不審な冒険者ギルド
クラン【銀狼】の青年はラフィムの冒険者ギルドから依頼を受けて死病の街の調査に来てると話してくれたが、魔導器が異常な数値をはじきだしたそうだ。そこに見慣れぬ全身白い男と耳長色白の年若い娘の二人組。しかし数値が本当で、俺達が元凶なら打つ手なし。もういっそ打ち明けてダメならダメでヤケクソに特攻をかけるつもりだったとか。正しいことをしていればなんとかなるとか力説していたが、はっきり言って危ない奴だった。無謀と蛮勇を勇気と履き違えている。俺が悪いドラゴンなら全滅だろう。そんな率先して人間襲ったりはしないけど。
「僕はサーガ。彼女はレイン、そっちの黒いのはコンゴウ、盾の彼はブラドだ」
『共通語は苦手なんでな、意思疏通の魔法を使わせてもらうぞ。俺はガイだ。マクスウェルの家系に用事があってラフィムを訪ねようとしたところ、先程この街を見つけてな』
「私はプリメーラよ。ガイと旅をして回ってるの。こっちの鎧の彼はゴーレムみたいなものだから気にしないで」
ってプリメーラそれ共通語だよな?
『お前、共通語いつ覚えたんだ?』
『え?お爺ちゃんに教わったから十年前くらいかな?』
成る程、俺の共通語は古文だが、それくらいなら現代でも通じるのか。くそう!
「ゴーレムみたいなものって、すごい魔法ですね。やっぱり二人とも相当強いみたいだし迂闊に挑まなくて正解だった。この辺りは大昔にも邪教の魔術で街が動く死体まみれになったとか聞いていたので邪教の信徒と戦うことも懸念していたんですが、からぶって良かったのか悪かったのか」
『成る程、よくわからんがこんな有り様だ。正直なんで死体が生活する環境ができるのか俺も理解に困っている。そちらのここまでの調査では今回も同じと見ても良いのか?』
サーガは首を振って否定する。
「いえ、伝承が全て正しいとも限りませんし結論を出すにはまだ早いかと、少し時間をかけて調べたいのですけどもこの状況で安全確保するには戦力に不安があります。そこで相談なんですけど僕らと臨時パーティを組んでもらえませんか?もちろん報酬は出しますので」
サーガ達からすれば戦力的な不安を俺達で補える。俺としては報酬や人間の変化に興味もある。プリメーラも特に嫌がってないし、短時間の協力なら良いかもしれない。
『プリメーラはどう思う?俺は悪くない提案だと思うのだが』
『ガイが決めていいよ。人間気になるんだよね?』
よくわかってるじゃないか。これで決まりだな。
『わかった。一緒に行動しよう。ただし俺達はラフィムに行くのが目的だからな。長期になるなら適当なところで抜けさせてもらうがそれでも良いか?』
「充分です。そのときには僕らも一緒に引き上げますから。心強い。まずは情報の共有からいきましょうか。ちょうどすぐ近くに安全そうな空き家を見つけたのでそちらに移りましょう」
こうして臨時パーティに入ったわけだが、これゲームとかならやたら強い仲間がスポット参戦する熱い展開なのか、足手まといを守らされるクソイベントなのか、どちらなのだろうか?【銀狼】の連中は前者、俺らは後者くさいが。
安全そうな空き家とやらはしっかりした石造りの壁にサーガが結界魔法をかけたものだった。隠蔽と強度上昇を併用してあるので雑魚は攻めてこれないと思われる。
木製の大きなテーブルを囲んだのでついでに次元収納を展開して簡単な食料を振る舞うことにした。腹がふくれれば口が緩むと相場が決まっている。
「次元収納を使えるとは、それにしてもこれは美味しそうな・・・・・・いただいてもよろしいですか?」
腹が減っていたようだ。ブラドは遠慮がちな台詞をはきながらも結構遠慮していない。
「すみません、ご厚意に感謝します。レイン、君の魔導具で調べたことをガイさん達に話してほしい」
「ええ、でもその前にガイさんがさっき私たちを値踏みしていたことについて一言言わせてもらいたいのだけど」
お?俺の走査魔法に気づいたのかこの魔法使い。魔力量はともかくセンスが良いタイプなのか?
『評価を聞きたいか?』
「いいえ、誤解の無いように先に言いたいのだけども、魔法使いとしての私は平均以下ね。私の本職は魔導具作成師よ」
なるほど、フィールドワークが本業ではないと。それならば彼女がいるのも理由があるのだろう。
『つまり今回の調査に魔導具が必要、もしくは魔導具自体が目的か?』
案外呪いの媒体がそれだったりするのか?
