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大蠍と白竜の戦士

 滝は数百mの高さから落ちて来ていた。ぶっちゃけ真下にいたら並の魔物ならつぶれるし、つぶれないならつぶれないで沈むしかなさそうだ。

 しかしその蠍は悠々と滝をくぐり抜けて姿を現していた。でかい。地下にいたときのニーズヘッグより一回りでかい、これリザードマンの昔の戦士達よく封印できたな。


『ガイ、リザードマン達が、襲われているよ!助けなくちゃ!?』


 プリメーラは圧縮空気の弾丸でハサミを狙う。ちなみに魔物故か、この蠍は大鋏が3対ある上に全身を骸骨のような紋様が浮かんだ外骨格で覆っている。圧縮空気の弾丸は本体に当たる前に魔力障壁で弾かれてしまう。

 あー、これガチの近接戦を強いられるやつだ。硬い装甲、回転の早い連続攻撃、必殺の一撃に加えてサイズによるごり押しと、ある意味完成したスタイルだ。


『これはドラゴントゥースウォリアーをメインタンクにして脚やら鋏やらを一本ずつへし折っていくしかないな』


『このおおお!』


 魔法が弾かれて怒ったのか、プリメーラが膨大な魔力を放出する。伊達に魔王のジジイより魔法を使えると自称してるわけではないようだ。プリメーラの魔力は蠍ではなく、滝を直撃した。これはまさかのゴーレム作成??しかもアクアゴーレムとかなんだこれ。

 プリメーラが作り出したのはなんとなくニーズヘッグに似た双頭の水のドラゴンだった。


『これならどう?』


 アクアゴーレムが水圧頭突きを繰り出す。

滝をなんなく潜ってきた装甲だけに砕くことはできなかったが、魔力をもった質量による衝撃は蠍にとっても看過できないものらしく、リザードマン無視でアクアゴーレムに向き直る。アクアゴーレムはすかさず大ばさみを水の体で押さえ込み、身動きできないようにしてくれた。ドラゴントゥースウォリアーにはタンクでなく、緊急時のプリメーラの守護に回ってもらい、俺は俺で足を狙わせてもらうとしよう。走り込んで死角を突こうと腹の下をくぐり抜けようとした瞬間、毒の尻尾が俺めがけて突き込まれてきた。


『くそ、尻尾にも単眼ついてるのかよ!?』


 だがこれで尻尾の注意はこちらに向いた。クロード達が各々武器を持って取り囲み足を狙い攻撃にかかる。


『リザードマンの戦士の力を見せつけるのだ!』


 クロードはなんと大戦斧を振り回し叩きつけている。強固な蠍の甲殻にも傷が入る。他のリザードマンの攻撃もかなりの猛攻だったが、へし折るには至らない。ピチピチと甲殻の破片は飛んでいるが、こいつの構造はわざとらしく表面が砕けることで内部まで衝撃を通さない構造らしい。俺はレーヴァティンを尻尾に当てて気がついた。


『クソ、俺の爪の剣じゃ斬れないのにやっぱりこれならスパスパ斬れるのかよ!?』


 そう、巨大な質量を受けるのに俺の爪の剣は確かに役に立った。主に盾の役割で。強度はむしろ勝っている。レーヴァティンは実体部分はレーザーを放出する結晶質の羽根でショートソードくらいしかない。盾には向いてない。それはわかるがイカゲソの時もそうだったが差がありすぎて悔しいぞ!まあ、レーヴァティンを使って巻き打ちとか、抜刀術とか使えないし刀剣とはやや違う物だと思っておくか。さて、本来なら蠍の切り札たる尻尾を良いところなしのまま完全に封殺したわけだが、アクアゴーレムの拘束が限界のようだ、プリメーラの魔力切れか!


『みんな離れろ、こいつ暴れるぞ!!』


 俺の声にリザードマン達はすかさず距離を取る。クロードの日頃の統制がいいのか全員ハイレベルな動きで距離を取る。直後にアクアゴーレムが大量のただの水になり拘束から解放された蠍は六本のハサミをやみくもに振り回し始めた。発狂モードというやつか?バテるのを待ってから動きが止まったところを狙うべきか?一瞬の迷いの間に一番弱っている存在に目をつけた蠍がプリメーラめがけて飛び掛かった。


『しまった!?』


 魔力切れでへたりこんでいたプリメーラには回避手段がない。ドラゴントゥースウォリアーが前面にいるが、あの質量差ではもろとも粉砕されてしまう。

 その時奇跡は起こった。


『えええ!?』


 プリメーラの絶叫が木霊する。

なんとドラゴントゥースウォリアーは片手で蠍の巨体を受けとめ、そのまま地面に叩きつけて粉砕したのだった。

 文字通りの粉々に潰された蠍はピクリとも動くことはなかった。

 意外な一撃であっさりと決着はついた。


 

 焚き火の前では飲めや踊れやの素晴らしい酔っぱらい達が乱舞していた。もちろん全員リザードマンだ。


『白き竜神様の戦士に乾杯!!』


『』


 リザードマン達は宿敵の討伐成功に戦勝の宴を開いている。そしてその中央で料理を一口も口にせず、酒の一滴も飲まず、声の一言も発しない白竜の鎧に身を包んだ神秘の戦士、ドラゴントゥースウォリアーがいた。いや、無理だから。そいつ飲食したり会話する機能ないんだって。俺の牙だけに頑丈なのは知っていたが、こいつがあんなに強いとは思ってもみなかった。というか完全に予期していなかったことだが、プリメーラが普段から肩に乗ってるおかげか、自然に高純度の魔力にさらされて鎧の性能とか上がっていた。こいつ下手するとニーズヘッグとケンカして勝てるぞ。


『客人達のおかげで我らの宿敵を倒すことができた、心から礼を言わせてほしい』


 クロードは俺にリザードマン特製の黄金色の酒を振る舞ってくれる。


『蜂蜜酒か。これは良い出来だな』


『シュワシュワして甘くておいしー!』


 アルコール分はけっこう高そうだが

はちみつレモンに炭酸を加えたような口当たりがおいしい。久しぶりに甘いものを口に入れた気がする。品種改良されてない野生の果実とかは実も小さいし、あくが多かったり、酸っぱかったりだったので素直に嬉しい。


『これも我が祖先が残してくれた秘伝の酒だ。忌々しきあの大蠍を倒した客人達に振る舞うことは必然というもの。遠慮なく飲んでくれ。魚もたくさん焼いている。若者達はこれでこの渓谷の未来が約束されたとみんな喜んでいる』


 ああ、これはあの話の流れだな。


『みんな喜んでたもんね、プリメーラ達もここに負けないくらい平和な新しい隠れ里をみつけなきゃだよ!』


 ふんす!と決意を固くするプリメーラに優しい眼差しで語りかけるクロード。


『うむ、そして一族を反映させるのにはやはり繁殖は必須だろう。そこの崖を上って裏側に回り込むと綺麗な花が咲いている洞窟があってだな、なんと天井が水晶で出来ているのか夜になると星が見えるのだ』


『それはたしかに素晴らしいな』

 水晶天井の洞窟ってどんなだよ!?と俺が興味をひかれているとプリメーラが逃げた。


『繁殖の話はイヤーーー!!』


 

 


 

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