邪神の兼族とエルフと魔王と竜神
洞窟は数キロ続いていたが光ごけやらよくわからない光る小さな虫が天井付近に群生しているため思ったより明るかった。時折出てくるスライムやらロックイーターを切り伏せながら進む。一時間も歩かないうちに飽きてきた俺は適当なところで真下に穴を開けて落下しながら進む手段を思い付いた。道連れの悲鳴が木霊するが早い早い。これなら数分で目的の地下空洞に出れそうだ。
『これはひどいな』
無理矢理魔力でこじ開けたトンネルを抜けるとかつて俺が作った巨大な地下空洞に出たのだが、ひっきりなしに城からオレンジの火線が放出されている。天井にぶら下がるイカゲソ?みたいな奴を狙っているようだが、見た目より強いらしく、なかなか落ちない。
『ううう、ひどい目にあったよ。ってあー、竜神様も戦ってるよ、すっご!』
竜鎧のドラゴントゥースウォリアーの肩に乗って目を回しているエルフの美少女プリメーラは嬉しそうにはしゃいでいるが、あれちょっとヤバイな。
さっきから撃ってる奴とはまた別のイカゲソが四体ヤンキードラゴンことニーズヘッグの二本の首と死闘を繰り広げている。ニーズヘッグは強力な毒を作り出す地竜だ。しかし相手のイカゲソは毒に強いらしく持ち味が生かせていない。このままでは数に押しきられてしまうかもしれない。幸い洞窟は城の真裏にあるため、イカゲソからは遠い。
『プリメーラ、ドラゴントゥースウォリアーとジジイのところに行け。俺はニーズヘッグを助けに行く』
『うん、ガイも気を付けてね』
『任せておけ』
と言ったものの、城からニーズヘッグはかなり離れたところで暴れている。正門辺りに回り込んで俺は事態の深刻さを悟った。地面からイカゲソの幼体が生えている。長ネギの畑みたいに人間サイズの触手がうごめいており、近づいた俺に反応してこいつらは立ち上がった。エルフを苗床にしているらしい。目や口、穴という穴からイカゲソをにょろにょろさせたエルフがゾンビのように立ち上がったのだ。何匹かは正門に向かって走り出した。早速ドラゴントゥースウォリアーが壁になりプリメーラへの攻撃をブロックする。プリメーラもその隙に後退しつつもいくつもの水弾を飛ばす魔法で牽制していく。水圧と衝撃に動きがとまった、イカゲソエルフに俺の刃が降り下ろされる。
『逃がさん!』
俺は世界樹にいたフレースベルグからもらってきた尾羽の光線剣<レーヴァティン>と俺の爪を剣にしたものの二刀流で切り刻んでいく。俺の爪の剣はいまいち通りが悪いが、レーヴァティンは相性が良いらしくスパスパ斬れていく。便利なのは言いが、ちょっと自尊心が傷つくぜ。しかし俺の心情はともかくとして、俺が通り抜けた部分の触手は粉々になる。このままニーズヘッグの近くまで駆け抜けてやろうとしたところでニーズヘッグを攻めている四本とほぼ同じ大きさのイカゲソが襲いかかってきた。レーヴァティンで焼き斬りながら駆け抜けようとすると立ち上がったイカゲソは、古い巨人の頭から生えていた。本来のサイズであればニーズヘッグも俺も苦戦しないが、今は地下に入るためにお互いに小型化してきている。正直カバーできる範囲的に分が悪いか。レーヴァティンで焼き切っているお陰か再生したりはしないようだが、物量と密集範囲がすさまじい。
なんとか最適な効率で始末していかないと、消耗戦はまずい。モノは試しで近場のイカゲソエルフを縦に真っ二つにする。あれ?思ったより生命力弱いのか?縦に真っ二つにしたら即死ぬぞこいつ!?
『おい、こいつら縦に真っ二つにすると即死するぞ!』
城目掛けて思念波を飛ばす。しかし帰ってきた返事は意外だった。
『アホか!?そんなこと出来るならとっくにやっておるわい。真空波も、次元爪もこいつらには効きが悪いんじゃ』
ジジイ思ったより元気そうだが、そうか出来ないのか。ニーズヘッグにも教えてやろう。
『おい、そこの不良ドラゴン!こいつら縦に引き裂け、それで一発だ!』
しかしここでも意外な返事が来た。
『テメエ、ガイ・アディ・ラガ・ンか!そんなことできるのはテメエぐらいだこの非常識野郎が!こいつら引っ張ると伸びやがるんだよ!!』
誠に遺憾である。俺は他のみんなの分も片っ端からイカゲソを縦に真っ二つにしていく。力の大小よりもやはり相性が大事ということか。
見える範囲のイカゲソは全部斬った。残すはニーズヘッグにいまだ絡み付く4匹のみ。俺はニーズヘッグの尻尾から背中に駆け上がり、そのまま飛び付いてイカゲソ巨人を仕留める。四体が絡んでいたからこそ優勢だったが、そこから先はニーズヘッグが持ち直して俺との共闘で一気にけりがついた。
『久しぶりじゃのう白竜・・・・・・はて?お主人間だったかの??』
城に戻って約3000年ぶりに見たジジイは相変わらず紫色の顔色をしていた。ジジイはだいたい30mくらいか?ニーズヘッグの奴も洞窟に合わせて15mくらいになってるせいでやたらでかく見える。
『いや、人間界の文明を見に行こうと思ってな?ドラゴンの体ではでかすぎるから人間体を編み出したのだ』
『上手く出来ておるもんじゃのう?ワシもやってみるわ』
そう言うとあっさりジジイも俺と同じくらいのサイズになる。顔色も紫色から土気色になって、エルフのジジイのように見える。
『さすがは魔王デストルドー殿だ。魔力操作に一切の淀みがない』
ジジイ魔王だったのか!?というかニーズヘッグはなぜそんなことを知っているのだ。あと不良ぽくないから敬語とか使うなよ。
『お爺ちゃんすごーい』
プリメーラはただの祖父にじゃれる孫になっている。
『さて、今回は助太刀感謝する。ワシだけでは攻め落とされていただろう。奴等はやがてまたやって来るじゃろうからこの地下空洞に罠を仕掛けてワシらも地上に行こうかと思う。今回の侵攻を受けて多くの同族が滅んだ』
ジジイがしみじみ語る。すっかりエルフの長老にしか見えないけど魔王なら返り討ちとか言えよと思うのだが。
『上の森は正直あんまり広くないし、そういうことなら外の世界を調べてくるわ!』
プリメーラがエルフの隠れ里候補を探しに行くとか言い出した。
『ねえ、ガイ?貴方人間の街に行くなら一緒に着いて行って良いでしょう?途中に良いところあると思うし』
『ふむ?一人で放り出すには危ないしな。白竜さえよければお願いできんかのう?』
『分かった。確かにそれもそうだな。俺も一人で行くより良いと思うし』
『では俺は森の守護をやるとしよう。外なら本来のサイズで戦えるしな』
方針がまとまっていざ罠を仕掛けるかという段階になって問題が発生した。イカゲソエルフの城内感染だ。大体三百人ほどの生き残りがいたのだがこれで更に数名が死んだ。全て斬ったと思っていただけにエルフ達のショックは隠せなかった。勝ち残ったものの、被害はかなり厳しい。
プリメーラはお気に入りのドラゴントゥースウォリアーの竜の肩鎧に座っているが元気がない。
『早く良い場所を見つけような』
俺が呟いた一言に
『うん』
とエルフの美少女は答えた。