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ブラック吹奏楽部員の異世界サバイバル記  作者: 雷電鉄
第一章 転移~ソガーブの町
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#8 トランペット吹きの憂鬱

 師匠の許しが出たことで、いよいよ俺たちは旅に出られることが決まった。数日後には俺たちは、魔物の蔓延る外の世界へと出るのだ。

 何度か実際に魔物に遭遇して分かったのは、魔物と普通の動物は危険度ではなく、あくまで人間に対する敵意?によって区別されているということだ。実際、この世界の弱い魔物より、元の世界の大型の猛獣の方がよほど危険なくらいだ。

 とはいえ、弱かろうが人間を襲う気マンマンの動物がウヨウヨしている所に近代兵器も無しに突っ込んでいくイカれた奴はそういないだろう。俺たちは、そのイカれた事をやろうとしているのだ。

 

 というわけで、俺たち5人(と、武具選びの助言をするためについて来てくれた師匠)は今武器と防具の店に来ている。そう、RPGで何度も見た武器と防具の店に来ているのだ。

 店では、物腰は柔らかいが眼光の鋭い店主が出迎えてくれた。

「いらっしゃい。まあ、ここらには強い魔物もいないから大して強い武器はないけどね。強い武器を置いてても、維持費やら何やらで採算が取れないからね・・・」

 店の中を見渡すと、ゲームの中ではロングソードやプレートアーマーと呼ばれているような武具が並んでいる。どれも簡素な武器だけど、確かに今までに見たような魔物にならこれでも対抗できそうだった。

 まずは、店の奥に行って鎧下の服に着替えた。基本的にはこの上に鎧の類を付けるらしい。

 鎧下と言っても、元の世界のピッチリ目のシャツとそう変わらないような着心地に見えたが、着てみると身体が全体的に少し通しにくく感じた。

 ん?この世界に来てからダブついた服ばかり着てたから気付かなかったけど、もしかして結構筋肉付いてきたのか?とか思いながら腕や胸を触っていると、

「早くしろ!」

 と師匠の怒鳴る声が聞こえてきた。

「まあ、お前みたいな()()()()()にはこのあたりがいいだろう。あまり重い物を身につけても、動きが鈍くなってかえって危ないからな」

 そう言って渡されたのは、ゲームの世界でショートソードと言われているような短めの剣と皮の鎧だった。

 短めと言っても、やはり持った感覚は木剣とは違ってずしりと重い。

「これから町を出るまで、稽古の時以外でもその剣を差して過ごせ」

 あとで聞いたところによると、剣の重さに慣れるため・・・らしい。

 

 そう言えば。重い鎧を付ければ動きが鈍くなるということは、もしかしたらエスランさんもあのゲームで見たようなビキニなアーマーを付けているのでは・・・?

 そう淡い期待を抱いて振り返った俺の目に飛び込んできたのは、プレートアーマーを身につけたエスランさんの姿だった。

 ですよねー・・・・・・

 師匠が凄まじい顔つきでこちらを見ているのでエスランさんから顔を逸らすと、店の奥から店主の声が聞こえてきた。

 「困ったねえ。店で一番軽い皮鎧でも、着けると重くて動きにくいみたいで・・・」

 振り向くと、鎧下を着た一条寺が立っている。

 「うーん、いっその事、鎧下だけ身につけさせるか?」

 「・・・それは、全身に花の蜜を塗って蜂の巣に突っ込むような物だと思います。」

 「・・・だな」


 そんなやりとりをしていると、女性用の試着室から厚手の旅人用の服を着た進藤が姿を現した。

 その姿を見た時、俺は一瞬目を奪われてしまった―――。

 別に色気のある格好だったりしたわけではない。というか、元々存在しない物は、いくら服を変えようが増したりはしない。だが、いつもと違う姿をした進藤に、ガキの頃から付き合っていた俺でも見たことのない新たな一面を見つけた気がしたのだ―――



 その夜、俺たち旅に出る5人は、宿でパーティーをしていた。酔って泣き出しそうになってるゴンドさんや、例の筒を吹いてと宿の人達にせがまれる進藤を見ていると、いつの間にかずっとこの人たちと一緒にいるんじゃないかという感覚になってたけど、たぶんあと数日でもう会えなくなるんだよな・・・という感慨に襲われてくる。

 ふと外の方を見ると、一条寺が宿のテラスに出ていた。何をしてるのか気になって声を掛けてみる。

 「お前が一人で物思いにふけるなんて珍しいじゃん。何かあったのか?」

「・・・お前は今日進藤さんの様子がいつもと違ってたのに気付かなかったのか?」

「えっ?いや、いつも通りじゃね?」

 そう言われてみれば、少しいつもと違うような気もした。旅人の服を身に付けたあいつは少し大人っぽく・・・いや、そうじゃなくて、ただ単に服が変わって印象が違ってるだけなんじゃないのか。

「お前は進藤さんを強靭な精神力の持ち主みたいに思ってるかもしれないけど、誰にでも弱い一面はあるもんだぞ」

「はいはい、指揮者様は部員の細かいところまでよく見てますなー」

 あのポジティブモンスターがそんなタマか?俺はテラスを後にした。


 噂をすれば影という奴か。広間に帰る途中の廊下で、偶然にも(?)進藤が姿を現した。

「・・・何かあったのか、進藤?」

「いや、あの筒を吹いてと言われてたんだけど、なんか出てきちゃった・・・そういう須賀は?」

「いや、一条寺の奴が変な事・・・いや、用事があるって言うからさ、付き合ってたんだよ」

「ふーん、・・・ねえ須賀、私たちってもう何日か後には町を出るんだよね」

「?ああ、信じられねえよな、俺たちが魔物たちのいる世界に出るなんて」

「・・・あのさ、私たちがここに来た時、本当は吹奏楽部員に出来ることなんてないんじゃないかって思ってたんだ。須賀なんて、さっさと逃げようぜって言うんじゃないかって。でもここで生きて行こうって決めて、監視係の仕事もするようになって、少しずつこの世界に馴染んできて・・・須賀なんてそんな(もの)ぶら下げるようになっちゃってさ、私たちこれからどこまで行くのかなって、時々不安になる」

「余計なお世話だよ。今さらそんな事言ってもしょうがねえだろ」

「そう・・・だよね」

 ああ、そうか。・・・こいつは怖いんだ。自分が冒険の旅に引き込む事によって、自分が、それ以上に仲間が傷つくのが。

 無理もない話だ。俺だって・・・外の世界に出るのは怖いんだから。

 ここはまるでゲームの中の世界みたいだけど、ゲームとは決定的に違う所がある。

 それは、当然ながら攻撃を受ければ傷つくし、もし死んでしまったら、たぶんもう生き返れないということだ。

 もしかして、俺たちは外の世界に出るということを軽く考えすぎているんじゃないか?




※結局、ルイは旅人の服を着る事に・・・


魔物だけではなく、当然のことながらこの世界には普通の(?)動物もいます。現実よりも動物の世界と人間の世界ははっきりと隔てられてるので、町の中に居る限り動物に会う機会はあまりありませんが(家畜は除く)。

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