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リザードマンの祖先と複雑な気持ち

 大蠍を倒したその日の晩、俺はクロードにプリメーラとの繁殖を勧められた洞窟を見に来ていた。

 気になったのかこっそりプリメーラも後ろから付いてきていたのだが、今はそれどころではない。この洞窟の天井はガラス張りだった。そしてクロードの祖先が残した蜂蜜酒とされるものはアルコール発酵した日本のジュースにそっくりだったのだ。リザードマンの祖先のルーツはもしやと思って洞窟に来てみたのだが、それはやはり俺の予測通りだった。

 ここには厭世家の元日本人が人知れずリザードマンの祖先として転生してきたこと、そしてそのまま歴史に現れることなくひっそり異世界ライフを送って満足気に死んでいったことが日本語の日記でボロボロの羊皮紙と壁に壁画として刻まれていた。


 リザードマンの祖先の人と俺とは関わることはなかったが、不思議な縁を感じる。俺の寿命はそもそもいつなのかわからないが、いつかはこの人のように満ち足りて死ぬのかと柄にもないことを考えて天井を見上げていたら入り口で音がした。振り返るとプリメーラが目をそらしながらなんかモジモジしている。


『えっと、ちょっとどこ行ったのかなって気になっただけで、クロードが言ってたようなつもりできたんじゃないから!』


 これは、なんか思春期の子供のあれだな。青春?

 だがプリメーラよ、お前はともかく俺ドラゴン歴うん万年だからね。下手するとお前のジジイより更にジジイだから。枯れてるどころか化石だぜ!とか思っていたんだが、そもそもドラゴンて老成するんだろうか?ぶっちゃけ俺の意識は20代からほとんど変わらない。誠に遺憾ながら成長しなかった。ニーズヘッグだって俺が初めてぶん殴ったころからつい先日まであんまり変わらない気がする。竜生は正直よくわからないから別に枯れる必要もないと思うが、本体に戻っているとなんか自然とか世界と同化してる気がするのだよな。俺個人としてでなく、世界のシステム的な?脳みそが違うからそうなっちゃうのかもしれない。話がそれたが、俺はお前が思うより紳士的だと教えてやろう。


『プリメーラ、こっち来てごらん?』


 俺はなるべく警戒されないような優しげな表情で中に入るよう勧める。入り口付近は普通の岩になってるせいで、あんまりおもしろくないだろう。しばらく戸惑っていたようだが、恐る恐る中まで入ってきた。何故か目は合わせてくれない。斜め下に視線を落としてモジモジしてる。なんだ?トイレか?さすがにここでしたらクロード怒るだろ。とか考えていたら、何か言おうとしてる。しかし待てど暮らせど言葉が出てこないようで半泣きになっている。仕方ない、助け船を出すのも保護者のつとめよ。


『ほら?上を見てみ?外でみるより綺麗だよ?』


 たぶん、これは特殊なレンズになっているのだろう。外でみるより拡大、輝度が上がった星が極上のプラネタリウムとなっている。残念ながら地球と違うし、どうもここは宇宙空間の底面にドーム上にある世界らしく、半球しかないせいか地球から見た空とは天の運行が違うようだが。よくよく考えれば宇宙空間の最下層にあるとすれば邪神(笑)とかろくでもないやつが浸入してくるのはある意味必然なのか?俺が星から重大な事実を考察していると星に目を奪われていたプリメーラが俺を見上げてくる。潤んだ瞳は星を映し混んで美しく輝いている。上気した頬は星明かりに照らされてそれが赤くなっていることは間違いない。俺の優れた聴覚はプリメーラの心臓の鼓動が早まっていることを捉えている。ああ、これはあれだな。


『プリメーラ、蜂蜜酒の飲み過ぎだ。水を飲め、それは酔いだ。今日明日はゆっくり寝かせてもらおう』


『ちが、えと、そうじゃなくて、そのええと』


『酔っぱらい様一名ご招待』


『きゃあああ!?』


 俺は素早く腰に手を回すとお姫様抱っこと呼ばれる格好でプリメーラを運ぶ。ちょうど寝藁が用意されてるのでそこにひょいと転がして頭を撫でてやる。プリメーラは目を回してるので水筒を横において俺は適当にその辺で寝転がって朝を待った。

 空が明るくなったのでクロードのところに顔を出す。


『おお、お客人、昨日はお楽しみでしたね?』


『まて、なんだその台詞は。昨日はなにもしなかったからな』


『そうでしたか、それは残念ですな。祖先よりあの洞窟に番で入った者には必ずこの台詞を言うようにと掟で定められているのですが、どういう意味があるのかはよくわからないのです』


 うーん、どうもリザードマンの祖先になった日本人はハイスペックなひきニートで、ゲームが好きだったようだし彼なりのネタなのか。いずれ他の転生者が来たときようにと、確実に狙っていたな。


 午後になってからプリメーラも起きてきたが、昨日の醜態を恥じているのか視線を合わせようとしてくれない。これはまさかの反抗期というやつか!?


『プリメーラよ、恥ずかしがることはない。誰でも初めてはあんなものだ。少しずつ慣らしていけば良い』


『ちょっと、待って!?初めてってええ!?なにもしてないよね?嘘でしょ!?』

 

 よほど恥ずかしいのか手をバタバタして必死に否定している。

 俺も遥か大昔に格好つけて飲めない強い酒のんで酔っぱらってケンカして頭からゲロを被って倒れていたものだ。そう考えれば寝落ちなんて可愛いものではないか。というか数万年ぶりに思い出したわけだが、俺の初飲酒は醜態を極めているな。おおよそ人に語れるものではない。


『おお?夕べはお楽しみでしたね?』


 クロードの追い討ちが完全な形で俺のつぼにはまった。飲んでいた水を吹き出してしまった。リザードマンの祖先の人よ、俺の完敗だ。


『違うもん!バカああああ!』


 プリメーラは走って逃げだした。若い奴は元気でいいな。


『なんで怒ってしまったのだろうか?』


 クロードは困惑している。俺にもよくわからないが、年頃の娘とはそういうものだと言って見たところ、なるほどと納得してくれたようだった。


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