第14話 組織
夜空を翔ける一筋の光。
それは長浜海岸まで延び、フッと消えてしまう。
「調子はどうですか?」
浜辺に着地した天馬を出迎える複数の影。その中から3人程前に出て天馬を確認して近寄る。
1人はシャツに白衣を着飾った女性。もう1人は強面の警官。
そして最後に出て来た人物の顔を見て、天馬は訝しげな表情を浮かべる。
「ふぉふぉっ、『和道』の仔馬か」
小柄で細身の坊主は、歳のせいか杖を付きながらゆっくりと歩み寄り。天馬を見て皮肉そうに笑う。
「『天導衆』が何故?」
「あら、ごめんなさいね。公安の管轄は天導衆が関与しているのよ。
警察は地域活動として貴方達に頼んだのだけれど、頭の硬いお上は認めてくれなくてねぇ」
「あぁ、えっと…発目さんですね?」
「そうよ、発目 橙子。あっちの顔が怖いのが──あで!」
頭を軽く小突かれ、発目は舌をちょこっと出して横に逃げる。
後ろからガタイの良い警官の格好をした男性が帽子を取って挨拶をして来た。
「聞こえているぞ。 淵東 憲一だ。よろしく」
「淵東さん、お久しぶりです!」
握手をしながら互いに挨拶をして、淵東は天馬の言葉に一瞬驚いて顔を見る。
「おぉ、天馬くんか!! 立派になったもんだ!」
肩をバシバシと叩く彼に、天馬は苦笑で返す。
「呼び立てて悪かったな。何せ、相手が相手だからな」
「───悪魔ですか」
「そうだ。これを見てくれ」
指で示されたパソコン。
画面には様々なパラメーターの様なモノが映し出され、何度も細かく変動して波を作っている。
「これは…まだ生きていますね?」
「あぁ、一応仮死状態と判断はされている。驚くのはその細胞だ」
次に映し出されたのはゲームに出てくるキャラクターの様なロボット。
鎧みたいな姿なのだが、メカメカしく作られたソレに見覚えがあった。
「これはワタシが過去の情報や、悪魔の細胞を利用して造り出したモノ。
名を『アーマードギア』。通称『AMD-G』よ」
アムドと呼ばれた装備には、 大きな酸素ボンベを背負ったバージョン等も描かれていた。
「これを背負って闘うとなると…結構重装備になりますね」
「ソレは試験型。実際、動かしたら負担が大きかったから小型化させたのよ」
「悪魔の細胞をエネルギーに変えて…」
説明の通りだと、ナノテクノロジーを利用した物らしく。
難しい説明も多々ある。
簡単な話し、関節部分にナノテクノロジーで開発されたギアを搭載し、関節部分が動くと中のギアが働き、 負担を軽減してくれるシステム。
悪魔の細胞を取り込む事によって、装甲の強化や力を何倍にも高める事が出来るらしい。
「酸素ボンベの話だけど、頭部がこの左右の小型で20分。
襟元に左右で40分。胴体の脇腹に3つずつで1時間。計2時間は水中や火災現場でも耐えられる様にしてあるわ。
防弾性のサーチアイには頭部の横にあるカメラから、モニタリングして遠距離も視覚可能となっていてね。
背中には空調設備もあって、中の熱を逃がしたり外から風を取り入れたりも出来るわ。関節部分にも細胞を組み込んだナノテクノロジーを利用した──」
「成程…関節部分は魔物の細胞を取り込んで魔力を循環させ易くしているのですね」
「流石、飲み込みが早いわ。他にも武器を幾つか搭載させるのは断念してバイクとかに設置しておいてるの」
次々と出る難しい話に、淵東はコーヒーを啜りながら眺める事にした。
「ただね、前回は催眠を仕掛けてくる敵だったらしく。その対処とかはまだ無理なのよ。 その更に前の魚の悪魔の細胞は組み込めたのだけど」
(勇人くんが倒したんだろうな。現場に居た彼や死体から出た魔力を帯びた海水もあったし)
当時は不明だったが、今回の事でそれが分かったのだけでも嬉しい事だと天馬は安堵する。
しかし、この事を公に出す訳にはいかないので口を閉ざすが。
「それでね、今回はこの『AMD-G』の試験を兼ねて貴方の力を借りたいのよ」
だからチラホラと海岸に警備体制の人達が居たのかと、天馬は苦笑いを浮かべる。
「適合者は1人だけでね。コレには魔力を大いに消費するし、試しに時間も測らせてね?」
「わかりました。断っても無駄みたいですし。
何より──公安が絡んでるのなら、少しは力にならないといけませんしね」
「───話が早くて助かるよ」
彼女が合図を出すと、他の部下と思わしき人達が急いで機材を砂浜に運び込む。
中には大きな冷凍カプセルもあり、中を覗いて見ると悪魔の亡骸がそこにはあった。
(これが先程話題に出た…見た目や肌質から見ても、相当上位に近い悪魔だ)
「明瀬君、頼んだよ?」
「…はい」
呼ばれて現れたのは若い男性警官だ。
静かに返事を返し、ゆっくりとケースを持って天馬の前に立つと、ケースを地面に置き腕に着けられた時計とは違うブレスレットを構えてこう言った───「装着!」
黒いボディラインが浮かぶサーファーのスーツ見たいなのに、鞄から銀色に輝く鉄の塊が現れ体に付着し──
ガチャガチャ…ガシャンッ!!
