エピローグ ラフィム教会の宴
※これで一部終了です。
ラフィム聖騎士団は現在、次の目的地である王都ドミニアに遠征中とのことで、今回の冒険者ギルドの動きには最低限の戦力しかうごかせなかったとのこと。
「そ、そのスクロールは!?もしやあなた様は伝説の白き竜神様!?」
謁見の間でラフィム教皇、ビル・マクスウェルに俺はボブに託したドラゴンスクロールと対になる契約書を見せた。ビルに出会って俺は良い笑顔になっていた。割れた顎、ごつい顔、確かにこの顔の特徴はボブの血縁だ。しかし、俺の予測した通り、外の血が混じったのだろう、その濃いガイジン顔は適度に薄まり、逞しく生還な男になっているじゃないか。
「ああ、500年前にボブと交わした約束の成果を確認しにきたのだ」
回りにいた多くの教会上位のおっさんたちから実在したのか?とか、思ったより小さいな?とか、違うだろおっぱいがないじゃないか!とか様々な声が上がる。いや、俺はumaじゃないし、これは分身だし、おっぱい星人はどこからその結論に行き着いたと問い詰めたいぞ。
「諸君、静粛にしたまえ!失礼だぞ」
さすがに教皇、偉くなっているだけあって発言力が素晴らしい。
『さて、かつて隠れていた星の子と、その眷族を葬り損ねたが、今回危ういところではあったが、先程改めて果たしてきた。次はこちらから教会に課した二つの課題について成果を見せていただきたい』
教皇が真顔から破顔一笑する。
「存じてますとも、多くの人々を受け入れ、血を拡げ薄めること、これは我らの容姿を見ていただければ確実にお分かりいただけたのではないかと存じます。そして様々な人の食べる糧を調べよとのことも。今宵はその成果をお披露目いたしましょう!!者共、宴を始めよ!!」
教皇の号令のもと、一子乱れぬ完璧なフォーメーションでテーブルが用意され、料理が盛り付けられていく。こ、これは宮廷料理的なものが!?ボブよ、よくやってくれた!!お前の子孫はついに俺に旨そうなものを出すまでになったのだ!
プリメーラが目を丸くして眺めている。ユイは腹を減らして目が回っている。二人とも少し待てば素晴らしいものが出てくるぜ!
サーガとレインもあっけにとられているが、聖戦士の列に混ざったブラドは良い顔で親指を立てている。いや、お前はなんなんだよ。
そこから先はしこたま飲んで食べてのパーティになった。
「師匠、僕は、僕は、うおおおおおお!!」
なんかテラスで号泣しているサーガがいる。誰だあいつに酒を飲ませたのは。よく見るとブラドがレインに謝っているようだ。気をきかせたつもりが、予想外にダメな結果を出したと言うことだな。苦労が多そうな二人だ。
俺の方には教会のお偉いさんたちがサインくださいとか握手お願いしますとか、孫の名前に一字下さいとか俺に集ってくる。肉と酒を携えた坊主とはこう言うものか?と思うような光景だが、こちらの僧侶は肉食系なのだ。適当なところで回避してビルと話をする。新たな教えについてだ!
『誠に大義であった。これからも研鑽してほしい。また折を見て訪ねたい』
食料ではない。きちんとうまい料理が出てくるようになったのだ、これを全ての街でやってくれれば俺としては非常に楽しみが増えるのだ。よもや再び照り焼きが食えるとは思わなかった。次は米か代替作物を捜してもらおうかな。
「喜んでもらえて幸いです。ところで、我が祖先に教えをいただけたように、私にも新たな教えはいただけるのでしょうか?」
『ああ、捜してほしい神の食物の話をしよう』
こうして俺はビルに米の素晴らしさを説いた結果、寿司の説明の辺りでビルはボブみたいになった。
「ファッキンシット!!そ、そんな禁断の食べ物がまだ世界には眠っている可能性があると!?」
心の声だと思っていたが、口が悪いのはこいつらの育ちが原因なのか?マクスウェル家の教育方針がニューヨークのストリートキッズ育成になってそうで心配だ。
『その冒涜的な味わいはひと噛みごとにじわりと甘味をともない、かぐわしき芳香は痩せて枯れた老人にすら食欲を感じさせるほどよ。次なるクエストだ、勇士を育て神の食物【米】を探索するのだ』
「おお、ジーザスファッキンシットガッデム!!人生の意味を理解しました。【米】よ、貴方が私の生きた意味」
ダメだ、興奮のあまり変なこと口走っているぞ教皇。
時間かかるし空振りかもしれないが、食べたいものは食べたい。何とかなると良いのだが。この分ならマジで全力で探してくれそうだし何とかなるかな?
