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ブラック吹奏楽部員の異世界サバイバル記  作者: 雷電鉄
第三章 ジェニジャル大陸
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#40 月下の略奪者

 あの家で一夜を明かしてからすでに二日が経った。順調に行けば、あと三日ほどでバディロディアの町に着く。ついに、魔法の筒や音の角についての重大な手掛かりが掴めるかもしれないのだ。

「ついに大学に行けるのか・・・って言っても、手掛かりが掴めるとは限らないんだよな」

「その時は、また別のアテを探すだけだよ・・・って言うか、自分から大学に行って見ようって言い出したんじゃん」

「・・・そうだな、悪りい」

 あそこに泊まって以降、俺と進藤は互いにあの夜話したことについて触れようとしなかった。ただ、あいつと会話する度に以前には感じなかった気まずさの様なものを感じるようになった。それは、きっと進藤も同じだろう。

 

 そんな事を考えていると、横を兵装の一団が通り過ぎた。

「あれはどこかの正規兵でしょうか」

「ああ、天馬の紋章を付けていると言う事はこのあたり一帯を治めるガスティネア王国だろう。きっと魔物討伐の兵を挙げたのだろう」

 一条寺の言葉を受けて、エスランさんが答えた。

 魔物討伐の兵・・・この世界に来る前なら、無邪気に「カッケー!」とか言ってたかもしれないけど。

 旅の中で仲間が魔物を倒すのを見て、自分でも倒してきたけど、もう純粋に戦いを「格好いい」とは思えなくなっていた。

 それが正しいのか正しくないのかは分からないけど、魔物を殺すのに何も感じない戦闘狂のようになるのも何か違う気がする。

 ぶっちゃけ今でも戦いは怖いし、大体そんな風になったら進藤も悲しむだろうし・・・って、何か最近事あるごとに進藤の顔がチラつくようになった気がする。いかんいかん・・・

「何か考え事でもしてるのか?哲太。まだ先は長いぞ。しっかりするんだ。」

 そうエスランさんに声を掛けられて我に返った。そう、軍隊が出て来ているということはこの辺りにはそれだけ危険な魔物がいる可能性が高いという事だろう。

 センチメンタルな気分に浸ってる場合じゃ無えな。進藤の顔を振り払うようにして俺は意識を集中させた。


 やがて、日が暮れかけてきた。上手く一夜を明かせる場所が見つかるような都合がいい事も、続けては起こらなそうだ。

「どうしますエスランさん?今日はもう野宿しますか?」

「仕方ない。次の宿駅まではまだ掛かるしやむを得ないだろう。新月の時に比べたらマシとは言え、焚火は絶対に絶やしたら駄目だぞ」


 俺たちは男女別に分かれてテントを張ることになった。簡易的なテントとは言え、二人だけで張ろうとすれば結構な重労働になる。支柱を立てると、早くも一条寺はヘトヘトになって座り込んだ。なかなか進まない設営に、だんだんイライラが募ってきた。 

 いつの間にか女子組の設営が先に終わった。手持ち無沙汰になったらしい進藤がテントを張るのを手伝おうとしてきたが、それを見て俺の中で何かが切れてしまった。

「いい加減にしろよ一条寺。女子にまで手伝わせて恥ずかしいと思わねえのか?」

 それを聞いた一条寺は、ハッとしたように立ち上がってきたが、フラフラして力が入っているようには見えなかった。

「ああ、もう良いよ。使()()()()()!」

 一瞬、空気が凍りついた。

 しまった、と思ったが、あとの祭りだった。


 結局、ほとんど俺一人でテントを完成させた。テントの中で一条寺と二人になるのは気まずかったので、焚火を見るのを口実に俺は一人で外に出た。この最低野郎を慰める奴が誰一人いなかったのがせめてもの救いだった。

「隣いいか、哲太?」

 地面に座っていると、エスランさんが俺の横に座ってきた。

「・・・俺を慰めにでも来たんスか。俺なんかより、一条寺の方へ行ってやったほ・・・」

 言いかけたところで、ゴツッと鈍い音が脳内に響いた。

「デコピン!?・・・っていうか、エスランさん力強っ!?」

「のぼせ上がるなよ哲太。君も瑠衣も、私にしてみれば大して変わらないヒヨっ子のようなものだ。本当は、モヤモヤを誰かにぶつけたいのだろう?」

 仕方なく、俺は話し始めた。

「何か、力仕事とかする時はいつも俺が割を食って、戦いだって、女子の月山さんでさえ戦ってるのにあいつは見てるだけで、それで結局いつも俺にだけ負担がかかって・・・それが溜まってイラ付いてたんだと思います。いや、最低な奴だってのは分かってますよ。本当はあいつだって頑張ってるのに・・・」

