深まる絆、傷つく心
腹もふくれて明日の方針も決まったしみんな別れて、それぞれ宛がわれた部屋に行く。
ちなみに明日はオウルに協力して付近に出る肉食象の群を駆除することになった。肉食象はかなりエグいモンスターで、象の体に爪が生えて、顔が人面風になり耳や鼻が小さい。同じ肉食でも地球の動物に例えるならライオンより白熊の方が近いかもしれない。大体1~5匹、多くて10匹くらいで群れて人間を襲う。基本的には草原によく出るが、割りと国内至るところで涌き出るそうで困っているとのこと。ゴブリンはかなりこいつらに食われてるせいで個体数が心配されているとか。どうなってんだこの国は。
部屋についた俺は早速ベッドに転がる。竜の時はほとんど寝てるわけだが、専用のベッドとか作るかな。最近人間の体なせいか、色々生活向上系のアイディアが良くでる。
眠くなってウトウトしてきた。
ドアが開く小さな音が聞こえる。ヒタヒタと床を素足で歩くような音も。トスッと小さな音がする。なんとなく腹の当たりに圧迫感を感じる。重いというほどではないのだが、まるで猫でも乗ってきたかのような。その存在から荒い吐息が漏れている。夕飯前に浄化された幽霊がいたはずだが、まだ残っていたのか?なんか揺さぶられるし。重くなるんじゃないのか、ゆさゆさと揺らされるとか斬新な幽霊だな。
『・・・・・・戻れ』
なんだこいつは。厳めしい声が聞こえ、ってどこかで聞いたことあるな。どこに戻れと言うのだ。目を開けて腹の上をみると・・・・・・。
『ってユイじゃねえか』
俺の腹の上にユイがだきついていた。
『年頃の乙女がこんな夜中におのこの部屋に上がり込むとははしたないにも程がある。戻れ主よ』
先程の声はこいつだったか。呪いの刀は古い考え方の親父かじい様ぽいな。まあその意見は俺も多分に思うところがある。パジャマ姿の女子高生とか、法治国家日本のK察が見たら俺は問答無用で社会的に抹殺されるぞ。ここは異世界だし日本もK察もねえけど。
『寝ぼけてるぞ。お前の部屋は向のドアだ』
ふるふると首を振る。目元に涙を溜めながら言う。
「お化け怖い。トイレ連れてって・・・・・・グスン」
いや、その刀もお化けなんじゃね?とは思ったがややこしいので深くは突っ込まない。確か厠は離れにあるとか、砦も水道完備にするよう提案するかな。上下水道あれば水洗トイレもありだし。床下に川を流せば水道もいらないが、増水して氾濫したらやばそうだしなかなか難しいな。ちなみに俺の本体はトイレ要らずだ。食ったものは全部肉体の再構成と熱量に当てている。それでも残るものは脱皮したときに古い皮として排出する。人間体の胃袋はあるが、その先は次元収納先を俺の本体にしてある。栄養は本体に行く。エネルギーはまた次元収納を通して俺に送られる。とまあ、俺はトイレとは無縁の存在なんだが普通の人間は体二つもないし全部エネルギーにするとか無理だしな。
色々考察してたらユイが限界なのかぷるぷるしている。いかん!?
『わかった、わかったからもう少し我慢しろ!?』
俺は限界寸前のユイの手を取ると少し早足で離れの厠を目指す。
途中巡回中の聖騎士に、夜のデートとは羨ましいですとか言われたが、こっちはそれどころではない。一人の人間の尊厳を賭け、社会的生死を問われる死闘の真っ最中である。これがサーガやブラド相手なら、その辺にしとけよ、駄目ならそこの水差しにでもしとけと言うのだが。言葉が通じないのもあって、尚も話しかけて冷やかそうとする聖騎士に鋭い眼光で威圧を与えてすくませるユイ。聖騎士を眼光だけで退かせるとかやはりただ者ではない。しかしこちらを見る目はすでに半泣きを越えてマジ泣き、寸前だ。わかった、今連れてくから。
『ふう、なんとか、間に合ったようだな』
厠の前についた俺は安堵していた。さすがに小さいとはいえ、年頃の娘に小便漏らさせたとあっては白き竜神の名折れよ。
しかしユイはまだ俺の手を離さない。いや、早くしてこいよ。
「お願いします。怖いから前までついてきて。置いてかれたらウチ死ぬから」
『いや、置いてかねえし。そんなもので死なれても困るのだが』
結局ドアの前までついていったが、呪いの刀が俺を呪う言葉をはきはじめた。やめろ、俺のせいじゃないしお前が言うと洒落になってないんだよ!?
『主の弱味につけこんで、このような辱しめを与えるとは許しがたき卑劣漢、汝のような邪悪はいずれ来る決戦の際に受けた手傷が元で、滅ぶが良いわ。平和になった世界に汝の姿なし』
つけこんでないから。むしろ俺が巻き込まれてるから!?
『くそう、お前こそ俺より間近じゃねえか!俺は外だから!お前なんかトイレ内同伴だろう!この変態刀め!』
とりあえず言い返したらぐぬぬぬいい始めたので今回は俺の勝ちだ。
呪いの刀との短いが苛烈な舌戦を終えると、やがてユイが出てくる。
「すみません、ありがとうございました・・・・・・ウチ、こんなに優しくされたの初めて」
言葉通じなくて困り果てて威圧の眼光発揮してたぐらいだし、本当に大変だったのだろう。社会的死亡を免れはしたが、色々堪ってたものが吹き出したのか泣き始めたので、俺は軽く抱き締めて頭を撫でてやる。もしおれが同じ境遇でもたぶん同じくらいすとれすを感じていただろうから。
「ほら、幽霊なんていなかったでしょ」
「う、うん・・・・・・ってガイ、とユイちゃん?二人で何してるの?」
レインとプリメーラが隣の厠から出てきた。大方俺とユイと同じことをやってきたのだろう。プリメーラが怖がってレインに声をかけたとか。
『うむ、ユイをトイレに連れてきて』『辱しめ』『ていたのだ』
俺の言葉に被せて呪いの刀が余計なことを言う。こいついつの間に共通語を使えるように!?ってユイが依頼を受けれたのとか、契約書の確認とかこいつがしていたのか!?完全に失念していた。はめる気か!?
「トイレにきて辱しめていたって・・・・・・て、け、けだもの!?」
レイン。そこ繋げないで。俺じゃないから、俺トイレつれてきただけ。
『いや、ちが、俺なにもしてないからな?』
「ガイ、信じてたのに・・・・・・ひどいよ」
プリメーラがマジ泣きで走り去る。
「プリメーラ待って!」
レインも後を追っていってしまう。
『帰って寝るか』
「うん」
『ふん、せいぜいうなされるが良いわ』
本日の呪いの刀との勝負、俺の負け。