「ええ、この街が復興されたのは今から50年前ぐらいらしいの。その時の調査でダンジョンコアに類似した物体が発生していたと記録があるけど、破壊されたとか、どこかに運ばれたといった記録は無いのよ」
ずいぶん遅い復興が気になるが話の先を促す。
「もしダンジョンコアが原因なら封印の魔導具を取り付けることでその機能を封じ込めることができるわ。そのために私がいるこの【銀狼】が依頼されることになったのよ」
『お前がいれば直接的に対処ができそうな話になっているが、もっと慎重にいくべきではないのか?レインとか言ったか?お前が死ぬ可能性は高かったのではないか?』
俺の思念波に【銀狼】の四人が苦そうな表情を浮かべる。
「僕は今回の件は冒険者ギルドの上層部が怪しいとおもっているんです」
「サーガ殿、そこまで話すおつもりか!?」
コンゴウが過剰に反応する。まあであってすぐにこんな話は普通しない。サーガは普通じゃない。自分で考えておいてなんだが、こんな雑な論法にも関わらず納得しちまったよ。サーガ半端ない。
「僕の勘はこの人達を信用しろといっているんだ。今までも行き当たりばったりだったけどはずしたことないだろ?」
やはりサーガ半端ない。リーダーがギャンブラーすぎるパーティとかドン引きするぞ。
「続けるわ。そうね、私が何らかのトラブルで死んでしまえば、魔導具の専門家はギルド上層部のメンバーしかいなくなるのよ。異変にかこつけた便乗商法ならまだマシなのだけれど・・・・・・」
そこまで言ったところで更にサーガが興奮気味に続ける。これなしくずし的に巻き込まれるの確定じゃないか?俺、ある意味今回は気楽な収穫兼観光で来たんだけどイベント重くない?
「コンゴウの兄弟子はラフィムから少し離れたソルネの街でトップクラスのニンジャマスターでした。しかし、ラフィム冒険者ギルドの調査の密命を教皇様から受けた直後に行方不明になってしまったそうです」
「それを私、神官戦士ブラドが教皇様から受け、更に任務を引き継いだハイニンジャのコンゴウが同じクランのサーガ殿に相談し、なるべく水面下の動きでギルドと異変の関連性を探っていたところ、【銀狼】で活動中の他の方々がほとんど何らかの都合で今回の依頼を受けられなくなってしまったのです」
ほぼ黒じゃないか冒険者ギルド。
『なるほど、それは猫の手でも借りたいところか』
「プリメーラのお爺ちゃんならそんなことされてる疑惑がわいたらカンカンに怒ってその冒険者ギルドにファイアボール放り込むわね。それで燃えろ燃えろファハハハハとか大笑いするのよ」
真顔でプリメーラがなかなかえぐいことを言うが、あのジジイそんなことするのか。いや、魔王なんだしむしろ普通か?
「それは大変なお爺ちゃんなのね」
レインが困ったような顔をして返事をするとプリメーラのジジイ話が始まってしまったので二人を置いてサーガと話を進める。
『ジジイは置いとくとして、依頼を達成したらしたで報告の時が危険だな』
普通なら消されてもおかしくない。
「はい、ですから証拠を掴み次第教皇様に報告をして聖騎士団を動かしてもらえればと考えていたのですが・・・・・・」
『何か問題が?』
「いえ、正直今回は死んじゃうかなと思っていたので割りと本気で助けてください」
こいつマジでヤバイな。一人で無謀なのは結構だが組織引っ張っちゃダメだろ。
『ま、まあ何かの縁だから付き合うのはやぶさかではないが、これっきりにしてもらえると有難い
。正直引いてる』
「確かに、教皇様の密命でなければこのブラド、絶対に関わりたくない人種ですぞ」
「ブラド殿、さすがにそれは言い過ぎではな・・・・・・いな。サーガ殿と過ごした時間はどれもスリル溢れる心胆凍える思いでいっぱいでござる」
ブラドとコンゴウがウンウン頷いている。とりあえずお前らもお前らだとは思ったが事情が許さなかったのだろう。
とりあえずの方針として
①レインの魔導具による探索でダンジョンコアらしきもの及び不審な何かを見つける。
②冒険者ギルド上層部の関与の証拠もしくは、関与していない証拠を探す。
①②を柱に死病の街の探索が決まったのだった。