表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シーカイザー ヤマト  作者: 石巻 瞬太郎
目覚め編
10/124

第7話 猿催眠


 先行して突入した刑事達からの連絡が途絶えて暫く経ち、他の警察も突入した。

そのお陰で多少なり警備が薄くなったので、俺は裏の中学校から柵を越えて侵入しモール内へと潜り込む事に成功した。


まぁ、あんな怪物を目の当たりにして侵入しようなんて人は普通居ないだろう。

…俺は例外として。


「――しかしだな」


 裏の映画館への出入り口に大きな機械が置かれ、そこに白衣を着た女性が誰かと通信をしているらしく。

仕方が無いので俺は機械の間に潜り込み、先へ進むタイミングを伺う。


「この数値は異常だ! アタシ自ら現場に突入して――」


 声を荒立てているお陰で、中が今大変なのが分かった。

だからと言って俺が出て行ってどうにかなるのだろうか…。


「クソっ、上の判断じゃ遅過ぎる!!」


 どうやら彼女の突入は許可されなかった様だ。

苛立った様子で他の警備隊の用意したテントへ向かったのを確認し、電気の落ちている自動ドアを無理矢理開けて中に侵入した。


 普段とは雰囲気の違うショッピングモール。

薄暗く服売り場やスポーツ用品が荒らされている。


 きっと此処であの悪魔と争ったのだろう。

折れたバットやテニスラケットが散乱し、辺りには血の流れた痕もあった。

血溜りの置くを見ると、男性のモノと思わしき腕が転がっていた。ズタズタに引き裂かれた痕を見るに、襲われてから腕をもぎ取られたと見れる。


(骨事引き抜かれたのか…クソッ、気分が悪い)


 死体には慣れていたが、殺された死体は初めて見た。

震災後、津波の爪跡は大きく。道や建物の中に死体がよくあった。

その光景が脳内でフラッシュバックされ、異様な吐き気や頭痛に毎夜唸されたものだ。

 しかし、それが繰り返されると人とは恐ろしいモノで、徐々にその光景にも慣れてしまう。

いや、馴れなければ壊れてしまうのだと自分で理解していた為のセーフティだったのかもしれない。


 取り敢えず上に向かう為にエスカレーターへと向かう。

電気が止まっているのでエスカレーターも勿論止まっている。

階段替わりに使って上まで昇ると、奥に何人か立ち尽くして居るのが視界に入った。


 先行して突入した警察だ。

様子が少し変だけど大丈夫なのか?


 近付いても気付く気配が無い。

よく見ると皆目の焦点が合っていない。まるで上の空な状態だ。


「キキッ、何だァ? オレ様の催眠が効いてねぇのかァ?」


「――っ?!」


 いつの間にかエスカレーターの手摺に猿の悪魔が胡坐をかいて座っていた。


「ちったァやるみたいだ。魔力持ちの人間で催眠耐性の付与までしているとは」


 催眠耐性?

何の事か分からずに居ると、猿は大きく手を振って襲い掛かって来た。


 鋭利な爪が咄嗟に頭を守った左腕を翳める。

しかし血飛沫が上がる事も、痛みが走る事も無い。


 猿の悪魔も不思議に思ったのか、自らの爪先を何度も見て千切れた服の破片を取る。

――腕が変化していたのだ。服の下から薄水色に光が漏れ輝く。


「魔法か? ならソレ以上の破壊力をくれてやるッ!!」


「うぉっ!!??」


 悪魔の攻撃に合わせて咄嗟に右腕で殴り返す動作に入ってしまった。


――ドガッ!!!


