第2話「まだ死んではいられない」
第2話です。誤字脱字があったらごめんなさい
目が、覚める。重く閉じられた瞼を開くと、うっすらと光が入ってきた。
「…気が…た…だね。どうやら…みたい…。」
と、ぼんやりとした意識の中、誰かの声が耳に入ってきた。ん?意識が…ある?どうして…?
「なんだ…失敗したのか…」
ここで理解する。意識がある、ということは、自殺は失敗したのだと、肉体から伝えられているということだ。なんだろう、残念なようなほっとしたような不思議な感覚だ。
「いや、成功したよ。天宮蓮君。」
そんな声が横から聞こえ、自殺した少年、蓮は横になったまま声がした方を向く。そこに居たのは、黒のワンピースを着た少女であった。燃え上がるようなオレンジのショートカットの髪、青く澄んだ宝石のような瞳、その顔立ちは美しく可愛らしく整っており、誰もが目を引かれる。そんな女の子。
だが、その少女には人とは異なる点があった。宝石などで装飾されたリングの付いた角が頭に2つ、それに漆黒に染まった異形の翼が背中から生えていた。しかも、穏やかな表情はしているが、これ以上彼女に近づくなと、本能が警告しているように、体中が震える。雰囲気が普通じゃない。
そう、彼女はまさに…
「成功って…まさか、神…様…?」
「いやいや、そんな大層な存在じゃあないよ。ほら、よく見て!悪魔でしょ!」
どうやらその悪魔様はえらくフレンドリーな様だ。
「えっと…それで、その悪魔様が僕に何の用ですか?」
「んと、そうだね。まずは何から話そうかな…」
「…まずは此処がどこかと、僕達が誰かを伝えるべきでは?」
横から突然そんな声が聞こえてきたので、そちらを向くと、1人の青年がいた。
その青年は鮮やかな輝く青い髪に淡い青色の瞳、頭のすぐ上には輝く輪が浮かんでおり、背中からはどこか神秘的な薄水色の翼が生えていた。そう、それはまさに聖書などで語り継がれてきたような…
「天…使…?」
「ふむ、流石に気づいたみたいですね。はじめまして、僕はラファエルと言います。以後お見知り置きを。」
「はぁ…」
そう言って彼は丁寧に挨拶をする。どうも不思議なオーラというか、雰囲気というか、人と話している感じはまるでしなかった。
だがどうして天使と悪魔が(しかも片方は神話などでもよく聞く四大天使の一角が)一緒に自分の前に?という疑問持った蓮だが、その事を考える暇もなく、2人は話し始める。
「オッケーオッケー。いやー流石だねラファ君。」
「君が何も考えてないだけだと思うんだけどねぇ…」
「まぁまぁいいじゃない♪…それじゃあ蓮君、突然で申し訳ないけど、ちょっと私の話を聞いてもらうね。」
「…」
そう言うので、蓮は何を言えるでもなくずっと横になっていた体を起こし、辺りを見回した。よく見ると、周りは何もなく暗い荒野であった。光はほとんど刺さず、ただただ静かな荒野。だがどこか不気味な雰囲気であり、今にも魂ごと消しさられそうな感覚がして、蓮の体からは冷汗が滴る。そう…ここはまるで…
「もしかして、ここは…」
「そう、地獄だよ。」
「…やっぱりか。」
「おや、これはびっくりだね。君はどうしてそんなに落ち着いているの?」
「さぁ、何でだろう…というか、自殺をする前から薄々気づいていたのかな。僕みたいな奴なんて天国には行けるわけがないって…」
「ふむ、なるほどね…まぁ確かに、親よりも先に死んでしまった子供は地獄に落ちるって言うのは昔から言われている事だしね。」
「ですね…」
ここでふと気づく、それはほんの些細な違和感だが、蓮にはどうも彼女が悲しそうな顔をしているように見えた。だが、彼女がまた話し始めるので、その違和感はすぐに意識の外へと消える。
「あ、自己紹介が遅れてごめんね。私はベルフェゴールって言います。よろしくね。」
「よ、よろしくお願いします…」
