魔法が使えない
この世で最も強くて、最も残虐で、最も恐ろしい生物。それが魔神だ。だが、滅多に人前には現れない。
その魔神が今、私の目の前に二人もいる。
(ど、どうしてこんなことになったの…!?)
◇◇◇
ー三日前ー
「家庭教師さん、もう無理だって」
「……またか。やはりミアに魔法は使えないのか……」
「ごめんなさい。私が魔法を使えないから、お父さんにもお母さんにも迷惑をかけちゃって……」
「気にすることはないさ。ミアだって、その内使えるようになる。お父さんはそう信じてるぞ」
「そうよ。なんてったってミアは私たちの自慢の娘なんだからね」
「お父さん、お母さん……」
私ーーミア=カースケットはカースケット伯爵家の一人娘だ。今まで優しい父と母に愛されて何不自由なく育ってきた。
だが、私は今最大の危機に瀕している。それは魔法が使えないことだ。魔法が使えなければ仕事もできず、生活もできない。要するに、この世界で生きていけないのだ。
これまでに何人もの家庭教師が家にやって来て、私に指導をしてくれた。でも、その全員が辞めてしまった。理由はただ一つ、「私に魔法は使えない」だ。
今私が通っている学校でも当然魔法の授業はある。ただし魔法が使えない私は万年成績最下位だ。そのせいで学校ではいじめを受けている。挫けそうになる時もあるけど、必死に耐えて頑張っている。いつか魔法が使えるようになると信じて。
でも、ついさっき電話がかかってきて10人目の家庭教師も辞めてしまった。もう私はダメなのかもしれない。そう思いかけていた。
◇◇◇
翌日、お父さんが新しい家庭教師に連絡を取って契約を済ませてきたらしい。明後日から来てくれるそうだ。これで11人目。もう後がない。
私は一人娘だ。なら、跡取りは私しかいない。私が頑張らないといけない。私は気合を入れて、二日間過ごした。
◇◇◇
とうとう新しい家庭教師の人がやってくる日となった。若い男の人らしいけど、お父さんが実際に話して決めたらしい。お父さん曰く、「信頼できる男だっ!!」だそうだ。お父さんに見る目があるかは分からないけど、多分大丈夫だろう。
リビングで座りながら家庭教師の先生が来るのを待つ。座ってから少しすると、玄関のチャイムが鳴った。「はーい」とお母さんが言って対応しに行く。ちょうど待ち合わせの時間なので、家庭教師の先生だろう。
玄関先から母と男性の話し声が聞こえてきた。この人が家庭教師の先生だろうか。話し声がだんだん近づいてきたので、こっちに来ているのが分かった。
「どうぞ、お入りください」
「いやはや、ご丁寧にすみませんね」
「……」
入ってきた男性は二人だった。どうやら会話に入ってなかっただけで、最初からいたようだ。
「どうも、ガインスさん。お久しぶりです。今回はお話をお受けしていただきありがとうございます」
「いやー、よく来てくれたね。こちらこそよろしく頼むよ」
こちらの社交的な男性はオレンジ色の髪に黒色の瞳をした、物腰が柔らかそうな人だ。服は貴族が着るような高級なものを着ている。
もう一人の無口な男性は黒髪に青色の瞳をした、少し気難しそうな人だ。ちなみに服はもう一人の人と色違いのお揃いの服を着ている。
「それで今回はこのお嬢さんの家庭教師ということで?」
「ああ、そうだ。今は魔法を使えない。どうにかして使えるようにしてほしいんだ」
「なるほど……。ちなみにお二人は魔法は使えますか?」
「二人とも問題なく使える」
「では、お二人の家系の中に魔法を使えない方は?」
「私も妻もいないと思うが……」
「ありがとうございます。それでは契約にあたっていくつか書類をーー」
お父さんとオレンジ色の髪の男性が契約についての話をしにいった時、ふと無口な男性の方に目をやった。すると、向こうもこっちを見ていたみたいで目が合った。その時だった。
(えっ!?み、右目が……!!)
私の右目が熱くなる感じがした。こんな感じになるのは初めてのことだから、思わず両目とも瞑ってしまう。
少しすると熱は引いていった。それと同時に男の人――おそらく無口な家庭教師さんだろう――の心配する声が聞こえた。
「おい、大丈夫か?」
「は、はい。すみま――」
心配してくれた家庭教師さんにお詫びを入れようとしたその時だった。
「き、きゃあぁぁぁ!!!」
なぜか私の目の前に黒い角と翼を生やした怪物がいた。その姿はまるで物語で伝え聞いた魔神の姿と酷似している。
(な、なんでこんなところにいるのよ……)
「ど、どうしたんだ、ミア!!」
「何かあったの?」
お父さんとお母さんが心配して駆け寄ってきた。すると、お父さんの方にも魔神がいることに気づいた。そして、家庭教師の先生たちがいなくなっていることにも。
ということは今来た家庭教師の男性二人が魔神ということになる。
(ど、どうしよう……)
私はこの場をどう切り抜けるか考えるのだった。
新連載です。今後ともよろしくお願いします!