王子様とポーリンにて (1)
(ヴァン王子視点です)
「あ~ぁっ、なっっさけないたら! あんな小娘に振られるなんて!!」
「母上は、この婚約に反対だったではありませんか。」
ロデンフィラム国のファルーナ姫から、正式に婚約破棄の申し出があったのは、つい数時間前のことだった。
「断るのと断られるのでは大違いよっ! あんな田舎の小国相手に…。国を挙げて盛大な婚約式まで執り行っておいて、我が国の王太子が恥さらしもいいところだわっ!!」
真っ直ぐに飛んできた巨大なピンク色のクッションを、わざと顔で受け止めてから、形を整えて母上のソファーにそっと戻す。
「お気が済みましたか?」
「済む訳ないでしょうっ! この国の王子はあなた一人なのよ!! もう少し自覚を持っていただかないと! あぁ、陛下がご健在だったらどんなに嘆かれることか…私だっていつまでこうして元気でいられるか分からないのに…」
そろそろ泣き出すだろうか。そうすればここから解放してもらえる。
「…今、早く泣けと思ったでしょう?」
「まさか。」
普段、自分は表情がほとんど変わらず、周囲からは何を考えているか分からないと言われているのに…。こんな面倒なところだけ、無駄に血のつながりを実感させられる。
母は、顔を覆っていたセンスを頬の辺りまで下げて、こちらに向けられた視線は信じられないほど鋭い。
今回の、母上の気迫はいつもと違う…。
「…母上には、まだまだお健やかでいていただかないと。」
できるだけ穏やかな笑みをつくって、一歩前に出る。
「私のことを思うなら、殿下にできることはただ一つ。次の宴までに、必ず相手を決めなさい。レリアやルリアルちゃんがどうしても違うというのなら、この中から選ぶのよ。私のおすすめはモリナダ国のイハンナ王女。意思が強くて活発な女性で大国の王妃にはピッタリだと思うの! あとは―――」
「申し訳ありません母上。本日は予定がありますので、これで失礼します。」
リースとの待ち合わせは、直接ポーリンにしたのだが、なるべく魔力を消耗したくないので、馬車で向かう手筈にしてある。
「何ですって?! 今日は空き時間があると執事から聞いたから…! ちょ、待ちなさい! 婚約者の候補リストにだけは目を通してから行きなさい!!」
「…これは、後程じっくり拝見します。」
笑顔で振り替えって一礼しながら、名だたる姫君や令嬢達方の、姿絵と情報リストを左胸にしまって、部屋を後にする。
「そろそろ潮時か…」
今までとはスケールの違うリストの人数に、自分でも驚くほど深いため息が漏れた。




