幽霊砦と国王暗殺計画
ルビム砦に着いた俺達は砦の隊長をやっている聖騎士オウルにいきなり泣きつかれることになった。
「よくぞ来てくださいました。私はこの砦を預かる聖騎士オウルと申します。教皇様から伝書鳩で事情はお伺いしておりますので装甲馬車の整備はお任せください」
『世話になる。ところで、砦内の雰囲気が暗いがどうしたんだ?』
「実は、この砦に夜な夜な悪霊が攻めてくるのです。かれこれもう一週間くらいでしょうか。幸い大した強さではないのですが、見た目が問題でして」
あー、強くないのに弱ってるってことはグロいのかな?悪霊については俺も専門外なんだが。ふと横を見るとユイが脇腹にしがみついている。共通語だったから内容はわからないはずなんだが。
『ええい、主!!あんなもの斬って捨てよ!!』
あー。今見えてるのか。ていうか呪いの刀の思念波も日本語なせいか、他のみんなには不気味な音にしか思われてないぽい。
『ユイ、どこにいるんだ?』
「見てない見てない絶対見てない。血まみれのオバサンなんかいないんだもん。ウチは疲れてるだけ」
うん、見えてるな。視線を追うと・・・・・・見えないんですけど。
「サーガ、幽霊って見える?」
「僕も幽霊は見たことないですね。エネルギー波を打ち出してくるモンスターのゴーストとかレイスはありますけど」
どうもレインとサーガも見えてないようだが、きゅっとユイとは反対の脇腹ににプリメーラがしがみついている。超怖がってるし。視線の方向はユイと同じようだが、やはりなにも見えないな。
『何かいるのか?』
「見えないの?異常に大きい血まみれの女の人がこっち見て笑ってる・・・・・・」
『見えぬ。もしやとは思ったが、生命関知にも引っ掛からないし』
ユイとプリメーラと二人同時に俺の脇腹にしがみつく力が強くなる。プルプルしてるし。
「やはり皆さんも見えたり見えなかったりするようですね。それが問題なのですよ。怯えるものと、まるで見えないもの同士の不和が原因で別の形でノイローゼになるものも多くてでして」
なるほどこれは面倒だ。
「プリメーラ、こういうのはだな、見た目が怖いのが不味いのだ。その女に鎮静と復活の魔法を飛ばしてやるべし」
プリメーラなら本当はグレーターヒールの方が良さそうだが、あれもう少し近寄らないと使えないんだよな。復活と言っても生き返りの魔法ではない。破損した体を正常な状態に戻す魔法だ。腕が取れたり足がもげたらヒールではなく、リザレクション!と叫ばれるとおもうべし。ちねみにグレーターヒールは術者の力量で効果がかわるがプリメーラなら部位欠損とかをおまけで治してくれる。
「サニティ!リザレクション!!ついでにアンカース!!」
なるほど、呪われてそうなのか。解呪も確かに効果あるかもしれないが。
『どうだ?』
「あ、きれいになったよ!お辞儀して消えちゃった」
『ユイ、まだいるか?』
プルプルと首を振る。どうやら同じものが見えていたらしい。
「もしや、今ので解決を?」
『うむ、できたようだ。俺には見えないからなんとも。お互い苦労するな』
とりあえずオウルの案内で夕食をいただいたが、なるほど、ビルなかなかよくやってくれているようだ。騎士団の糧食はなかなか質がよいものが出ているようだ。
「普通に酒場の料理よりおいしいですよこれ」
「本当ね、冒険者ギルドは壊滅しちゃったことだし、いっそガイさんに仲介お願いして聖騎士団にいれてもらうのもありかもね」
無邪気に料理に感動しているサーガに対してなかなか強かなことを言うレイン。
『それは構わないが、ドミニアに活動拠点を移すのではないのか?確かあちらのギルドは活動中なのだろう?』
返事はなぜかブラドからきた。
「あちらのギルドは今、王と戦争しております」
『冒険者ギルドダメじゃん』
反乱体質なの?また乗っ取られてるの?迷惑な組織ナンバーワンだな!!
しかしこれにはオウルが細かく事情を話してくれた。
「ドミニアの場合はギルドが正しく、王が狂ったのです。スタンピード発生後、王都周辺に溢れでる魔物は依頼など出していたらその間に被害が増えるので、我ら聖騎士団が引き受けて絶えず狩り続けております。しかし今度は国王ザッハーク・アジ・ダハーカが近衛と共に夜な夜な街を襲い、住民を殺害するようになったのです。冒険者ギルドの残存兵力と聖騎士団の精鋭メンバーによる防衛戦力は毎夜決死の戦いで王達を王城に抑え込んでいるとのことです」
とんでもねえ国だわ。かつては法王、ギルド長、今は国王まで、全員人類の敵とか舐めてるのか?滅ぶぞマジで。
『決まりだな。用事はいくつかあるが、次の俺の仕事は国王暗殺ってところかな』
みんなしてドン引きされた。いや。そんな王様暗殺しちゃった方が世のためだろ。