「本当にそれが君の本心か?・・・まあ、君は何か彼に対して一歩引いてるようだが、一度本気で自分の気持ちをぶつけてみてはどうだ?私もソガ―ブにいた頃から瑠衣を見て来たが、彼も君の気持ちを受け止められないほどヤワな人間ではないよ。・・・もちろん、今日の事を謝ってから、な」

 そう言うと、エスランさんはテントの方へ帰って行った。

 今言ったことだけが苛立ちの原因ではない・・・そう、それは俺が一番よく分かっている。一条寺がフラフラになりながら立ち上がってテントを張ろうとした時、頭が異様なモヤモヤに覆われた。そのモヤモヤの原因が何かは分からないけど、それを「パーティーの秩序のため」とか言って打ち消せるほど俺は大人ではなかった。

 まあいい、とにかくこれからあいつに謝りに行こう。そして、腹を割って話してみよ・・・


 その時突然、周囲が暗闇に包まれた。一瞬の後、俺は焚火が何者かによって消されたことを理解した。

「敵か!?」

 テントから出て来たエスランさんが叫ぶ。

 しかし、こちらの様子でも伺ってるのか敵は攻撃してこない。

 俺は頭を巡らせた。

 他のテントや地面を傷つけずに焚火だけ狙ったように消す。 

 焚火を消した後もすぐに攻撃せずに様子を伺うだけの冷静さがある。

 これらから考えられる事は―――今度の敵は、()()()()()()()を持っていると言うことじゃないか?

 ヤバい。何かとてつもなく恐ろしい予感がする。

「哲太、後ろだ!」

 そのエスランさんの声に飛び退くと、俺のいた場所に棍棒のような物が振り下ろされた。

 見えなくても、音で地面が相当砕けたことが理解できる。

「GUOOOHHH・・・!」

 闇の中に、うっすら尖った耳と袋の様なものを背負った姿が見えた。

「くそっ、ブギーマン共か」

 エスランさんが叫ぶ。

 ブギーマン・・・確か、映画やゲームの中で見たことがあるような気がする。

 しかし、ここではそんな知識は何の意味も持たない。暗闇の中に潜むこいつらは、ひたすら恐ろしい存在でしか無い。

「タカラ・・・ヨコセ・・・」

 ブギーマンは人間を襲った時に覚えたのか、カタコトの人間語を話しながら迫ってきた。

 月明かりの下、魔物が背負った袋の中に、微かに天馬の紋章の付いた兜のようなものが見える。さらによく見ると、血の跡らしきものも・・・

 ゲームでそんなの作る知能無さそうな魔物が剣だの鎧だの身に付けてるのを不思議に思ってたけど、やっぱり()()()()()かよ!

「GUUUU・・・」

 ブギーマンはこちらを凝視していた。

 俺はハッとして腰に目をやった。どうやら、魔法の鉄の棒が入っていた袋に反射的に手を伸ばしてしまったのが目に止まったらしい。

「しまっ・・・」

 次の瞬間、ブギーマンの手がこちらに伸びて来た。

 思わず身構えたが、次の瞬間地面にドサリと大きな音がした。

 前からエスランさんらしき人影が現れた。エスランさんがブギーマンの手・・・いや、どうやら上半身すべてを剣で両断してくれたらしい。

「何をボンヤリしている!早くテントの中に隠れろ!」

 その声にハッと我に返った。そうだ・・・ブギーマン()と言う事は、他にも仲間がいると言う事。

 俺は必死にテントの中に身を隠した。いくら戦えるようになったとはいえ、相手は軍隊の身包みを剥がすような連中だ。悔しいが俺なんかがいても役に立たない・・・もっと言えば足手纏いだろう。

 

