表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シーカイザー ヤマト  作者: 石巻 瞬太郎
目覚め編
11/124

第8話 最悪な催眠


「キキッ、呆気ねぇなァ?」


催眠術を掛けてから、勇人はピクリとも動かなくなり寝たままの状態だ。


猿の悪魔は近くに胡座で座り、勇人の鎧を弄りながらその様子をご満悦そうに眺めていた。


「これでこの地域の魔力は頂いたも同然。

後は此処を拠点にオレ様の子種を増やして行けば…キキッ」


『随分と楽しそうだね?』


ふと聴こえた声に悪魔は反応して懐をガサゴソと漁り、小型の石を見付けて掌に転がす。


「これはこれは、シュピーレン様。

蛇田の大きな拠点となる場所は確保出来そうですぜ?」


『そうかい。君は中々有能だね』


「キキッ、そんな褒めんでくださいよぉ。

そういえば、シュピーレン様は今何処にいらっしゃるんで?」


『ボクかい? ボクは最も人間に近い場所から魔力を集めて居るよ。

なぁに、君が大きく動いてくれたお陰でマイナスエネルギーも沢山摂れて助かってる。ありがとう』


「そうですかい。なら、このテリトリーはオレ様が頂いても良いんで?」


『好きにしな? ボクは君を自由にしているんだから』


「ありがとうございます」


『じゃあね。あ、君の名前だけど『ヤバンサ』って名前にしたよ』


名前を呼ばれた直後、猿の悪魔の体が大きく膨れ上がり。毛先が逆立ち顔に模様が入る。


暫くして落ち着いたのか、体型は元より少し大きいものの先程に比べたら小さく縮んだ。

しかし、顔に青い模様が刺れられ。気持ち悪さが際立っていた。


「名を授かり光栄に思います」


『これでまた魔力を消費したから、ボクは暫く潜む事にするよ』


通話が切れ、シュピーレンからの連絡が終わった。

ヤバンサは大きく手を振り上げて大いに喜びを現す。

力が溢れ魔力も格段に上がったのだ。これが喜ばずには居られないであろう。


悪魔が名を貰う事は魔力を授かる事親と子の関係に近しいモノとなる。

その名付けた者の魔力に応じて、その子も強くなるのだ。


「これでオレ様も幹部になれ───ぶげっじゅ?!」


下から突き上げられる感覚。何が起きたのか理解する前に体は宙へと放り出され、またもや2階から1階へと落下してしまう。


「が…あが…っ……」


「許さねぇ…!!」


スタッ──と2階から飛び降りて来た影にヤバンサは驚愕した。

催眠を掛けて落としたハズの人間が、目の前に立って居たのだ。


「な…ぜ…動ける?」


普通ならば催眠が解けても多少の混乱や後遺症があるはず。

こんな直ぐに動いて、ましてやあの威力の拳を振るう事なぞ不可能に近い。


(人間だぞ? ただの人間が催眠を打ち消したというのか?)


昔には魔力を持った人間が魔術を使う事はあったという。がしかし、現代での人間には魔術は疎か、その魔術に必要な魔力量ですら乏しいではないか。とヤバンサは考える。


(種から産まれたと言っても知識は十二分にある。悪魔とはそういう生き物なのだから。

なのに何だコレは? この様な情報は無かったぞ?!)


混乱。

顎を殴られ頭が回っていないのか、それとも単なる知識不足からなのか。

ヤバンサはワケが分からなくなり、自分の置かれている状況すら呑み込めなくなっていた。


「お前、さっき誰かと話していたな?

シュピーレン…だっけか?」


聞かれていた!

主の名を。存在を知られてしまった。


「な、何の事だァ?」


「惚けても無駄だ。俺は途中から意識があったんだ。

お前が変な石を使って誰かと話していたのは知っているんだぞ!」


「だ…から何だァ!」


大きい声で叫び、脳を無理矢理覚醒させた。

話していた事で殴られたダメージと落下のダメージも回復しつつある。


(人間め。こうなったら更なる地獄を見せてやる)


「がっ…肋骨がァ!!」


蹲り嘆くヤバンサに、勇人は一瞬躊躇してしまう。

しかし、彼はその隙を見逃さなかった。

地面に爪を立て、素早く円を描きその中に自らの毛を落とす。

そして地面を2回叩くと、渇いた音が響き渡り静かだった空間を騒がせる。


「ンー・ミイサ・レマノ・リツヤア・ウョギンニ」


「──辞めろ!!」


「遅い!」


勇人が何かの言葉だと勘づく前に、ヤバンサは詠唱を終える。

囁くように吐かれた呪文は、ヤバンサの魔力を宿し明確なモノへと変化してゆく。


「何をしたんだ?!」


「キキッ、オレ様の催眠がよぉ──貴様1人に掛かってるとでも?」


───ババババッ!!


