堕天使降臨
なぜだろうか?サーガ以外のパーティメンバーの俺への視線がとげとげしい。
まずレイン。うっかりサーガ死亡事故は謝ったはずだが、何かと警戒されている。あたりがきつい。何かと他のメンバーを俺から庇おうとするのやめてもらいたい。
次にブラド、人類で一人しかいない白竜の加護持ちになったことで、若干中年太り気味だった肉体がいきなり引き締まり、精悍に。しかし教義がどうのと未だにぶちぶちぼやいている。どうやら白竜の加護は若さと生命力にボーナスがつくようだ。これ連発すると長寿の村が作れそうな気がするが、あんまり使わない方が良さそうな気がする。生態系破壊しそうだよね。
サムはマンドラゴラの煎じすぎで延々あの声を聞かされたせいでノイローゼ気味に。更にいろんな魔法薬を調合させたらすっかり人相が変わってしまい、山賊予備軍からホラー世界の住人みたいな顔に変わってしまったと言う。余談だが後世サム・シパリティというネクロマンサーが大陸有数の薬士として名を馳せるらしいことを、この時の俺はまったく予期していなかった。
最後にプリメーラはこないだのドラゴンメタルインゴットの件以来、目を合わせるだけでドラゴントゥースウォーリアの背後に隠れるようになってしまった。おかげで足鎧は未だに渡せていない。ささっと隠れる姿が小動物っぽくてかわいいが、おいでおいですると完全に隠れてしまう。なぜだ。
ドラゴンぼっち生活で麻痺していたが、俺自身は割と人とワイワイやるのが好きな方だった気がする。今の空気、絶対良くないから。ああ、こんなとき適度な強敵が来てくれれば。
なんかもう面倒くさいから冒険者ギルド本部にいる黒幕を俺がこそっと暗殺してしまってだな、みんなの前に首でも転がして『これで悪の野望は潰えた!』とか言ったらみんなも笑顔になるだろうか?・・・・・・生首転がして笑顔の集団てのも狂気を感じるな。やめよう。
俺が悩んでいると村人が何かわめきながら走ってきた。装備品が上等になったおかげで山賊臭は減ったが、じみに襟首に血痕がにじんでいる服とかこれはこれでどうなんだろう。
「てえへんです!ラフィムの方になんか変なのがいっぱいわきやがりました!!」
変なのってまた冒険者かよ?と思ったのだが、窓から外を見て、俺も驚いていた。本体の俺と同じくらいでかいザリガニとかヤドカリみたいな奴等がラフィムの方角でめっちゃ暴れている。どこから涌いて出たんだよ。
「師匠!あれはいったい何なんですか?」
サーガが俺の部屋に駆け込んできて開口一番質問してくる。
『知らん。邪神(笑)の眷族がそれっぽいけど、だいたいあいつらは触手が生えてるんだが。なんか固そうなのは少し毛色が違うな?』
「あそこら辺に冒険者ギルド本部があるんですが、これもギルド長の策なんでしょうか!?」
いや、自分の本部にあんな化け物共を呼び出して策もくそもないだろう。なんかの事故じゃねえの?
『とりあえず、見に行くか?』
「はい、みんなを呼んできます!」
さすがのみんなも甲殻類の乱舞を遠目に確認して呆気に取られて俺への態度が元通りになっている。ナイスだ化け物!
「ナニアレ?」
首がギギギと音を鳴らしそうな感じにレインが聞いてくる。
「あれは!?冒険者ギルドが封印していた堕天使ではないでしょうか」
ブラドが意外な情報をもたらした。さすが俺の加護持ちだ、もっと喋れ。
「堕天使?堕天使ってエビなの?」
プリメーラが困惑している。俺もよくわからない。ブラドがそのまま続ける。
「はい、旧聖典に記されているのを絵巻で確認したことがあります。確かザリエル、ヤドカリエル、サワガニエル、フジツボエルの四体の無法な堕天使を封印したとか」
そのまんまじゃねえか!?そして今回の謎が少しとけたぞ。
ネーミングからしてリザードマンの祖先の人や俺のような転生者が封印しているのは間違いない。そして出所は旧聖典ということは邪神(笑)に転生したか?その邪神(笑)に封印された化け物を管理している奴等は邪神(笑)かその眷属で間違いない。ラフィムの冒険者ギルド本部は邪神(笑)に支配されているのだ。
『黒幕ほぼ確定だわ。冒険者ギルドに攻め込もう』