「ふっ、まあ70点ってところだな」
ウルドさんは鼻で笑ってきた。上から目線に腹が立つ。
「お前は普通の人間だ。だけど特別な力が備わっている。そのせいで魔法ではなく魔術しか使えない」
特別な力か……。まさか私にそんなものがあったなんて。でも実感は全然湧かないな。使ったことないと思うし。
「それってどんな力なんですか?」
「目だ」
「目?」
「目」
「いや繰り返されても。どんな力かを教えてほしいんですけど」
「はぁーー」
ウルドさんのあからさまなため息が聞こえた。この人の挙動がいちいち嫌味っぽい。
「お前が俺たちのことを見抜いた目。あれがそうだ。魔眼と言われている」
「魔眼?魔眼ってあの?」
「いや、お前らにとって魔眼がどんなものかは知らないからなんとも言えないが」
「魔神の姫が持つ、特殊な力を持った十個の目と言われています。元々は十人の神が持っていたとも」
「ふむ...。それは正しいな。魔眼の認識はそれでいい」
「でも、それならなんで私が魔眼を持っているんですか?魔神の姫はどうしたんですか?」
「それは……」
ウルドさんはそのまま黙ってしまった。もしかしたら聞いてはいけないことだったのかもしれない。
「ご、ごめんなさい!言いたくなかったら言わなくてもいいですよ」
「…そのことは時期が来たら話す。今は悪いが聞かないでくれ」
「は、はい…」
その時のウルドさんの目は先ほどまでとは打って変わって寂しそうな目をしていた。