五百年ぶり
ボブと別れた俺は、マイホームに帰って本体のドラゴンと融合して5百年を待った。新作ゲームの発表から発売を待つのに近い感覚かもしれない。
ボブからもらった本はかなり詳しい語学の本で、人間の使う魔術や剣の奥義の秘伝書も読めるようになった。発音もバッチリだろう。待ってろ人類、お前らの進歩を見に行くぜ!!
とかテンションあげていたら珍客が来た。
『何の用件だ東の?』
東の、というのは俺のマイホームは世界の最北端にあるのだが、この珍客は東の果ての山を根城にしている特大の鳥だ。もっとも、シルエットが鳥なだけでよくわからない金属の塊で出来ているから変形するかもしれないと思っているのだが。
『人間界に干渉したようだがどういうつもりだ?この世界の人間はいずれ世界を滅ぼす可能性があると神は言っていた。下手に知恵を付けさせればそれが現実に成りかねんと解らぬわけではあるまい?』
確かに転生する前にそんなことを言っていたな。
『安心しろ、何かあれば責任は取る』
いざとなったらドラゴンとして全部一切合切闇に葬るからそれで許してくれよという意味で言ったのだが東の奴はそうは思わなかったらしい。
『己の命に賭けて人の往く末を見るというのか。我ら超越者よりも生きるべきだと?』
深読みしすぎというか、物騒な雰囲気になってきた。
『そうではない、そうではないのだ東の』
素直な気持ちで誤解を解こうとするが、東の奴は臨戦態勢だ。
『滅ぶべきは我らだと言うのだな、ならばこちらから先手を打たせてもらおう、貴様を滅ぼしてから人間を間引くとしよう』
東の奴は俺に向けて強烈なプレッシャーを放つ。魔力ではない、闘気による物理的な圧力を俺は俺で翼を拡げてかき消す。
『そちらがその気ならば俺も全力で戦わせてもらおう』
俺が鱗を魔力で強化し、戦闘モードに入ると東の奴は闘気の放出を止めた。
『そこまで本気ならば最早我らはお前を止めようとはせん。我らが戦えば人間がどうこうの前に世界が壊れる』
至極もっともな話ではある。その気になれば俺達の争いだけで地獄のような光景を作り出せるだろう。
『世界に仇なすつもりはない。力のほとんどはここに置いて行くつもりだ』
俺はそう言うと人間体をとり、ドラゴンの俺とに分裂した。
『そうか。世界の守護の任も忘れてはいないのならば良い。だがゆめゆめ忘れるな。人間は災害指定生物だと』
『わかった。だが当面の裁量は俺に任せてもらうぞ。育てた苗を勝手に焼き払われては面白くない』
東の奴は頷くと飛び去っていった。真面目すぎる奴だ。
『また人間の街に行くのか?』
ドラゴンの俺が眠そうに言う。半分自然の化身みたいなものなせいか、基本的には眠い生き物らしい。
『ああ、世界樹を降りて行くから送迎はいらないから寝ててくれ』
『また戻ってきたら起こしてくれ』
そう言うと俺の半身は眠りについた。客観的に聞くとわかるがイビキがうるせえ。
そびえ立つ白亜の岩山のような異様だ。もし人間界に転がってても誰も挑もうと思わないだろう。しかし外宇宙から来る邪神(笑)とかは構わず喧嘩を売ってくるのだから理解に苦しむ。勝ち目なんぞないと言うのに。
俺は落下制御の魔法を駆使して世界樹を転げ落ちるように降りて行く。普通に歩いていてはいつまでたっても地上に到着しない。半分降りてもまだ生物はいない。
四分の1まで降りたところで炎と光に包まれた巨大な鳥に遭遇した。こいつの尾羽はレーザー収束型の光線剣を作れる。俺はダメもとで交渉してみた。
『すまないが尾羽を一本もらえないか?代わりに俺の鱗を一枚やるから』
俺の鱗はぶっちゃけ万能素材だ。強度、色彩、魔力付与と何をしても便利なため贈り物には良い。
『お久しぶりですね。その交換なら喜んでいたしましょう』
俺は少しの会話をしたところ、世界樹の根本の森にここ三百年前くらいから人間のような生き物が住み着いたとの情報を手に入れていた。
耳が長くて青白いらしい。俺は遥か昔に地面の下に静かな寝床を提供した顔色の悪いジジイを思い出した。あのジジイの子孫だろうか?少し楽しみになりつつも俺は世界樹を降りていった。