俺争奪戦勃発
あのあとズイエンにめちゃくちゃ謝られた。娘も同然に育ててきたサラ・マクスウェルに何かあったら命に変えてもケジメをつけるとのことで、危うく串刺しにされかねない状況だったが、俺はズイエンがサラの師匠で良かったなと心の底から思っている。良い師匠通り越して育ての親レベルに愛情があったのは良いが、半面その深すぎる愛情がサラの気持ちを空回りさせ、悪魔につけこませる原因となったのはなん足る皮肉か。
「ンー、ドシタデスカ?浮かない顔してますネ?」
食堂で遅めの食事を取り、椅子で考え事をしていると渦中の人、サラ・マクスウェルが俺の背後から抱きついてくる。プリメーラは愚か、レインですらまるで勝ち目等ない二つの凶器がなんのためらいもなく押し付けられる。これは、俺でなければバーサーカー発生装置だぞ。
「お前とズイエンのことを考えていたんだ」
「オー、嬉しいです。ワタシもガイのこと考えてマシタ」
耳元で囁かれる。こいつ、天性の男たらしスキル持ちだぞ。助けてズイエン!
「って、お前ズイエンどうしたんだよ?あれだけ恋い焦がれてて、いきなり鞍替えはどうなんだよ」
実際それが腑に落ちない。俺だからこそあの悪魔は一撃だったが、あれがラフィムやこの防壁内で本気で暴れていたらどれだけ死人が出たか予想もできない。案外ズイエンが一人で相討ちに持ってくかもしれないが、その場合は二人とも死亡、ズイエンがサラの命に拘り逆にあっさり殺されていたら防壁なら壊滅。ラフィムなら【勇者】が倒してるかもしれない。その程度の強さにまで育つ想いがあったのは間違いないのだ。
艶っぽい声でサラは俺に祈るように言う。
「ワタシ、やっと気づいたのデス。お師匠様の愛は、親子の愛だと。だから、この恋がワタシの本当の初恋」
いかん、チョロ過ぎる。サラはチョロインだったのか!!こんなの命が幾つ合っても足らねえぞ!!ズイエンに毎日刺し違い覚悟で強襲される日々とか俺は送りたくない!!
「あーーー!!!また抱きついてるぅ」
プリメーラがサラに抗議する。サラは涼しい顔して恐ろしいほどの挑発を行う。
「プリさんもすればいいのです。カミサマの愛は無限のハズですよ?二人同時に愛してもらえばノープロブレムね?」
顔真っ赤のプリメーラは沈黙。いかん、刺激しすぎだ。そしてもんだいありありだ。お前らは俺の友達とかの子孫なんだよ!?手なんか出したらあいつらに顔向けできないだろうが!というか赤ちゃんみたいなものに恋愛感情抱けってハードル高いわ。かわいいよ?好きだよ?でもそれは保護欲だろう。ああ、だんだんわからなくなってきた。
『わかった。俺も男だ。俺に勝てたら俺をやろう!』
「そんなのムリだよ!?」
プリメーラが突っ込む。
「ウチも参加する!」
ひょこっとテーブルの下からちっこい女子高生が突然の参加表明。
「オー、キュートガール!お食べー?」
突然現れたことにも動じず、サラはお菓子をユイに餌付けする。速効で仲良くなる二人。いや、お前ら言葉通じてないのにすげえな。
「ワタシ、ツヨイデスヨ?」
おもしろい、冗談のわからないお子様にお灸を据えるのも年長者の役目よ!
そんなわけで翌日第一回俺争奪戦が行われることとなったのだった。