地球を消し飛ばす話
余計な情報を省く練習を兼ねて、ストレス解消用に書いた。
スッキリしていってね( ̄ー ̄)bグッ!
私の名前は雪代双葉。女神ファーメリア様の使徒をやってます。
これは私が、あの恐ろしい魔法を創った時のお話です。
あなたは、龍を見たことがありますか? 全長10m、重さ数t。魔法によって飛行し、銃や魔法を跳ね返す強力な龍鱗に鎧われた、翼を持つ大蜥蜴です。
――龍のブレスは、それはもう恐ろしいものです。一度放たれれば、地面をえぐり、街を火の海に変え、人々を消し炭にしてしまいます。
数秒前まで元気に話し合っていた兄弟。レンガ造りの建物でパンを売っていたおばさん。買い物客。道行く人達。学校帰りの女の子。家の中にいる人。ことごとくを巻き添えにして焼き殺してしまう。
私は、龍が怖かった。いいえ、今でも怖いのです。
大空から飛来する龍が怖い。長い首を持ち上げて人を見下ろす龍が怖い。一瞬で大勢の命を消し飛ばす龍のブレスが怖い。
地球で知識を得て、『この世界』に帰った私が、すぐに魔法の開発に取り掛かったのは、ひとえに龍の脅威から身を守るためです。
創る魔法のイメージは、強大な龍のブレスに対抗するための咆哮。
地球における理論上最大の出力が、無限の質量×光速の二乗だというのなら、巨大ブラックホールを加速器とし、クエーサーを射出する宇宙ジェットは、かなり大きな威力を持つはず。
きっと、龍のブレスにだって打ち勝てるでしょう。
この世界の現象は、地球の物理法則を模した、普遍魔法で構築されています。それゆえに、この世界でも、地球の宇宙ジェットを模した力は、それに近い威力が保証されているはずです。
私は早速、魔法を創り始めました。
この魔法があれば、複数のドラゴンがブレスを吐いてきたとしても、打ち消すことができると確信しています。
魔法制作が佳境に差し掛かったとき、女神ファーメリア様からストップがかかりました。
「双葉。あなたは一体何と戦うつもり? 敵が『神』なら全然足りないし、その他なら、足場ごと全生命が消し飛ぶわよ」
「仮想敵は最強の古龍、創世龍です」
「赤龍との戦いがトラウマになっているようだけど、創世龍相手でも、そんな馬鹿げた威力はいらないわ」
「じゃあ速度を光速の9割に落とします」
「まだ過剰威力。クエーサーでなくマイクロクエーサーにしなさい」
「いやです。創世龍がうじゃうじゃ出てきてもみんなを守れる力がほしいんです」
「怖い子ね、あなたは。育て方を間違えたかしら? 創世龍は、うじゃうじゃ居ないし、先に提示した以上の威力は認められないわ。たとえあなたが、我が親友の孫でもね」
「妥協しないとダメですか」
「妥協って、あなたね……。威力を見てから言いなさいな」
「ちょっと、撃ってみてもいいですか?」
「やめなさい。そんなお気楽に撃てる威力じゃないのよ。今、宇宙空間にあなたを連れて行くからそこで撃ちなさい」
「はい」
ファーメリア様のお力で私達は、宇宙空間に転移しました。
遠方視の魔法で遠方の星が明るく映し出されています。
映っているのは、きれいな青い星です。その星は部分部分が自発的に発光していました。周辺に人工的な瓦礫のようなものを帯状に纏っており、キラキラと光っています。
「ファーメリア様。なにもないところで、重力ジェットを撃つんですか?」
「何もなくはないでしょう? 何のために遠方視の魔法を使って、星を前方に投影したと思っているの?」
「あの星に向けて撃つんですか?」
「そうよ」
「あの星の周りの瓦礫のようなものはなんです?」
「デブリ。ごみね。気にする必要はないわ」
「それより、足場がないけど、酔ったりしていない?」
「私は重力魔法の使い手ですからね。重力場を展開すれば無重力だろうと、移動は思いのままです」
「さすがは私の使徒、といったところかしら双葉。さて、あの星までの距離は、約30万キロ。あなたの重力ジェットなら届くはずよ。撃ってみなさい」
「またまた。30万キロって何の冗談です? 私の魔法の射程距離は約150mですよ? 届くわけないじゃないですか」
「コントロールできるのは、150mまでね。つまり、あなたが創った魔法は制御不能の魔法ってことよ」
「……急に怖くなってきました」
「周辺には、被害が出ないように、あなたの魔法に介入して調整しておいたわ。撃ちなさい」
「……」
「双葉。さっさとしなさい。時間はただじゃないのよ? あなたが躊躇っている間にも、私は、時空魔法であなたの周りに空気を流したり、温度を適温に保ったりといろいろサービスを行っているのだけど?」
「撃ちます」
「重力球生成。マイクロクエーサー、セット」
重力球の中、――無限格納が内包する廃棄宇宙の中で、最初の星が、巨大ブラックホールに飲み込まれた。
星が崩壊し、大質量がエネルギーに変わる。
続けて、転移。二つ目の小さな彗星が、渦巻きながら巨大ブラックホールに飲まれた。
ブラックホールから絞り出すようにエネルギーの奔流が迸る。
現在噴出されているジェットの速度は、光速の1割。
まだだ。
まだ全然足りない。今はまだ、か細いジェットだ。
光速の9割まで加速しないと。
私は、ガンガン減っていく魔力と格闘しながら、重力球の中で、次々と星をブラックホールに転移させていく。
星が消えていくにつれ、重力球は奥行きを失い、円盤状に広がっていった。
ブラックホールから噴出されるジェットの速度は、光速の7割……、8割……、9割……。
巨大質量のエネルギーは、ブラックホールから重力球を通して、光速の9割の速さで射出される。
「重力ジェット発射!」
重力球から放出された閃光が、宇宙を白く染める。
爆発的な気流が重力球から解き放たれ、叫び声をあげていた。
渦巻く光の奔流が、前方の星を包み込む。
――その間わずか、2秒足らず
地球は消滅した――
「どう? 双葉。2秒で100億近い人間を消し飛ばした感想は。人間だけじゃないわ。膨大な数の命があの星にはあった」
「……悪趣味です。ファーメリア様」
「まぁ、聞きなさい。あなたが妥協と言った力はこういうものなの。妥協で十分でしょう?」
「創世龍も消し飛ぶでしょうか?」
「消し飛ぶわ。だから双葉。重力ジェットを使うときは、上空に向けて撃ちなさい。間違えて星を消し飛ばすことがあれば、私がなかったことにしてあげるから。こんなふうにね」
『過ちは正される』
……時間が巻き戻ったように、デブリをたたえた青い星が目の前に現れた。
「さあ、双葉。帰りましょう。私達の世界に」
「はい、ファーメリア様!」
~約10分後~
「あっ、太陽が消し飛んだわ!」
「えっ? どういうことです?」
「飛んでいったジェットを消すのを忘れてたわ」
「やったわね。双葉。というか、やってしまったわね。双葉。神霊以外では、やったことのない偉業よ。太陽系がバラバラになるわ」
「え~~っ!?」
「これは、他の神霊に怒られるわー」
「は、早くなんとかしてください!!」
「もうやってるけど。いや、恐ろしい魔法を創ったものだわ。太陽系の破壊者の称号をあげるわ。あとでスキルオーブを見てみなさい」
「その称号は、ファーメリア様のものですッ!!」
「共犯ね?」