 テントの中からそっと外の様子を伺ってみる。暗くてほとんど外の様子はわからないが、時おりブギーマンの叫び声、剣で何かを切るような音、そしてドサリと何かが地面に落ちるような音がする。

 いくらエスランさんが強いとはいえ多勢に無勢・・・しかも焚火を消してから襲ってくると言う事は、相手は少なくとも人間よりは夜目がきくはず。松明をつけようにも、暗くて火種のある場所もろくに分からない。

 何もわからない状況の中で、必死に息を殺しながらエスランさんの無事を祈る・・・それは、以前ジャイアントバットやヴァンプマッシュルームと戦ったときとはまた違う恐怖感だった。

 こんな事考えている場合じゃないのに、己の無力感に苛まされてしまう。一条寺に使えないだの何だの言って、結局俺も肝心な時には何も出来ないじゃねえか・・・


 そうか、もしかしたらあれを使えば・・・

 俺の中に、初めてアデスさんの使った魔法を見た時の光景が甦ってきた。

 俺は暗いテントの中を探って、必死にアデスさんに貰った魔放筒(マジカルチューブ)を見付けだした。

 筒を手に取って念じると、先端の方に光が集まってくるのが見える。

「止せ!暗い場所では命中率が低い!今はそれを使うべきじゃない!」

 筒を使おうとしているのに気づいたエスランさんが叫んだ。

 確かに、エスランさんはもっと危険な状況も経験してきたかもしれない。

 でも、俺たちにとっては今が使うべき時なんだよぉぉぉぉぉっ!!

 筒から放たれる光で、一瞬ブギーマンの一体の姿が視認できた。俺はそれに向かって筒の先端を構えた。

「GHAAAU!?」

 一瞬閃光が走り、ブギーマンの顔面に魔力の塊が炸裂する。

 だが、もがきながらもブギーマンは立ち上がろうとしてきた。どうやら、致命傷は与えられていないらしい。

 地面に散った魔力の炎が周囲を照らす中、ブギーマンはゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。

 よし。()()()()()

 そう、最初から俺の本当の狙いは、ダメージを与えることではなく魔力で周囲を照らすことだった(本当に燃えてくれるのかはイチかバチかだったけど・・・)。

「よくやったぞ、哲太」

 エスランさんが俺の方に向かっていたブギーマンを後ろから刺した。これで、今までより格段に戦いやすくなるはず・・・


 ―――だがその時、安堵感のあまり俺は忘れていた。俺たちの視界が効くようになると言う事は、敵にとっても同じことだという、当たり前の事さえも・・・

 

 エスランさんは剣を構えると、一気に踏み込んでブギーマンの一体を斬り伏せた。さすがにこれ以上長期戦になるのは不利と見て、一気にカタをつけようとしているのだろう。

 さすがにブギーマンも怯んだ様子が見える。きっと、もう少しで勝てる。もう少しで・・・

 その時、ブギーマンの一体の視線がこちらを向いた。

「ミツケタ・・・ニンゲン・・・」

 こちらが反応するより早く、ブギーマンは飛びかかってきた。炎で周囲を照らすことにより、今まで隠れていたこの場所まで見付かってしまったのかと気づいた時はもう遅かった。

 エスランさんの剣ももう届かない。殺られる――――――

 そう思った時、何かに突飛ばされた。

 恐る恐る前を見ると、ブギーマンは一条寺を抱き抱えていた。

 一条寺が俺を突飛ばしたのか・・・?

「GHHHUAAAAA!!!」

 考える間もなくそのブギーマンが咆哮すると、他の連中もそこに集まってきた。それが、この略奪の終わりを意味することは俺にも理解できた。

 ブギーマンは一条寺を抱えたままゆっくりと闇の中に進んでいった。

 一条寺がいるので、エスランさんも迂闊に手を出せない。

 

 あいつは俺を助けてくれたのか?あんな事を言ってしまった俺の事を・・・?

 俺あいつに謝るんだよな?

 俺あいつと腹を割って話すんだよな?

 俺あいつとまた旅をするんだよな?

「てめえ・・・返せよ、一条寺を!」

 体はほとんどすくんで動かなかったが、必死に声を絞り出して叫んだ。

 だが、ブギーマンはそれに応えることなく闇の中に消えていった・・・

(つづく)


「アデスさんに貰った・・・」→28話「船出のクレッシェンド」参照。

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