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最強はオジサン  作者: 日本武尊
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第2章 世界の異変6


船はゆったりと進んでいる。櫂で船を進めているためかなり船速が遅いのだ。風も波もないため、櫂を漕ぐ音と、櫂を持つ男達の掛け声が、音のない海に響いているかの如く聞こえていた。


「若頭!右舷前方に大きな渦が現れました!」


突如、帆柱の見張り台から大きな声が響いた。


「面舵!渦に向かって船を立てろ!戦闘準備だ。全速後退!渦に持っていかれないようにしろ」


見張りに立つ男の声に、セオが素早く反応する。

ローガンも見張り台の声を聞き、右舷前方へ移動し海を見た。300メートルほど先に、直径100メートルを超える巨大な波が巻いているように見える。

海に巻く渦は通常、潮の流れがぶつかり発生するものだが、ここではそれはあり得ない。また、流れを引き込む渦の場合、船を横に向けてしまうと転覆するリスクが高くなるため、船を渦に対して垂直に立てる。さらに引き込む流れに飲まれないよう全力で櫂を漕いで船を後退させるのだ。

セオの指示に応える海賊達の動きは機敏で、速やかに態勢を整えた。しかし、この短い間でも船は渦に近づいているようだ。先程よりもはっきりと渦が見えてきていた。


「若頭、戦闘準備完了しました!いつでもいけます!」


海賊達が両舷に均等に並び、さらに甲板の中央に円を描くように海賊達が配置についた。両舷に並ぶ者を甲板にいる者がいつでもフォローに入れるようになっているようだ。


「まずはこの渦をおとなしくさせるぞ!右舷の5人!流れに逆らって波をぶつけろ!左舷の5人!水流を飛ばして渦を叩け!」


「「了解!」」


指示された者達が、一斉に詠唱を始める。海賊達の最も得意とする水の魔術で相殺するつもりなのだ。


「撃ち方用意!」


それぞれの詠唱が終わり、魔力が集中されていく。多人数での合成魔術は極めて難易度の高いものである。海賊達が日頃から家族のように暮らしているからこそできるのかもしれない。

セオの号令の下、一斉に魔力を解放した。


「撃て!」


不自然に発生した激流が、渦に向かって突き進む。反対側からは鉄砲水のような水柱が渦に向かって飛んでいく。

二つの激流が渦とぶつかり、相殺されていく。


「よしっ!」


セオと海賊達がそれを確認すると声をあげた。


「まだだ。何か来るぞ」


ローガンは何かを感じ取っていた。水中に潜む何かがこちらに向かっているようだ。その言葉に海賊達は身構える。

突如、海が不自然に凹んだ。次の瞬間には、蒼く巨大なものが浮き上がる。


「レヴィアタンだ!」


海賊の一人が叫んだ。他の者達は固唾を飲んでそれを見守って、いや、固まっていた。ただひとり、ローガンだけは船首に向かって歩き出す。腰に提げた黒い剣をスラリと抜き放ち、いつものようにだらりと自然に剣を下げる。


「ろ、ローガンさん、いくらあなたでもコイツはムリだ」


セオの声が背中越しに聞こえるが、ローガンはそれを無視して、目の前の巨大な生物をじっくりと観察した。

海から飛び出している部分だけでも高さ約15メートル、幅は約2メートルを超えている。おそらく全長はげ50メートル近くあるに違いない。顔の部分はドラゴンに近いが、蛇のような身体をしているようである。

海神レヴィアタン。一般では伝説上でしか騙られないような生物であり、“海神”と冠され海で最強の生物と云われている。“オババ”のような一部の魔術師や海賊は、その魔力・魔術により感じ取ることはできるが、実際に見ることはまずないだろう。

船首からまだ50メートルは離れているはずであるが、その威圧感のようなものがローガンにまで届いている。


「噂以上だな」


ローガンは呟く。誰にも聞こえないような小さな声だった。“オババ”やクロエからは聞いたことがあった。また忠告も受けていた。


「さて、どれ程のものか見せてもらおうか」


その声が聞こえたのか、レヴィアタンはその口を大きく開くと、光がそこに集約する。次の瞬間、白い閃光が船に向かって迸る。船に乗る海賊達はその閃光に終りを感じとり目を閉じる者がほとんどであった。

海賊達の間で語り継がれる伝説の海神。その咆哮はすべてを呑み込み、何もかも消し去る死への閃光。海神に出逢えばすべて無に還す。

海賊達は白い閃光が消えると恐る恐る目を開く。そこには、船首に立つローガンと何も変化のない景色があった。


「レヴィアタンはドラゴンと同種の生物のようだ」


剣をだらりと構えるローガンは呟いた。

レヴィアタンの放った閃光は、純粋な魔力の塊であった。ドラゴンも同じような咆哮を放つ種類がいる。それらはドラゴンの中でも上位に位置する種であり、エンシェントドラゴンと呼ばれる種である。

エンシェントドラゴンは古代から神として崇められているものが多く、高い知能とあらゆる言語を駆使すると云われている。


『・・・我が咆哮を消し去ったか。まあよい。そうそうに立ち去れ。此れより先は主らが立ち入る場所ではない』


レヴィアタンは腹に響くような重い声で言った。船に乗るすべての者に聞こえている。初めて聞く者達には、これが脳に直接伝えられている念話というものであるとは想像もできないだろう。


「な、なんだ?レヴィアタンが喋っている?」


海賊達はその声に戸惑っていた。


「お前に俺の行く手を阻まれる道理はない。死にたくなければ大人しくしておけ」


ローガンはレヴィアタンに全く臆することなく言葉を返す。言葉にしなくてもドラゴンの上位種であるエンシェントドラゴンは、人の思考を読み取る力があるためそれを口にする必要はない。


『たかが人間風情が。神器を手にしているからといって我に勝てるとでも?片腹痛いわ。海の藻屑にしてくれる』

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