神の知り合いとして
歩き続けること数ヵ月、俺はついに人類の街を発見していた。石造りの城壁に囲まれた古代風のファンタジックな街だ。服装とか冒険者っぽく鱗を変化させた素材で作ってみたが、全身白っぽくなってしまったせいでやたら派手な気がするが大丈夫だろうか?
そんな不安を他所に街の人々が俺に視線を向けることはなかった。この街の第一印象だが、思ったより発展していない。まずうまそうな食い物がない。なんか真っ黒い汁を煮込んでいる店や、カビのはえたパンを売る店が見えた。製鉄技術はそこそこなのか、兵士の装備やら馬具はまともな物があるが、なんというか貧しい。貧民街みたいなのが全面的に続いてる。壁にもたれ掛かったまま死んでる人がいるが、誰も気にも止めない。住人も満足に飯が食えていないのか皆頬が痩けている上に擦りきれたような服を着ている者が多い。目が死んでいる。と言うかよく見たら目玉が腐れ落ちている奴とか、骨がむき出しのやつらがよたよたと歩いている。こいつらみんな死んでるんじゃないか?
開け放たれた大門、兵士は立ってるだけで俺を誰何することもなく、仕事しろよと思ったがどうやらこの街は死人が惰性で日常を続けている街らしい。魔法か呪いか知らないが、ここには俺の用事はない。さっさと通り抜けることにした。
そしてそれから更に数ヵ月。あれからいくつも街を発見したがどこも最初の街と似たような状況だった。死病が蔓延してるのか、生きた人間は一人も見つからない。これは人類絶滅したか?と不安に思っていたそのとき、前方でゴブリンの群れと、それに追われる馬車を見かけた。俺は走った。馬車が消し飛ばない程度に加速して並走する。横目に見た御者のおっさんは洋ゲーのアメリカ人ぽかった。ジェスチャーが大袈裟な上になにしゃべってるかわからない。そう言えばこちらの人類の言語がわからない。俺は精神感応で波長を合わせてから語りかけた。
『後ろの小鬼共を何とかしてやるからうまそうな食い物をくれないか?』
「オーマイガ!?あんた何者だよ、神の使いか!?」
相変わらず言葉はわからないが直接思考を読み取っているからこれで対話は問題ない。字幕の洋画みたいに口と台詞が合っていない。
『俺は神の知り合いだ』
転生した時以来会ってないが知り合いには違いない。そもそも俺がこの世界に来たのは神がうっかりで俺を召喚してしまったからだ。
「ホーリーシット!!ついに私の祈りが神に通じたのか!私の教会まで帰れたらできる限りの御馳走を用意するからなんとかしてくれえ!」
『わかった。停まっていいぞ』
それだけ言った俺はゴブリンに向き直り、右手を軽く振るった。百匹くらいだろうか?ボロボロの武具をまとったゴブリンの群れは衝撃波にさらされて全員がぼろ布の様に成り果てていた。
「ジーザス!マジで奇跡だ!私の名前はボブ・マクスウェル、失礼ですがあなた様の御名前は?」
『俺の名前はガイ・アディ・ラガ・ン。ガイと呼んでくれればいい』
「わかりました。私の教会はここから半日も進めばあるエーデル王国のラフィムの街にあります。神の教えを厳格に守る良い街です。ああ、ついに私の祈りが通じた。これで皆救われる」
精神感応が全ての思考を拾ってしまうせいでボブが変な人みたいな発言をしてるように見える。少しレベルを落とすか。
『神の教えとは?』
「礼拝 供物 戒律」
レベルを下げすぎた。断片的すぎて秘境の部族みたいになってしまった。難しいぞこれ。
道中の半日かけて色々調整したが、やはり人類と違和感なく触れあうには言葉を覚えた方が良さそうだ。言語に関する蔵書があるので、俺への供物としてそれもくれるというので有り難く頂戴することにした。ボブの教会には大勢の人々が礼拝に来ていた。俺がこれまでに見てきた死病の街は徐々に増えており、その不安から人々は神に祈るようだ。
結構立派な教会だ。というか、クレリックやらプリーストやらビショップと肩書きのついた部下が大勢ボブの帰りを待ち望んでいた。人気者な上に偉い人だったのかこいつ。
「マクスウェル枢機卿!こんな時にどちらに行かれていたのですかな!?」
「ファッキン!コロッサル法王殿下、あんた何でこんなところに?結界魔法用の聖塩を作りに行っていたのです、貴方こそ結界維持はどうされたのです!」
なんのかんの言い合いが続くのだが、ぶっちゃけそんなのどうでもいいくらいコロッサル法王とやらがやたらと臭い。コロッサルの主張はボブをとらえることのようだ。
『ボブ、こいつ人間じゃないぞ?殺すか?』
「え、マジで?じゃあお願いします!」
ボブ、決断はええよ。精神感応のせいで完全に変な人にしか見えないけどこいつ実は優秀な人なんじゃないか?
しかし人が大勢いすぎてゴブリンを殺した時のように適当に暴れるわけにもいかない。腰にぶら下げていた爪を変化させて作った剣を抜き、切り上げる。誰も知覚できない速度で顎から上を切り飛ばされたコロッサル法王は直後に変化が解けて、2mのイカの化け物になった。のたうち回る触手が回りの人を捕まえようとするが、その全てを叩ききる。
「貴様は何者だ!!この地は我ら深き者が・・・・・・」
皆まで言わせずみじん切りにした。
マイホームに来る外宇宙からこんにちわしてくる奴等の同類なのがわかったからだ。
「ファッキンシット!?ガイ様すげえ」
『まだ臭う。俺はこいつらの兼族を皆殺しにしてくるからボブは片付けとご馳走の準備を頼む』
それだけ言うと俺は他の枢機卿達を皆殺しに行った。危なかった。ボブ以外の教会上層部はすっかり邪神の兼族に成り果てていたのだ。
「オー、ファッキンガイ様、本当にありがとうございます。新たな教えを世界に伝えて行きます」
あれから数ヵ月、俺は俺の価値観に基づいてボブに教えを施した。主に食事についてだ。ご馳走は確かにしてくれた。しかし不味かったのだ。じゃがいもっぽいスープはざらざら。サラダとして出てきた葉っぱは野菜というより草。肉料理は懸念していた香辛料だのみのやや腐敗肉。パン?カビっぽいし固い。え?お前石でもなんでも食うだろって?あめ玉かじるのはいいけど、白米にガチガチの固い米入ってたら嫌だろうが!?こういうのは硬度の問題じゃないんだよ!!
あと、ぶっちゃけ人種的な顔が気に入らない。差別っぽく聞こえるかもしれないが、ボブをはじめ、若い女の子までみんながみんな頑丈そうな骨格の頬骨ゴツゴツ、ケツアゴ、ガイジン顔なのだ。ボブに聞いたところ、外の国の血と混ざらないようにしていたらしい。遺伝形質が極端に片寄っている。なので外の血を取り入れるよう勧めた。都合が悪い古い教えはコロッサル法王の改竄ということにして色々手を加えた新経典をボブに授けた。これを俺の脱皮した皮にまとめて保管させた。ドラゴン皮のスクロールとか世界に一点物だぜ。
『また500年後に来る、達者でな』
俺はそう言うと世界樹に帰った。