さて、他のメンバーは楽しんでいるのか?
まずな、小一時間問い詰めたい。ドラゴントゥースウォーリアよ。なんで葡萄酒をがば飲みしてるんですかね?ていうかお前に飲食する機能はないはずでは?ま、まあ今日は宴会だし、飲めてるなら良いか。今度また調べよう。
で、次、プリメーラが若い司祭にしきりに言い寄られている。確かに見た目は耳が長い以外は普通に美少女だからわかるのだが、肉は食らうわ酒は飲むわ、女口説くわで、ここの坊主たちはマジで生臭だな。目が合ってタスケテコールが送られてきたので、適度なところで引っ張って救出する。
「ううう、もっと早く助けてくれてもよかったよー」
『悪いな、こちらも結構囲まれていてな』
俺の第一の目的はこれで果たしたわけだが、森からここまで、未だに魔族が安心して住める定住先がなかなか出てこない。前に少し聞いたが、世界樹の上とかどうなのかもう一度聞いて見るか。
『なあ、プリメーラ?』
「うん?なーに?」
『前に少し話した世界樹で暮らす話、どうだ?この先良いとこ見つかればそっちでかまわないんだが、お前が良ければ俺はできることなら何でもしてやるぞ?』
あんまり穴とかあけると世界樹枯れないか心配だが、家建てたりエレベータ作ったり、資材を運んだりなら俺でもできるしな。
「え、えと、あの、本当になんでも?」
『ああ、欲しいものあれば取ってくるし。ジジイが渋るようなら別に家を建てても良いしな。将来子供が生まれた時のことも考えて、いくつも居住ブロック作っておくか?』
今は小集団だから良いかもしれないが、この先繁栄するかもしれないしな。魔族の子供がどれくらいで育つかわからないが、こういうのは事前の準備が大事だろう。
「ガイは、その、子供好きなの?子供ほしかったりする?」
増えた方がやっぱり良いよなあ。そいつら相手に先生やるのも面白そうだし。先の問題が終わったら育成チートとかやるのもよいかもしれん。
「ああ、いっぱい欲しいな。できるかなんとも言えないが、一緒に未来の英雄育てるか?一人とか二人育てても最初は上手くいかないかもしれないが、慣れれば問題ないだろうし、なに、いっぱいやって数打ちゃ当たるさ」
今の仲間で、弟子を育ててそいつらにパーティ組ませるとか割りと胸が熱い展開だ。ふふふふ、ついつい笑顔になってしまうぜ。
「そ、そうなんだ。えと、上手くいくまで数打ちされちゃうんだ・・・・・・。旅が終わるまでに心の準備するから、今は待ってほしいかも?」
む。また風邪か?頬が赤いし動悸息切れを確認した。まあ、少し無理してきたし少し休ませた方が良いかな。
『む、夜風に当たって冷えたんじゃないか?部屋に行こうか?熱っぽいし、こういうのは早い方がいいんだ俺に任せろ。暖かくするのがよいのだ』
さっさと寝て治す。健康の秘訣だな。
「え!?待って!まだ、その」
『いや、こんなに顔赤いし早く寝ようぜ?俺は良いから、行くぞ?捕まってろ』
「は、はう」
腰が引けて足にきてるぽいので俺はプリメーラをお姫様だっこでビルに借りた教会本部内の賓客用の部屋まで運んでやる。移動中顔を見れば相変わらず真っ赤にしてるし瞳は潤んでいるしで大分無理させたようだ。俺も大分ドラゴン時よりは気が利くようになったとは思うが、意識してやらないとみんな、俺より遥かにもろいから加減がわからん。
部屋について俺は驚いた。月明かりを取り込んだステンドグラスが幻想的なムードを演出していたからだ。部屋のテーブルにはよい香りの花が飾られており、美しい装飾の燭台のやわらかな明かりが心を安らがせる。これは素晴らしい。恋人同士でこんな部屋で語り合ったらさぞかし盛り上がるのだろう。俺恋人いねえし語り合う内容がゲームとラノベと飯の話しかないからムードとかぶち壊すこと受け合いだけど。そしてこの世界にゲームとラノベないから混乱しか生まないよね。
『よし、ベッド行くぞ、俺も今夜は早く寝たいし』
一通り調度品を堪能していたらプリメーラを抱き上げていたことを失念していた。が、杞憂だったようだ。プリメーラも俺の腕の中で様々な調度品に見とれていたから。さっさと寝かして俺も寝よう。ドラゴン基本的に寝るのも仕事のうちだから。いや、マジで。寝てる間に大気中の毒素を濾過して回りの空気をきれいにしてるんだぜ!