 鈍い打撲音の後に悪魔はエスカレーターの向こうへ吹き飛び、広告等が貼られている壁に衝突し落下する。


「右腕まで?」


 今度は右腕が薄水色に輝き鎧が装着されていた。

ガシャガシャと掌を握ったり開いたりしても違和感が無い。まるで体の一部みたいにしっくり来ている。

久々の感覚だがしっかりと確信が持てる。この力は悪魔に反応して発動し、そして俺に大きな力を貸してくれているんだ。


 解る。この力を使うと自然と頭に情報が流れて来る感覚。

まるで前から知っていた様に新たな知識が自分の中で開花されてゆく。


「…A…wake?」


頭に浮かんだ文字を声に出す。

違う、これじゃない。もっと違う言い方だ。


頭に浮かぶ文字は複数に別れていて、それがパズルの様に1つ1つ組み合わされてゆく。


力・本能・兆し・目覚め

力が──し

本能が──

──する兆し

──し目覚める


空白の文字は既に知っている。

声で叫べ。鼓動を鳴らせ。


そうすれば──俺は王へと変わる。



「──『覚醒(アウェイク)』!!」




刹那、辺りを風がうねり水が出現。

取り囲む様に周りに集まると、俺を包み発光した。


そして水が弾け飛ぶと、俺はまた全身を鎧の様なモノに包まれ。

湧き出る力を身体全体から感じていた。


「お、おお、お前ッ! 『王の器』だったのか!!」


「いや、そんなの言われてもなぁ。そこん所の知識はまだ明確じゃないんだよ」


何なら、知っている事を教えて欲しいレベルだ。

待てよ?どうせならこの猿に全部聞いてみるか…


「おい、俺はこの力がまだ何なのかも知らない。お前達悪魔の事もだ!!」


「はっ、知らねぇで『王』にされたってのか?

無知な王かよお前ッ!!」


アイツ、看板まで吹き飛んで2階の高さから落ちたクセに元気だな。

指差して笑ってやがるぞ。


「キキッ! どうせなら何も知らずに死ねェ!!!」


ダンッ!ダンッッ!!

地面を蹴り、エスカレーターの手摺を蹴り、悪魔はその猿の身のこなしを利用して身軽に飛び回る。


「喰らえ! 猿流奥義『猿尻尾(アイテイル)』!」


縦の回転蹴りに加え、尻尾を追加した3連撃が勇人を襲う。


「ぐっ…!」


「キキッ、甘い甘い!!」


腕を盾にして耐え切った瞬間、今度は首元に尻尾が伸びる。

尻尾は勇人の首に巻き付き締め上げ…そしてそのまま勢い良く地面に叩き付ける。


猿の悪魔の体重と自らの体重を乗せたダメージは思ったよりも大きく、鎧越しに振動が伝わり脳が揺れる。


防御を貫けないと見て、直接中へダメージの通るやり方に切り替えたのか。

猿の学習能力は高いけど、この悪魔も相当に喧嘩慣れしてるし学習能力も高い。


「キキッ、今だ!」


「なっ───」


顔を持ち上げられ、咄嗟に猿の顔を見てしまった。

その時、不思議な光が目の前に広がり目眩に襲われる。


「っ…此処は?」


先程まで居たショッピングモールの様子とは打って変わり、暗く白い景色が目の前に広がっていた。


「嘘だ…そんな…」


忘れるハズは無い。

この白い景色は雪景色。なのに空は星が綺麗に輝く夜空。

周りには崩れた建物や爆発したトラック。

無惨に残された瓦礫の山。


震災直後の石巻の風景だ。


ソレを認識した途端。

風景が回転し、別な場所へと変わる。


今度は渡波にあるアパート付近。

友達の家から近く、中学の時によく通った場所でもある。


見たくない。

目を背けたいという思いがあったが、背けられなかった。

何故か確認してしまったのだ。

過去に見たあの光景通りなら、きっとそこには辛く苦しいモノがあるのだから。

好んで見たいとは思わない。でも、もしかしたら違うかも知れない。

そんな微々たる希望が心にあった。

だから見てしまった。確認したのだ。




坂に横たわる死体と、車に乗ったままの死体が視界に入る。



「あっ…あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!」


咄嗟に頭を抱えた腕に更なる絶望があった。

見慣れた服。それは中学生の時の紺のブレザー。


よく見ると下は縦に線が入った灰色のズボン。

取り外しが簡単なネクタイに長袖シャツ。

戻りたくないあの頃に。二度と見たくない現実に。

再び戻されて気が動転してしまったのだ。

膝を着き肺の中の空気を一気に吐き出しては、新鮮な空気を直ぐ様飲み込もうと体が欲する。


落ち着け。

これは終わった過去だ。

俺はもう成人していたハズだ。


思い出せ─今までの事を。

色々あったハズだ。それでも俺は生きていた。

これは夢だ。きっともう時期目が覚める。


目が…覚める?


あれ?

俺はどうしてこんな所に戻っているんだっけ?



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