見る見る内に先程モニターに映し出されていた装備へと代わる。
アーマーを着飾ったその姿は、まるで悪魔を模した眼の形をしていた。
「形状記憶合金のお陰で、持ち運びはアタッシュケース1つで良い。
微弱な生体電気や太陽光発電により、ブレスレットのコントローラーは半永久的に電動可能となっている」
煙草に火を付けながら淵東は語る。
そして明瀬の隣で肩を叩き励ましの言葉を送る。
「気ぃ引き締めて行けよ?」
「は、はい!」
明瀬は緊張しているのか、それともスーツのせいなのか。
ぎこちない動きが目立つ。
「『逆巻く風』!!」
試しに小規模の魔法で先制攻撃を放つ。
下から突如現れた竜巻は、砂を巻き込んで彼を取り囲む。
「明瀬君、様々な機能を利用してみるんだ!」
「は、はい!」
風の中で腕で顔の前を覆い、背中を少し丸める。
そうすると、後ろの空気を排出している場所から強風が一気に吹き荒れ明瀬を前へと押し出す。
風の中を無理矢理突破する形で回避し、明瀬は両腕を前に翳し掌を広げ───何かを射出した。
「───っ?!」
咄嗟に後ろに飛んだのは正解だった。
恐ろしい速度の銃弾は、先程居た足元に的確に放たれたのだ。
砂浜に減り込んで尚、銃弾は地面の中で回転してるのであろう。
穴の中からは粉塵が溢れ出ている。
「安心しな、それはワタシが開発したゴム弾だ。
当たれば骨を砕くが、その代わり栄養剤も注入してくれる」
「橙子さん?!」
撃った本人も知らされていなかったのか、驚いた様子で慌てふためく。
「本戦に近しいデータが欲しいと言ったろ?」
キョトンとした顔で言うものだから恐ろしい。
天馬は冷汗を拭いながら少し距離を置く。
「なら、射線上から消えれば──」
「───はっ!」
気を抜いていた明瀬に向かって、天馬は下から抉る様に砂を風で持ち上げ振り掛ける。
「──くっ、これでは狙いが」
降り掛かる砂をガードしながら、標準を定めようとするが無理な話し。
その隙に天馬は明瀬の後ろに周り足元の砂を薙ぎ払う。
「『風爪』!」
風の爪で抉られた足場ではバランスが取れず、明瀬は体勢を崩してしまう。
「明瀬君! 先刻教えた通りに魔力を調節するんだ!」
(魔力を調節…確か力では無く気を足に集める感覚───)
ダンッ!!と砂浜では聞く事の無い、硬い地面に金属がぶつかる音が響く。
それは明瀬が地面に足を着いた瞬間、バランスを崩し掛けていた体が足を軸に体勢を立て直した瞬間であった。
「うわ、スーツを着る前より威力が上がってる───!!」
「成程…魔力で筋力を補っているんだった」
「そのまま掌底!」
「せいっ!」
今度は淵東のアドバイスで明瀬が動く。
避けた掌底の風圧で、頬から赤い血が飛び出る。
「次に蹴り!」
「──やぁッ!!」
速い。
常人からは予想の出来ない掌底や蹴りの応酬に、天馬は少し焦りを感じていた。
「加減は要らないよ! 殺す気でやらなきゃ、その装甲は砕けやしないからね!」