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一つの理論

『レッスン2だ!雑になったところを攻めろ!大振りに合わせてカウンターを狙え!』


【黒炎】相手の時も後手に回り押された物の、ちゃっかり一撃入れていたサーガの勝負勘はなかなか侮れない。余裕のふりして内心顔真っ赤の【音切】ヘルムホルツは必ず隙を晒すはずだ、それまでひたすら耐えつつ煽るべし!


「誰が遅いのかサーガ君の剣に聞いてあげますよ!」


 来た。やっぱり煽り耐性ないなこいつ。

そして、サーガは上手い!力みが入ってストローク全開で突き込んできたヘルムホルツの上腕に一撃を入れている。


「脇が甘かったですね?Sランクってこんなもんなんですね。Bランクの僕と大して変わらないんじゃないですか?」


 更に煽る度Sぶり。こいつセコンドが付くだけでこんなに化けるのか。思っていたよりサーガの才能は高いのかもしれない。


『レッスン3!有利になったら一気に押し込む!』


「わかりました師匠!うおおおお!!」


 ロングソードに闘気の刃を纏わせたサーガは傷を負っヘルムホルツに連撃を繋げ、先程とは真逆の光景を作り出す。

 ついに受け損なったヘルムホルツのがら空きの胸にサーガのスマッシュが決まり、ヘルムホルツは仰向けに倒れる。


「これで終わりです!」


 ほぼ完全な形でサーガの勝利だった。もしこれが試合なら。

 だがこれは殺しあいだ。サーガの意思はどうか知らないがヘルムホルツはまだ奥の手を持っているかもしれない。


『レッスン4だ!確実に殺すまでは絶対に気を抜くな!敵はお前みたいな温い考えはしていない』


 緩みかけた緊張をしめる!とりあえず息の根を止めるまでは楽観はできない。

 ああ、大昔にうまそうな牛がいたんだよ。でかいやつ。仕留めたと思いきや死んだふりしてて頭突きをもらったわ。そのあと俺も頭突きで仕留めたけどさ。


「すみませんが、終わらせてもらいますよ」


 油断なく、慎重に接近するサーガだが、ヘルムホルツの様子がおかしい。


「おい。変わるぞ?く、まだやれますよ!うるせえ、体貸せよ。ガキになめられてんじゃねえ。わかりました。それでいいんだよ」


 ぶつぶつと支離滅裂な言葉を続けながら、よろよろと起き上がる。次の瞬間ヘルムホルツの上半身が弾けるように巨大化した。逆三角形なんてものではない。逆二等辺三角形の筋肉が服を破り、サーガの背後を取る。


「調子に乗ってんじゃねえぞくそガキがぁ!!俺が本当の【音切】ジャックナイフ様だ!」


 あ、これあかんやつだわ。二重人格とか初めて見たが、ヘルムホルツ改め、ジャックナイフは大体の見立てで三倍は強くなっている。しかも戦闘タイプは完全にスペックごり押し君。サーガみたいなテクニカルタイプが一番やりにくいタイプだ。地球の格言で言うとあれか。レベルを上げて物理で殴る。的な。


「うあああ!」


 背後からの手刀がサーガの受けに回したロングソードを切り裂き、そのまま背中に大きな切り傷を負わせる。


「攻撃の後に音が遅れて聞こえるだろ?生きてるうちに聞けた奴は数えるほどしかいねえ。ガキの割りにはよくやった方だが、ここまでだ」


 神経質そうな顔だったヘルムホルツだが、ジャックナイフに変わってからは完全に修羅の国の人の顔つきになっている。素手で人間切るとかも世紀末っぽいしな。まあ、選手交替だな。


『レッスン5だ。勝てない敵とは戦うな。強い味方に押し付けてしまうのも手だ』


「はは、それは先に教えてほしかったです」


 へばりながらも顔を起こすサーガ。死にはしないな。


「へっ、ガキに邪魔な入れ知恵してくれてありがとうよ。おかげで久しぶりに暴れられるぜぇ!」


 ジャックナイフが、右手を振り抜くと俺の立っていた位置を不可視の刃が貫いていく。真空刃に闘気を乗せた技のようだ。俺はわずかに身をそらして難なく回避。


『暴れるのは勝手だが、死ぬのはお前だからな?』

 

 左手の四指でクイクイとかかってこいよ的なジェスチャーをしてやる。


「頭に来る野郎だあああ!死ね死ね死ねぇ!」


 まるで千手観音のように腕の残像が生まれ、全てが俺目掛けて襲いかかる。大体マッハ5くらいだな。サーガじゃ死ぬかもしれないが、俺にはあまり意味がない。一発も当たらない攻撃を順番に回避し、時にわざとらしく受け止め遊び倒してやる。


「ならばああ!一撃に集中あああ!!」


 連打をやめ、更にレベルの高い一撃を放つが、まともに俺の掌に止められるジャックナイフの拳。 


「なんなんだよお前は、何で当たらねえんだよ、そうか、へへ、わかったぞ」


 ジャックナイフの連打は止まり、最速最強の一撃を狙い、それでも届かぬと知った奴は特殊な構えを取ると驚愕の台詞を吐いた。

 

「当たらないのは俺がお前より弱いからだ。ならば、お前を越えるまでのことよ!」


 強さにストイックとか、他は最低なクズのくせに戦いが終わる頃になると強敵とかいて友と読む的な奴になるつもりかこいつ!?

 

『く、よせ!お前のその考えは危険すぎる!!』


「加速距離を二倍!手刀面積を半分にして更に二倍!体の旋回範囲を倍にして更に二倍!速度を更に二倍で、16倍限界突破音切だあああ!!」


 やりやがったよ、こいつ、ゆで理論的な発想による技のブレイクスルーを!?

 俺はこの技は受けてやる必要があると思った。


「え?」


 サーガは目を擦っている。理解の範疇を越えたようだ。ジャックナイフは16倍はともかく己の限界を越えて俺に叩き込んできたのだ。超速度で超固い物体に衝突すると飛び散る。ジャックナイフは爆発四散していた。


『レッスン6だ。闘いが終われば強敵<とも>と呼ばれるやつもいる。忘れるな!』


「はい、師匠!」


 さらばジャックナイフ。お前のことは忘れない

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