聞いたことがある名前だ…というかあんまりいいイメージはないような…
「安心して大丈夫ですよ。彼女は人間の書物に書かれるるような怖い存在ではないですから。」
と、ラファエルは言う。確かに、今目の前にいる少女は人々に言われている悪いイメージを取り払うかのごとく優しそうな表情をしている。
「あとは…私たちがここに来た理由かな。ただ詳しく説明したいところだけど…まずはこれを見てくれないかな。」
そう言って彼女は宝石のようなものを取り出した。
「青い…宝石?」
「これはとっても便利なものでね。好きな時間の好きな場所を映像として空中に映し出すことが出来るんだ。
他にもカメラみたいに映像の記録したり時空を超えて撮影したり、
私達が人間の様子を確認する時によく使うんだよ。」
「へぇ…」
あっけに取られる蓮であったが、それを気にせずベルフェゴールは宝石を起動させる。
そうすると、宝石は怪しく輝きだし、まるでSF映画に出てくる通信機のようなモニターが映し出された。
そこには、3、40代くらいの女性と、同じくらいの年齢の男性が大粒の涙を流している姿が映し出されていた。
蓮は目を疑った。なぜなら、そこに映っていたのは…
「母さん…父さん…」
「そう、君の両親だよ。」
「…ねぇ」
「…?」
「なんで…この人達なんか見せたんだよ。」
「…」
「なんでだよっ!僕はっ」
「いいから見てっ!」
「っ!」
混乱して取り乱し、怒り出してしまった連を、ベルフェゴールは今までとは全く違った真剣な表情と声で制し、映像を見るように促す。
蓮が改めて映像を見ると、両親は泣きながら懺悔の言葉を口にしていた。そこから聞こえてきたのは、
「ごめんなさい。ごめんなさい蓮。お母さんがあんな酷いことばっかり言ってたからだよね。蓮を追い詰めてしまってたんだよね…
だから蓮はいなくなっちゃったんだよね。絶対に許されないのは分かってる。分かってるけど…お願い…帰ってきて…」
というような内容だった。父は、「すまない…すまない…」とずっと呟いている。
「…君が自殺したのが2018年5月15日午後9時半、そしてこの映像がその4日後の19日のもの…。
君のお母さんは15日の夜から3日間はは君のことをすごく怒って探し回った。そして、18日は1日寝込んだ。そして今日、19日は君にずっと謝っているよ。」
そうベルフェゴールは教えてくれた。さっきとはまた違った悲しそうな表情で。ラファエルも後ろで同じ顔をしている。
「うそ…だろ…」
「ここで嘘をついてどうするの?」
「なん…で…どう…して」
「…」
「どうして、どうして今更そんなこと言うんだよ!なんで今更優しくするんだよ!どうしてなんだよ!」
「…」
「あぁ…くそ…なんで涙なんか出るんだよ。恨み言ばっかりなはずなのに…憎んでたはずなのに!」
「はぁ、もう、まどろっこしいなぁ!君の素直な言葉を出しなよ。」
「あ…」
ここで…ようやく
「ご…ごめ…」
蓮は、気づく。
「ごめんなざい。ごめんなさい母さん、父さん。僕は…僕はっ…あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「…そう、それでいいんだよ…今はたくさん泣いて。辛い時は、苦しい時は、死にたくなったりした時は、弱音くらい吐いていいんだよ!泣いてしまったっていいんだよ!…」
そういう彼女も、何故か涙を流していた。
それから数十分蓮は泣き続けた。
「ありがとう。ベルフェゴールさん。ラファエルさん。もう間に合わないけど…お礼も何も僕には出来そうもないけど…少しだけ楽になりました。」
「…そうですか」
穏やかな表情で、ラファエルはそう言う。
「…ねぇ、君は諦めるの?本当にこのまま?」
いきなり、そう言ってベルフェゴールが蓮に問いかけてきた。
