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ブラック吹奏楽部員の異世界サバイバル記  作者: 雷電鉄
第三章 ジェニジャル大陸
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#44 夢魔の世界・序章

 バディロード大学で魔法の楽器についての秘密を知り、俺たちは一路アデスさんたちとの待ち合わせの場所であるセドリナ港へ向かった。

 ・・・と言いたいところだが、現実はやはりそう上手くは行かなかった。

 

 町を出てから三日歩いてノクタヴィアの森に入ったものの、俺たちはもう森の中を一昼夜近くもさまよっていた。

 何度も言うように、この世界の森は日本の雑木林のような適度に歩きやすくされた場所ではなく、木やツタが複雑に絡み合って昼でも薄暗くなっている。そして、もちろん地図には森の歩き方など載っていない。

 危険な魔物と出くわさなかったのだけが救いだけど、時間の感覚もなく暗い森を歩いていると気力は次第に削られてくる。

 

 それにも増して俺たちを憂鬱にさせていた物がある。雨だ。

 昨日の日没近くから、もうずっと雨が降り続いていた。

 もちろん、この世界に来てから何度も雨には遭ってきた。しかし、ただでさえ湿気が多いこの森で雨に降られると、周囲はまるでサウナの様に蒸し暑くなり、体力を削ってきた。

 

 それでも、俺たちはこの森を抜ける必要があった。森を避けて進んだら、アデスさん達との待ち合わせの刻限には間に合わないだろうからだ。

 

 

 それは、この森に入ってから二日目のことだった。


「エスランさん・・・何か俺たち、同じところグルグル回ってないですか?」

「・・・・・・」

 

 さすがのエスランさんも疲れが出て来たのか、無言で進んで行っていると「もし・・・」と問いかけてくる声があった。

「何者だ?」とエスランさんが振り向いた先には、一人の老人が立っていた。


「旅の方、道に迷いなすったか?」

「そのような年寄りが一人でこんな森にいるとは・・・一体なぜここに?」

「ふぉふぉ。儂はこの森の外れに屋敷を構えておってな。森は儂にとって庭みたいなものじゃよ。どれ。森の外れの儂の家まで案内してやろう」

 

 とりあえずは老人の事を信じてついて行ったものの、エスランさんは警戒を解いてはいなかった。それも当然の事だ。こんな過酷な世界で見ず知らずの旅人を助けようとする奴は、よほどの物好きか何か裏のある奴ぐらいだろう。

 

 やがて、屋敷が見えてきた。古びてはいるが、なかなか立派な造りをしている。


「ここが儂の家じゃ。せめて雨が止むまででもここで休んでいくといい」

 俺は小声で問いかける。

「ちょっとエスランさん、コイツのこと信じて大丈夫なんですか?」

「うむ・・・何か胡散臭い気もするが、今のところ敵意も見えないしな。もし本当に善意で助けてくれたのだとしたら、彼に失礼という物だろうしな」

 

 実のところ、俺自身にも老人の言う事を信じたい気持ちもあった。元はと言えば俺たち四人も、この世界に飛ばされた時見ず知らずの旅人に助けられて今こうしてるわけで、心のどこかでこの世界の人間の良心を信じていたのだ。

 


 結局、俺たちは老人の言うことを信じて屋敷に入る事になった。

「窓はあるとは言えこの天気じゃ。足下が暗くなってるから気をつけなされ」

 老人の言うことを聞きながら俺は足を踏み入れようとした・・・

 

 !?

 今、足を踏み入れた瞬間、物凄くドス黒い気のようなものが体にまとわり付くのを感じた。

 例えるなら、バトル漫画によくある、攻撃を受けてないのに「殺気」で殺られたように感じる感覚に近いかもしれない。

 マズい。やっぱり罠だったんじゃねえか・・・そう思いつつも、体はその気に引き込まれるように勝手に奥へと進んで行った。

 他の五人も俺と同じような感じなのだろう。何かに操られるように奥へと進んで行った。


 俺たち六人は、大広間らしい大きな部屋へと案内された。部屋には大きなテーブルと椅子があり、壁には燭台と古びた絵画がある。

 意外と普通の感じだ。もっと、コウモリが飛び交うような感じを想像していたが。

 ・・・とか呑気に説明している場合ではないはずなのだが、この建物に魅了されてしまっているのか、この状況に抵抗する意志が出てこない。しかも、次第にその感覚が強まっている気もする。


 やがて、老人が何かの皿の載った台車を運んできた。

「大したもてなしも出来んが、ここで待たれる間これでも食べなされ」

 皿の蓋を開けると、こんがりと焼けた何かの肉やたっぷりとドレッシングのかかったサラダ、種種の果物など豪勢すぎる料理が並んでいた。

 ちょっと雨宿りさせるだけの旅人に出すには、あまりにも不自然すぎる物だ。大体、この肉や野菜もどんな物が使われてるか分かったものじゃない。

 

 どう考えても罠だ。しかし、俺たちは夢中で貪りついた。さんざん歩きまわって腹ペコだったのもあるけど、この料理の放つ魔力―――比喩ではなく文字通りの―――に囚われてしまっているように思える。

 特にエスランさんなど、「こんな料理は生まれて初めてだ」と言いながら食べていた。

 無理もない話だ。現代の日本人である俺ですら、ボリュームがあり過ぎると感じたくらいなのだから。


 料理を食べ終わって、俺たち六人は部屋でぐったりと椅子に座っていた。


「何か、疲れてきたな、僕・・・」

「もう、いっその事ずっとここにいてもいいかも・・・」

 俺は必死に力を込めて声を絞り出した。

「ちょっと、何言ってんだよ進藤まで・・・。俺たちは、ここを出て港へ・・・向か・・・」


 と、その時、またさっきのようなドス黒い気が足にまとわり付いてきて、俺は金縛りに合ったように動けなくなってしまった。

「食事は終わったかね?」 

 声をした方を見ると、あの老人が部屋に入ってこちらに向かってきていた。 

 

 この気が、この物腰の柔らかな老人から放たれているのは疑いようがなかった。

 おそらく、ここにいる全員が認識しただろう。目の前にいるのが、「悪魔」と呼ばれる存在であると。

「そろそろ全身の力が抜けてくる頃じゃろう。何、心配せんでも苦しみはせんよ。このまま、この儂の魔力に身を委ねておればよい。・・・君らみたいな素直な子は、儂は大好きじゃよ」

 

 糞っ・・・たれ・・・

 と思うやいなや、俺の意識は遠のいていった。

(つづく)

 

 

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