まるで爆竹の様な音と共に、勇人の背中の後ろからカランカランと金属の落ちる音が鳴る。


そう、それは銃撃。

複数の弾丸が勇人を襲う。


「なっ、さっきの警察か?!」


「チッ、銃だと効かねぇか」


流石に変化した王の力の前では、弾丸なぞ無力に近い。


(だがしっかりと次の計画も用意してある)


「キキッ! 猿流奥義『猿回し蹴り(エンティティ)』!!」


尻尾を軸に両足の回し蹴りを浴びせる。

ソレも耐えられる事は想定内の範疇。そこから攻撃を返そうと勇人が拳を握り襲い掛かると、ヤバンサは指を鳴らす。


すると警察の1人が庇うように間に割って入り、勇人の攻撃を遮る。


咄嗟の事で拳を止めきれず、警察を殴り飛ばしてしまう。


「クソっ、何て事を──」


「殴ったのは貴様だ!喰らえ!」


更に数発蹴りを放ち、ヤバンサは距離を置く。


「待て! くっ!!」


攻撃を当てては逃げ、当てては逃げを繰り返される。

反撃をしようとすると警察を盾にされてしまうので、コチラは中々手出し出来ない。


「最高だ! 魔力が溢れている感覚…これなら催眠の効果範囲も拡大出来そうだ。

そうだなァ…上の階の人質も盾にしてやろう!!」


「ふざけるな!」


またもや拳を警察に阻まれてしまう。


(何人か殴ってしまったな。横になったまま動かないけど大丈夫だろうか?)


催眠に掛かってるとは言え、人間相手にこの力は奮ったらやばい。

倒れた人を確認すると、気を失っているだけの様だ。


勇人は安堵しながらある事を閃いた。


(待てよ? 加減して殴って意識を飛ばせば…)


「キキッ、気付いたか。だが遅いぞ!」


猿はわざとらしく振る舞い、食料品コーナー近くのエスカレーターを跳躍して越える。

勇人もそれを追い掛けて駆け登るが、目の前に現れた光景に絶句した。


2人の警察官が銃を互いに向けて立ち尽くして居たのだ。

勿論、催眠で操られているのだろう。

2人から明確な意思を感じられず、朦朧としている様子が伺える。


「何を──」


「貴様に絶望を与えるんだよ。いや、貴様だけじゃない。

片方の生き残った人間には記憶を残してやろう」


「そんな事させるか!」


「おっと、動いたら同時に頭を貫かせるぞ?」


ヤバンサの言葉に合わせて動く2人を見て、勇人は動きを止めた。


「卑怯な…」


「人間に絶望を与えるのが悪魔なんだよ」


ガチャりと引鉄が引かれ──


バンッ!!


渇いた銃撃音。

銃から漏れる煙がゆっくりと立ち上る。


「な…にィ!!」


先に言葉を発したのはヤバンサであった。

何故か。それは彼も予想をしていなかった事態が発生したからである。


2人が突き付け合っていた銃。

ヤバンサが選んだのは二人の中でも見るからに歳上の男性警官だった。


彼に部下を撃たせる事で絶望させようと目論んだのだろうが、結果は大きく異なっていた。

発砲直前、男性警官は銃を下げ自らの足目掛けて発砲したのだ。


銃弾は足を掠めて地面に減り込む。

消炎が立ち上りヤバンサの表情が崩れた瞬間、勇人は無意識に走り出していた。


尋常ならざる速さで駆け、ヤバンサの右肩を掴み──


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


思いっ切り顔面目掛けて拳を振り翳す。

勇人の感情に合わさったのか、突如現れた水が拳を包み込み渦を発生させる。


「キ────ッ!?」


泣く暇すら与えず拳は顔面を捉えた。

今度は吹き飛ばすのでは無く、そのまま勢いを殺さずに地面へとヤバンサを叩き付けるのだ。


水により地面が抉れ、首の骨が折れ、何回も頭を回転させて体と胴体を繋ぐ首はとぐろを巻いてしまう。


「終わった…終わったぞ…」


事切れた事を確認し、勇人は床に腰を降ろした。

催眠を掛けられていた警察官もパタリと糸が切れた見たいに倒れた所を見ると、ヤバンサを倒した事によって催眠から解かれたのだろう。


終わったのだ。

これで今回の事件は解決した。


後は警察が人質を解放してくれるだろう。

その前に自分は逃げなければならない。


重い腰を上げてさっさと帰ろうと立ち上がった刹那


「待て…」


不意に掛けられた声に、勇人は振り向いた。

先程、自ら足を撃った彼が目を覚ましたのだ。


「大丈夫ですか?」


「あっ、あぁ…」


取り敢えず肩を貸して起き上がった彼を近くのソファに座らせた。

顔が青ざめており、憔悴した感じからこの人も悪夢を見せられていたのだろう。


「お前も悪魔なのか?」


覚悟をした表情をして問われた質問に、勇人は一瞬言い淀む。


「い、いえ。俺は違います。ただの人間です」


「只の人間があの怪物を殴り殺せるか?

何か水みてぇなのも出してたしよ。人間なら名前、教えてくれるか?」


不躾な態度で言う彼だったが、その強面の顔と醸し出される恐ろしさから勇人は息を飲み。

自分の顔が隠れていて、表情が見えてなくて助かったと考えた。


「すみません。無理です」


「…そうか。いや、スマン。

ちょっと嫌なモン見ちまってな。感情がまだおっついてない見てぇだ」


「いえ。それよりも、良く催眠術から逃れられましたね…」


「はは、恥ずかしい話。ブルっちまってたよ。

でも、部下に引鉄引いた途端。オレはオレに戻れたんだ。

悪夢…見せられたお陰って言ったら変だけどよ。

コイツだけは死なせねぇって思いが…ふつふつと湧き出て、気付いたら足撃ってたんだよ」


苦笑して話す彼の顔色から察するに、まだ少し催眠の後遺症が残っているみたいだ。

勇人は近くにあった衣類を包帯替わりに足に巻いてやる。


その時に胸のバッチを見たら、淵藤(えんどう)と書かれていた。

確か、最初に突入した警察のリーダーだった人だ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