第2話 怪人の力
ソレは初めて見る生き物の姿だった。
身体は人間の様でありながらも、肌は銀色に輝きを放ち。顔は魚でまるで秋刀魚の様な顔をしていた。
爪は鋭利に尖り、口を開くと鋭い歯が見える。 ソイツは見ただけで化物だと判断出来た。
最初こそヒーローショーか何かのコスプレかとも思ったが、首元にあるエラの様な所から聞こえる呼吸音。
海からゆっくりと出て来る時に、加えていた貝殻をバキリと噛み砕いていた。それだけで、ソイツが造り物では無い事が解って余計に不気味さを醸し出している。
何なんだアイツ――?!
「―――早く下がるんだッ!!!」
明瀬刑事が肩を掴み下がらせようとするが、俺は身体が硬直して動けなくなっていた。
信二が…満ちゃんが危ない…
「くっ、此処を頼みます!!」
「待て小林!!」
一人の警官が飛び出し、砂浜を蹴り信二達の間に割って入る。
「止まれ!! 止まらないと撃つぞッ!!」
「ギョギョ?」
「ひっ…」
大きな瞳が小林と呼ばれた警察官を見詰め――ザシュッ!!!
振り上げた怪人の腕が降ろされたと同時に、ボトリと音を立て地面に何が落ちた。
腕だ。銃を構えていた右腕が、手首からスッパリと切れて砂に落下。
赤黒い血が滴り落ち、小林が気付いた時には自らの腕から手が消えていたの腕だ。
「あっ…あァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッ!!!!!」
「―――小林ぃッ!!」
「マズハヒトリメ」
半魚人の怪人は小林の胸元に手を突っ込み…ズブ…ズブブブ…と心臓を引き摺り出す。
そして、その心臓をニタニタしながら口へ運び、グチュリと音を立てて咀嚼する。
「あっ…あぁ…」
「っ―――!!」
気絶してしまった満ちゃんを抱き締め、信二は放心状態となって座り込んでしまう。
バギュン!!
大きな銃声が反響し、怪人の肩から紫色の液体が飛び散る。
「早く非難するんだ!!」
「ニンゲン…キサマァッッッ!!!」
「ぐぁっ?!」
助けに入った明瀬刑事が怪人に捕まってしまう。
見ると、先ほど撃ち抜かれた傷口も閉じて出血が治まっていた。
俺は信二と満ちゃんの元へ駆け寄り、信二の腕から満ちゃんを受け取ると、信二に肩を貸し起き上がらせる。
今の内に少しでも離れよう…!!
「ニガスカッ!!」
ザバァァァァァァァァァァァ!!!と怪人の腕から水が溢れ出し、俺は満ちゃんと信二を横に弾いてソレを喰らってしまった。
水撃の力は凄まじく、俺は空中へ放り出されてしまいそのまま海へ落ちてしまう。
や、やばい!足を挫いてる!!
何とか顔だけでも水面から出そうと藻搔くが、健闘も空しく光が遠ざかってゆく。
頭が圧迫され、肺の酸素が口から漏れ気泡となって噴き出す。
そして――俺はそのまま意識を海へと手放した。