「えと、本当に?まだ心の準備が・・・・・・」
本当にも何も倒れてからじゃ遅いし。寝るのに準備なんかいらねえだろ。って、要るのか。歯みがき!洗顔!ドラゴン虫歯にならないから忘れていた。
『ああ、じゃあ準備しようか』
「あ、はい」
大人しく風呂場まで連れていかれるプリメーラ。しかしそこで俺は凄まじいものを発見してしまった。
すげえ、教会の最新技術か!?ジャグジーあるし水道もついてるぞ!?
お湯でる!マジで教会やべえ!!考えてみたら浄化魔法でさっぱりしていたせいか、万年単位で風呂に入っていない。いや、ドラゴンボディは脱皮するし?そもそも普通の生き物と同じ老廃物は出ないから必要なかったんだよ。返り血とかも、浄化の方が早かったし。
俺が感動してると、プリメーラがボーッと立っている。
『悪い、俺風呂入らせてもらうから、歯みがきしたらベッド行ってくれ』
「う、うん、でも、だったら私も入りたい、匂いとか気になるし」
『いや、ダメだろ。大丈夫。お前の匂いとか気にならないし。むしろ良い臭いするからたまに嗅ぎたいくらいだし』
たまに横歩いてるとなんか日向の匂いというかノスタルジックな匂いがするんだよな。あれだ。夏休みの匂い?ってさすがにちょっと失礼か。ひまわり畑のような。ひまわりの匂いとか覚えてないけど。
「ダメなの!?匂い嗅ぎたいって、恥ずかしいよ・・・・・・でも、ガイがそういうならわかった」
なんのかんのでなぜか許可されたし。今度俺のかつての夏休みの話でもしてやろう。クワガタ取りにいったり宿題放置してゲーセンいったり、図書館クーラー使い放題だからトレカでデュエルしたりだな・・・・・・て今さらだがろくでもない人生だな!!
『あー、さっぱりしたぜ!!風呂は世界樹にも作るわ。娯楽施設として良さそうだ』
「・・・・・・」
ベッドに横になったプリメーラはこちらに背を向けて無言だ。寝たか?
『寝たふりか?』
ピクリと肩が震える。夜更かししてて親の消灯チェックをくぐるガキの反応だな!甘いぜ、俺はそんなんばかりだったから騙されないぜ。 親の顔なんてもう、うろ覚えも良いところだが、いきなり死んで申し訳なくは思ったんだよな。こっち来て千年くらいしてからだけど。
「ねえ、ガイ?」
『何だ?』
眠そうと言えば眠そうだがなぜかプリメーラから闘気のような何かを感じる。何これ。
「プリメーラのこと好き?」
『当たり前だろ。嫌いなら一緒に旅なんてしない』
「ちゃんと好きって言って?」
あれか?調子悪いのと眠いのとでナーバスなのか?
俺はベッドの端に腰かけるとそっと頭を撫でてやる。
「はいはい、好きだよ」
そのまま睡眠魔法をかけてやる。これで朝までぐっすりだな。風呂に入ったら疲れも抜けたし、これ寝なくても良いな。飲みなおしだな!
会場に行くと、しゃべる相手がいないせいかひたすら食べていたらしいユイに捕まった。ししたらブラドが良い酒をくれたのだが、俺は惰性でユイが飲んでいることに気がつかなかった。しばらくしてから酒乱になったユイが呪いの刀を解放し、教会の尖塔が一つ輪切りにされた。そのあと大量に食べていたのが悪かったのかリバースストームの悲劇が起きて、俺は会場の片付けと、昏倒したユイの介抱で徹夜したのだった。未成年に飲酒させてはいけない!!
翌朝起きてきて涙目のプリメーラに俺はメチャクチャ切れられた。
俺が何をしたと言うのだ、解せぬ!!
エピローグ終了時点のみんなの一言。
プリメーラ「・・・・・・もう嫌」
ユイ「オエエエエ」
呪いの刀『主よ。酒は飲んでも呑まれるな。我に吐くな。錆びる』
レイン「サーガ、しっかりして!正気に戻って!!」
サーガ「うおおおおおお!!僕は!僕は!!う!?」
ブラド「昇進しました」
ドラゴントゥースウォーリア『旨し。人界もたまには良いか。魂の同胞が渇望するだけはある』
ビル「ファッキンシット!トーリーシット!!ボーシッ!!【米】シット!!!」←パニック
サム「オラ、死んだみんなと会える魔法を勉強する」←乱心