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【勇者】対ドラゴン

 ラフィムの街は入りくんだ棚田のような、平地と平地が階層状に隣接しあう特徴的な構造をしている。と言えばそういう都市設計に思われるが、無計画に拡げるだけ拡げてダメになれば次のスペースをもとめて作ったようにも見える。そして俺はたぶん後者だと思っている。イカゲソの仲間の深き者の巣の姿がこれに近いのだろう。一度焼却した方が人類にはよいのではなかろうか?


『俺はこいつらを何とかする、みんなはその【冷血】と合流してこちらが落ち着いたら来てくれ!』


「師匠!?」


 俺たちの馬車が走ってきた街道から町中に入るルートの崖上はいくつも階段が巡らされた街並みを降りると冒険者ギルドに到着するわけだが、俺は馬車を飛び降りてそのまま上空からの飛び蹴りを堕天使ザリガニエルの脳天に食らわせてやった。遠くで馬車の仲間の声が聞こえるが、今はこのお化けザリガニを倒すことに集中する。

 俺の魔力と闘気を乗せた飛び蹴りはザリガニエルの頭胸部から背甲にかけて、致命的ではないまでも大きな亀裂を走らせることに成功した。あるのかないのかあまり無さそうに思える脳みそがうまく揺れたようで、斜めに傾いだザリガニエルだったが、勢いよく突き込んだ右足が殻に挟まって抜けない。ええい、臭くなるから早く抜けろ!足を引き抜こうと苦戦する俺めがけて、早くも攻撃行動に移ったヤドカリエルの大きな鋏が降り下ろされる。俺を驚異として見たのか、仲間の堕天使を見捨てて、もろとも潰そうと言うのか。しかしよく見るとヤドカリエルの頭からは触手がはみ出ている。まさかと思い見れば、ザリガニエルの口からも口器に混ざって舌のような触手がはみ出ているではないか。


とっくの昔に洗脳は済んでいたと言うことか。ならばこいつらの戦っていた相手は誰だ・・・・・・視界を巡らせると他の2体と戦うやたら違和感のある男の姿があった。

 紋章の刻まれた護拳のついた野暮ったい喧嘩剣、同じく紋様のついた小型のバックラー、額には精神集中用のサークレットか?体は布の服に皮革と金属の補強がされた実戦での機能美ばりばりの防具、ブーツも何らかの精霊の働きを感じさせるものだ。一目でわかった。こいつは今まで見てきた人間で一番強いと。もしこいつに適正なランクがあるならSSSってところか?

 ヤドカリエルの大鋏が俺を直撃する。いて。

だが今ので頭がつぶれたザリガニエルは致命傷だ。俺の足も甲殻が砕けたおかげで抜けた。久しぶりにレーヴァティンを抜いてヤドカリエルの大鋏を切り落とし、跳躍してヤドカリエルの頭を触手ごと焼き切る。光線剣が触れた甲殻は香ばしい臭いとどぶ臭い臭いを混ぜたひどい臭いがした。間違えてもこいつらを食おうとは思わないな。


 俺がヤドカリエルを仕留めている間に他の2体は男が仕留めていた。人間にしては異常な強さだし、何より早すぎる。


「忌々しき白とは大層な二つ名の冒険者がいるな?とは思ったけど、完全に見当違い、本物の化け物だとは思わなかったよ」

 

 世間話の感覚で話しかけてきたが、話が終わればこいつはすぐにしかけてくると確信できるほどの殺意を放出している。なんだこいつ。


『こいつらを起こしたやつらは何処に行った?』


 俺の何かがこいつの危険度を告げている。油断すれば俺でも危ないと。


「つれないね、俺のことは興味ないってかい?ギルド長達なら見ての通りさ。こいつらの口から出ていたろう?あの気持ち悪いのが本体さ。星の落とし子の末裔とか言ってたけど、俺がちょっと本気だして追い詰めたらビビってこの化け物を呼び出したんだけど、弱すぎだよね。10匹出てもそこらの虫みたいなものじゃないかな?人間を苗床にこの国を蝕んでいたようだけど、いよいよ見過ごせなくなったからね、思いきって狩っちゃったのさ」


『なるほどな。で、お強いお前は何者だと?


 男は軽薄そうな、まるで笑顔の仮面を張り付けたかのような表情で笑う。ナイフで無理矢理刻んでもこんなに陰惨な笑顔はできないだろう。


「俺は【勇者】アルス・ファルシオン。俺が、というか父親が勇者でね。世襲で外に出されたのは良いけど、ほら、俺って生き物を殺すしか能がなくてさ?殺して殺して殺して殺していたら、ギルドの上層部に贔屓にされるようになったんだけど、バカだよな。下等生物の癖に人間に喧嘩売って殺されてやがるの。なんだよ?笑えよ」


 かんっぜんにぶっ壊れてやがる。快楽殺人鬼の勇者でおまけにこいつ、【ギフト】持ちだ。加護と違い、だいたい1つか2つの理不尽な性能のスキルを貰うチート生物が生まれることがある。俗に言うユニーク個体だが、まさかこんなところにいるとは思わなかった。人外殺しと、殺しの楽しみとか言う最低にして最適な【ギフト】だ。


『ふん、舐めた奴らは殺したんだ、俺と戦う理由はないと思うがな?』

 

「あ?お前は人間じゃねえだろ?死ねよ下等生物」


 アルスの喧嘩剣が俺の左腕をへし折る。俺は右手のレーヴァティンでアルスの左肩から先を焼き切る。二人とも致命傷ではない。しかしアルスの攻撃は単発ではなく連撃だった。下顎をかちあげられ、一瞬にして空中に吹っ飛ばされる俺。それを下からの跳躍で上回り、水月に剣を突き刺しながら全力で叩きつけるアルス。


『ぐはぁ!?』


「まだまだ、お楽しみはこれからさ?楽には死ねねえから!!」


 アルスの腕から放たれた無数の雷が俺を貫く。

 俺が動けない間にあいつはポーションをがぶ飲みすると腕を再生しやがった。


「ああ、これ?これはエリクシルさ。どんなにやられても俺が諦めない限りいくらでも怪我を治してくれる魔法の薬さ。俺を倒したいなら即死させるしかないからね」

 

 こいつより強い奴はいくらでもいる。だがこいつに勝てる奴は一人もいない。そんな嫌な強さが【勇者】アルスにはあった。


『だいたいわかった、お前の強さ。俺も本気だぜ?』


 へらへら笑ってられるのは今のうちだ。今度は俺から仕掛ける。ドラゴンの圧倒的な力をレーヴァティンにそそぎこみ、グレートソード級の光線剣を展開、竜の鱗で全身を装甲につつんだ俺は不可視の一撃を無数に叩き込んでアルスをぼろ雑巾にする。単純な話だ。亜光速で突撃して、光速の剣を振るうだけ。察知も見切りもさせない。


『ふん、下等生物め』


 最後に吹き飛ばしたらそのまま逃げを打たれた。ここで奴を倒しておきたかったが、今はこれでよしとしよう。俺は【冒険者ギルド】跡地に空いた深淵を思わせる穴を降りる。俺の予測が正しければまだ終わらない。

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