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絶望

 騎士聖女グリステル・スコホテントトは、身体の左半分にあぐらを掻くヒリヒリとした痛みで目を覚ました。


 穏やかな空気。どうやら室内だ。


 瞼の向こうで灯りが揺れる気配がする。野営地だろうか。だが人の気配がない。

 確か自分は……ナターラスカヤ平原の衝突戦に参加して、崩れた左翼の魔族軍を手勢と共に追撃した。エレンシュタト隊の若い連中が功を焦って深追いし、その援護と連れ戻しの為に共にドーラフェンヘルスの山岳地帯に入った。だが、それは魔族の卑劣な罠で、列になって走る崖縁の道全体が火を吹いて爆発して──。


 情けない。

 半分眠ったようなぼんやりとした頭で、彼女は自嘲した。

 春光の騎士と吟遊詩人に歌われ、戦う聖女と民に持て囃されて慢心していたのだろうか。

 こうして寝台に寝かされているということは、自分は味方に助けられ、後方に運ばれたのだろう。

 ライトニングは、馬は無事だろうか。

 左の腕全体、足全体がヒリヒリと痛む。火傷を負ったのだ。跡が残るかも知れない。


 グリステルは薄っすらと目を開けた。

 粗末な作りの天井。ランプが作る影が縞模様に揺れている。

 彼女はとりあえず自分の腕の傷の具合を確かめようと、左手を視界に入る所まで持ち上げようとした。


 じゃり、


 何かが邪魔をして、手が充分に上がらない。左手と右手が引っかかっているような感覚。彼女はやり直して、今度は左手と右手、両方を持ち上げてみた。


「…………えっ」


 手枷だ。錆びた鉄の手枷が彼女の両手に嵌められていて、枷同士は短い鎖で繋がっている。左手はぐるぐると包帯に覆われていた。

 混乱が、ぼーっとした頭を満たした。

 何だ。これは。手枷? 何故私の手に、こんなものが……? どういうことだ? 何か……審問に掛けられるような嫌疑を受けたのか?


 急に夢から覚めたような心地になって彼女は刮目して身体を起こした。


 牢だ。


 それも城や詰所の石造りの牢ではない。

 彼女が寝かされていたのは家畜小屋か何かに鉄格子を付けて牢とした、粗末な汚い牢屋だった。


 彼女が起きた音に気付いてか、奥から人の気配が近づいてくる。

 牢番だろうか。

 事情を質そう。何かの間違いだ。ほんの数刻前まで自分は、神聖なる神の使徒として、栄光ある王国の旗の下に気高く戦っていたのだ。春光の騎士。戦う聖女。それは彼女がその青春と命とを惜しまずに神に仕え、戦場を駆け抜け、何度も窮地に陥りながらも生き残って手に入れた、誇り高き称号であり、通り名であった。


 古い木の扉ががたがたと鳴りながら開く。


「教えてくれ、私は──」


 どうして捕らえられたのだ、という言葉を継ぐことができなかった。

 現れたのはヒトではなく、ブタのような顔をした、大柄の獣人オークだった。


 彼女は、ひっ、と息を飲むと、そのまま呼吸の仕方を忘れ、気を失った。


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