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深奥

「ザジーーッッッ!!!」


 グリステルは声を限りにザジの名を呼びながら全力で大蛇の後を追った。

 松明で照らす坑道には、何か大きな物がそこらにぶつかることも構わずに高速で駆け抜けただろう痕跡がそこかしこに残っていて、追うこと自体はそう難しくない。壁には今できたばかりの削り跡があり、空気はもやと形容していい程に埃が舞っていた。

 駆け抜ける坑道の地面に今までと違う痕跡を見つけ、グリステルは急制動を掛けて立ち止まった。


「血だ……」


 黒い染みは一箇所で大きく広がり、そこから先は刷毛はけで擦ったような跡が長く続いていた。


「ザジーーーッッッ!」


 グリステルはもう一度彼の名を叫んだが、行く先の闇は沈黙を守るだけだった。


(ザジ! 無事でいてくれ……!)


 グリステルは手にしたままだった剣を鞘に納めると深呼吸を一つして再び走り出した。


***


「ここは……」


 どれくらい走っただろうか。


 破壊と血の跡は坑道の突き当たりのやぐらで補強された縦坑に続いていた。縦坑は何層かの通路を縦に貫いているようで、松明を翳して見上げても闇、また見下ろしても闇だった。


 痕跡から推し量るに、大蛇はどうやら下に向かって落下して行ったようだ。


 グリステルは足元に落ちていた木片を眼下の暗闇に投げ込んでみた。木片はくぐもった音で壁に一度だけ跳ねて地面に落ちたようだった。そう深くない。十五メルテ、いや十メルテ程だろうと彼女は見積った。

 危険はあるが、ザジには時間がないかも知れなかった。

 グリステルは意を決すると、持っていた松明を縦坑の中に掲げ、そのままそれを手放した。

 炎は彼女の見積もり通り十メルテ行くか行かないかを落下して地面に当たり、火花を散らして着地した。

 彼女はまた深呼吸をすると、穴の補強をしている櫓を手掛かりに縦坑を降り始めた。


 櫓は木製だったが風化が進んでいて、グリステルが体重を掛ける度にギシギシと危なっかしく軋んだ。

 一度などは足を掛けた桁が体重の移動と共に完全に脱落して彼女は支えを失い、二メルテほどを壁を滑るように落下したが、すぐまた別の桁に掴まることができて、何とか下まで落下することはまぬかれた。


 無事、十メルテを降り切って足元の松明を拾い上げたグリステルは溜息を一つ吐くとまたザジを探すべく炎の灯りを頼りに歩きだした。


 縦坑から降りた先に繋がる道は一本しかなく、彼女はその坑道を慎重に進んだ。


 そして暫く進んだ丁字路の突き当たりでグリステルはついに、壁にぐったりと寄り掛かって身じろぎ一つしないザジを発見した。

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