使命
「今回の仕事は家庭教師だ。カースケット伯爵家の一人娘を魔法を使えるようにしてほしいらしい。…って、おい、聞いてんのか?」
「ああ、聞いてた聞いてた。で、どこに行くんだ?」
「やっぱ聞いてねえじゃねえか。ったく、いい加減やる気を出せよ。こっちの方に見えたんだろ?」
「まあ、そうなんだが反応が薄すぎる。…気のせいだったかもな」
「なんだよ、それ。しっかりしてくれよ…」
俺、ウルド=ディスランサーは魔神だ。だが、今はある使命のため、人間のフリをして活動している。今回はその使命を果たすために家庭教師としてやってきた。
「おい、ウルド。お前、また話聞いてないだろ」
こいつはヘイズ=アレイシア。昔からの知り合いで、一緒に行動している。力は俺の方が強いが、頭はこいつの方が強い。
「聞いてますよー。それより、もう着くんじゃないか?」
「何を言って…って本当かよ!やっぱりお前話聞いてるのか?」
王都から馬車に揺られて二時間で、目的地であるカースケット伯爵家に着いた。そもそも俺は家庭教師なんてやったことないので、どうやればいいか分からない。
「なあ、なんで家庭教師なんだ?俺的には戦うだけの仕事とかが良かったんだけど」
「お前、最初に紹介した軍隊を三日で辞めただろ。この国で主な戦う仕事は軍隊しかない。冒険者や魔道士という手もあるが、お前には向いてないだろう。それに貴族の後ろ盾があった方がいいという点で伯爵家の子供の家庭教師を選んだ」
俺に家庭教師なんて務まると思わないが、やれるだけのことはやることに決めた。
「よし、行くぞ」
そんなこんなで俺とヘイズはカースケット伯爵家に入った。
◇
私が戸惑っていると無口な男性が私の目の前で跪き、私に耳打ちをしてきた。
「お前見えるのか?見えるなら咳を一回しろ。見えないなら何もするな」
その質問の意味が分かった私は一回咳をした。咳を聞いた瞬間、彼は立ち上がり「もう大丈夫ですよ」とお父さんとお母さんに伝えた。
「そ、そうか。ミア、立てるか?」
「う、うん」
私はゆっくりと立ち上がる。今見ると、二人の男性は人間の姿に戻っていた。
「急にどうしたの?あんな大きな声を出して」
お母さんが聞いてきた。私は笑顔で答える。
「ち、ちょっと虫がいて、びっくりしたんだよ」
本当は言いたかったんだけど、どこからともなく圧を感じたのでやめておいた。
「あら、そうだったの?もう、驚きすぎよ」
「まあ、何もないなら良かったよ。悪いね、気を使わせちゃって」
「いえ、我々のことは気にしないでください」
オレンジ髪の男性がそう答えた。
「それでは必要な書類は記入していただいたので、早速明日から来させていただきます。あ、それとまだ奥様とお嬢様には名乗ってなかったですね。私はヘイズ=アレイシアと申します。そしてこいつはウルド=ディスランサー。家庭教師は主にこいつが担当しますので」
その後、ヘイズさんとウルドさんは帰っていった。私はもしかしたらとんでもないことに巻き込まれたのかもしれない。
私はこれからのことを考えて落ち込むのだった。