「え…?でも僕はこうやって自殺して地獄に…」
「ふふふ。実は、君はまだ間に合うんだよ。いや、やり直すことが出来るんだよ。」
そう言ってベルフェゴールはニッコリとしたような、ニヤリとしたような顔で笑った。
「ど、どうゆうことです?」
「気づいていないかな?蓮君、君̀が̀肉̀体̀ご̀と̀こ̀の̀地̀獄に̀来̀た̀こ̀と̀に̀。」
「えっ?」
瞬間、蓮の身に凍りつくようなめまいが襲った。まだ何もかも理解出来ていないが、自分の知識が根本から覆されるような、そんな気がしてならなかった。これから知る事実が、もう常識とかそんなものを逸脱した話であることを直感で感じていた。
「た、確かに…なんだろう、体が少し重いというか、フラフラするような…」
「まぁ、ここ何日か食事もしてないしさっきあれだけ泣いたからねー。」
彼女はどこか蓮をからかって楽しそうだ。
「で、でも…なんでです!?いやもう何もかも分かんないけど、なんで僕は体ごと…というか!やり直せるっていうのは!?」
「まぁまあ落ち着いて、ちゃんと説明するから。えっと、まずはきみの体のことからかな?」
ふぅ、と息をついて、彼女は語り出す。
「君はね…、俗に言う特異体質っていうのを持っている人間なんだよ。」
「は…?特異体質!?」
正直話に全くついていけない。どころか何を話してるかさえあやふやになってきた。一体全体僕はどんな体質だっていうんだ。そんな思考が蓮の頭をぐるぐると徘徊する。
「ま、簡単に言うと、肉体と魂の接続が強いから体ごとここ、つまり地獄に来れるってだけだけどね。」
「え…、そ、それだけ…?」
なんだろう、少し期待した分少し悲しい。
だけど、僕は特別な人間だったんだ。と感慨にふける蓮は単純な思考である。
しかしそれも、ベルフェゴールの次の一言で、そんなものは幻想であるとすぐに破り捨てられる。
「まぁ、大体2、300人に1人くらいはいるけどね。その体質。」
「は…?」
「別にそこまで珍しい力じゃないよ。
これは普通だったら人間の本体である魂とか霊魂って言われてる精神体と、その器である肉体が離れているはずが、色んな原因でそれらの繋がりが強くて肉体ごと世界を移動出来る。ってだけだしね」
「へ、へぇ…」
「ちなみにこの体質は、自分の生に対する欲求とか渇望が強いひとに多い傾向があったりするね。
ちなみに君にもそういう節はあったよ。」
「そう…なのか…」
なんだ、結局僕だって本当は生きたがっていたのか…
というか、ようするにここに来るのは僕じゃなくても良かったのか、と考える蓮であったが、まだまだ残る疑問を整理する暇もなく、次の話題が掲示される。
「さて、そろそろ本題に入りましょうか。」
蓮が呆然としていると、そう言ってさっきまで何も言わずに見ていたラファエルが会話に割って入ってきた。
「ここまでは、何故君がここに来れたのか、という話でしたね。ですが話の本題はこれからです。」
「それは…?」
…覚悟しておこう。これは瞬間的に蓮が感じとった感覚である。
「…それは『 なぜ僕達が君をここに呼んだのか。何故君が天使や悪魔である僕達と話しているのか 』その理由、さらに君はこれからどうなるのか、それについて話さなければなりませんね。」
「…僕を呼んだ…わけ…?それに…これから僕がどうなるのか…?」
「心配しないで、ちょっと私達と取引をするだけだから。」
そうベルフェゴールは言っているが、彼女もラファエルも至って真剣な表情である。
ラファエルの口から語られるのは、彼を、人間を、さらに天使をや悪魔をも巻き込んだ世界の物語。
これから、1度人生が終わったはずの彼の命
は、急速に、かつ全く違った方向へと変化していくこととなる。彼の、蓮の物語は、ここから新たなステージへと移ることになる。
これと次の話までは大体書けてるけどその後どうしよう




