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ブラック吹奏楽部員の異世界サバイバル記  作者: 雷電鉄
第一章 転移~ソガーブの町
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#5 魔法(前編)

 今日も元の世界に帰る手掛かりを掴めないままミーティングが終わろうとしていた。

 このままでは埒が開かない。俺は、意を決してこの前思いついた考えを話すことにした。

「みんな、ちょっと考えたんだけどさ、この世界って楽器がほぼ存在しないわけだろ?」

「うん、それで?」

 進藤が軽く反応してきた。

「だからさ、この世界の人にとって楽器で作る音楽とか、楽器演奏のためのスキルってある意味魔法みたいなもんだと思うんだよ」

 皆が訝しげな目をしているが、俺は構わず続けた。

「つまり、この世界で『魔法のナントカ』って呼ばれているようなアイテムをくまなく調べて行けば、元の世界に関係しているものも見つかるかもしれない・・・っていうか・・・まあ、一つの可能性みたいなもんなんだけど・・・」

 我ながら雲を掴むような考えだと思う。

 ひとしきりの沈黙の後、最初に反応したのは、やはり進藤だった。

「うん、悪くない考えじゃない?みんなはどう思う?」

「未だに元の世界に帰る糸口が見つからないのですし、それに賭けてみるのも悪くないと思います」

「お前にしてはましな考えじゃないか」

「うるせえ」

 何とか話がまとまって安堵していると、進藤が話しかけてきた。

「でも、どうしてこんな事閃いたの?」

「漫画とゲーム三昧の日々で得た知恵だよ。・・・色んなアイテムが集まってるところと言えば、まず道具屋だよな。とりあえず、今度休みの日に行ってみようぜ」


 次に俺と進藤が休みになった日、俺たちは二人で道具屋に向かった。既に、何度も宿の忘れ物を売りにいった事で俺たちと道具屋の主人は懇意になっていた。

「いらっしゃい。・・・え?『魔法』って付いてるアイテムを探したい?別に構わないけど、何に使うんだい」

 そう言いながらも、主人は俺たちを店の奥の部屋まで案内した。

「とりあえず、まず買い手の付かないようなものはこの部屋に置いてあるよ。先代、先々代からの物もあるから、どれだけあるかは私も把握してないけどね。まあ、相手が『魔法のアイテム』って言って売りつけただけで、実際はなんの効果も無い物もあるかも知れない。・・・何しろ、ウチにはちゃんとした鑑定士もいないからね」

 そう言われて扉を開けてみると、部屋の至る所に無造作に積み重ねられた道具の山が目に飛び込んできた。道具は壁の上の方にまでぎっしりと積まれていて、もはや壁の見えている所を探すのが困難なほどだ。

 一目見てわかった。ここにある物の大半はガラクタだと。

「と、とりあえず手近なものから片付けて行こうよ。私はこっち見るから、須賀はあっちの方頼むね」

 さすがの進藤もやや引き気味に言った。その口調からは、「言い出しっぺのあんたが辞めるなんて言わないよね?」という感情が滲み出ていたが。


「えーと、『魔法の毛の束』・・・」

「・・・それはただの箒だ」

「『魔法の鉄鋏』」

「それはトング」

「『魔法の水差し』・・・」

「それはヤカンだーーーーーっ!!!!」

・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・

 どれだけの時間が経っただろう。幾度となくそんなやりとりを繰り返した後、進藤が妙に神妙な口調で呟いた。

「『魔法の筒』・・・」

 どうせまたハズレじゃねーの?と思って進藤の手に持ったものを見てみると、それは全体に黒ずんでいて形ははっきりと判別できないものの、数十センチほどの胴体に、息を吹きかけるためと思われる口を持つ・・・そう、元の世界のリコーダーを思わせる物体だった。

 俺たちはしばし無言で顔を突き合わせたあと、どちらからともなく

「イエーーーーーイ!!」

 と叫んで掌を突き合わせた。

 我に返った俺たちが互いに眼を逸らすと、店主が不思議そうな顔をして話しかけてきた。

「そんな物がそんなに珍しいのかい。欲しかったらタダであげるよ。どうせ、買い手もつかないだろうからね」

「これは誰が売りにきたとかは分からないんですか?」

「さあねえ・・・私が店を継いでからは見た覚えが無いから、かなり古いものなのは確かだけど。鑑定のスキルのある冒険者なら何か分かるかもしれないがねえ」

 

 結局、それ以上の情報は得られずに俺たちは店を後にした。

「鑑定のスキルつっても、いつそんな冒険者が町に来るか分かんねえしなあ。ここには冒険者のギルド的な物もないし・・・」

 どうでもいいが、いつの間にかファンタジーな世界にすっかり染まってきてるな俺。

「あーあ、手掛かりらしき物は見付けたけどそれ以上の進展はなしか。いいアイデアだと思ったんだけどな・・・っと」 

 また進藤にどやされるかもしれないと思って俺は思わず身構えた。・・・が、進藤は俺の言葉にも反応せず、何かを考え込んでいる様子だった。

「ねえ、これ、みんなの前で吹いてみたいんだけどいいかな?」

 「いいえ」の返事をすることを拒むような屈託のない口調で、進藤はそう言った。

 

(つづく)

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