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ブラック吹奏楽部員の異世界サバイバル記  作者: 雷電鉄
第二章 イェルドン大陸
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#24 大魔戦役・300年の謎

 夜交泉のある宿駅を出てから四日目の朝。あと数日も歩けばイズマールの港に着くらしかったが、アデスさんは「悪いな、今日は少し街道を外れて寄りたい所があるんだ」と言い出した。

 怪訝とした顔を向ける俺たちに、アデスさんは続けた。

「まあそんなカオは止せよ。俺たちの探索にも協力してもらうのは、俺たちが仲間になった時の約束のはずだぜ。それに、そこに行くとお前たちも何かのヒントが掴めるかもしれねえ。―――大魔戦役時代の遺跡だからな」

 大魔戦役。そう、ガルナレアの町で魔法の筒を鑑定した時、確か500年前だかの大魔戦役時代に作られたものだとスナリアさんが言っていた。その時代の遺跡となれば、筒に付いての何かのヒントが掴める・・・可能性もあるのかもしれない。


 アデスさんたちの後に付いて遺跡の前まで来た。遺跡の外壁は周囲の岩とは明らかに質感が違っていて、この前の洞窟とは違って人の手が入った建造物だということを容易に感じさせた。長い間放置されているうちに繁ったのか、あるいは元々茂みの中に作られた建物だったのか、内部は様々な植物が生えて鬱蒼とした雰囲気で覆われている。入口には年期を感じさせる錆びた鉄の扉があったが、それに不釣り合いな真新しいプレートに「危険。この先、生命の保証は出来ない・・・」的な事が書かれている。つまり、かなり最近にも何か危ないことがあった可能性が高い。

 ヤズゥさんが慣れた手つきで門の鍵を開けると、彼らは警告のことなど意にも介さずに中に進んで行った。

 進藤が、「どうするの?(私は行くけど)」とでも言わんばかりに俺に視線を向けた。

 ええい、虎穴に入らずんば何とやらだ。とにかく、今は少しでも筒に付いての手掛かりが欲しいのだ。

 

「こういう所の宝って、大体もう盗掘されてしまってるのかと思ってましたが」

 周囲を見回した一条寺がアデスさんに尋ねた。

「確かに、()()()()()()宝はもう取り尽くされてるかもしれねえな。でも、死んだ魔物の体の一部や他の冒険者が落として行ったアイテムやなんか・・・探し集めて売れば結構な金になるんだぜ」

 それって、火事場泥棒と大して変わらないんじゃあ、と思ったけど口には出さなかった。

 

 遺跡の通路は高く築き上げられた壁で区切られていて、そこかしこには魔物を見張るために作られたのか、石塔が立てられている。元は城塞か何かだったのかもしれない。

 しかし、そのどちらも結構な部分が崩れ落ちていて、その上を覆うように多様な植物が生い茂っている。

 分かりやすく言うなら、某天空の城を思わせる感じだ。残念ながら俺の隣にいるのは、空から落ちてきた少女ではなく喧しい幼馴染みなのだが。


 この機会に俺は、アデスさんにこの前町で聞けなかった大魔戦役のことについて聞いてみる事にした。

「そもそも、大魔戦役って一体どんな戦いだったんですか?」

「ああ?まあ、600年くらい前に、人間界を滅ぼそうとした魔王が魔界と地上とを繋ぐ扉を開けちまって、魔界の魔物が大量に溢れだしたんだな。地上に魔物が大量に増えたのもその頃からだ。それ以前も多少はいたらしいがな」

 魔王。やはり、今アデスさんは魔王と言った。

 この前、大魔戦役の説明で「魔王」という言葉を聞いた時、この世界に居てすら現実感を感じる事が出来なかった。魔物が跋扈する世界とはいえ、人々の生活は普通に続いていて世界が存亡の危機に晒されるような事態とは無縁だと思っていた。しかし・・・

「あれ?でも、この前町では筒は500年前に作られた物だと言ってましたよね?」

「要するに、600年前からずっと戦い続けてたって事だ。戦役はおよそ300年にわたって続いたと言われてる」

「300年も・・・」

「そう驚くほどの事もないだろう。中国の春秋戦国時代は500年続いている。日本の戦国時代も100年以上だ。解釈にもよるけどな」

まるで、教科書か歴史書の記述を見たかのように、一条寺は小声で淡々と呟いた。こういう時のこいつはドライだ。

 俺は300年という時間について考えた。100年前の映像も観る事が出来る元の世界とは違って、この世界では過去のことを知る手段は限られている。平均寿命も、きっと現代の日本に比べたら短いだろう。そんな世界で、300年とはどれほどの長さに感じられるのだろう。

「でも、よく勝てましたね、そんな戦い」

よくは分からないが、今普通に人類が生活しているという事は、人間側がその戦いに勝ったという事なのだろう。

「まあ、300年もあれば人間側もいろいろ対抗手段を身につけるからな。当時の賢人や大魔術師たちが必死こいて封印魔法を開発して、ようやく魔王の眷族もろとも異空間に封じ込めたらしい」

「一体どんな奴だったんですか?魔王って」

「はっきりした記録はほとんど残っていない。そもそも、人間の前に現れる事自体ほぼなかった上に、何とか魔王の前までたどり着いた奴も大部分が殺られてしまっただろうからな。各地に残ってる大魔戦役の伝承でも、地域によって魔王の姿が全く違っているくらいだ。まあ、そんなだから俺たちにとっても謎の存在だよ、魔王なんて」

 どうやらゲームの中の異世界と違って、この世界には、少なくとも今は世界を滅ぼそうなどと考えている存在はいないらしい。それは、この理不尽極まりない異世界転移の中で数少ない救いと言えるだろう。


 そうこう話しているうちに、かなり遺跡の奥まで進んできた。

 幸いにも俺たちにとって脅威となる魔物は現れず、アデスさん達は死んだ魔物の体から皮を剥いだり角を切ったりしながら(あまり直視し辛い光景だったが)進んで行った。

 数十分くらい歩いただろうか。目の前に他の建造物より一際高い塔が現れた。ここがこの遺跡(城塞?)の中心部だったのだろうか。

 塔の扉を開けようとしたが、鍵は完全に錆ついているらしく、さすがのヤズゥさんも匙を投げたようだった。

 塔の裏側まで回って見たが、他に入口らしきものは見当たらなかった。

「どうやら塔の中に入る手立ては無さそうだな。それなりに収穫もあったし、そろそろ引き上げるか?」

 そうアデスさんが言った時だった。

「ここの地面、他と少し音が違う気がします」

 そう、石畳の敷かれた地面を足で踏みながら早坂が言った。

 試しにアデスさんが石に耳を当ててみた。

「確かに、石の下が空洞になってるような感じの音がするな」

 早速男たち(とエスランさん)で石を持ちあげてみると、確かに少しだけ動いた。

 上記の工程を繰り返す事十数分。

 石を動かしきった後に現れたのは、地下へと続く階段だった。

 

 階段を降りながら、俺は魔物の恐怖も忘れて子供の頃の探検ごっこのときのようなワクワク感にとらわれていた。

 この先に、あの筒についての手掛かりがあるかもしれない。

 無かったとしても、これだけ厳重に隠すと言う事は何か重要なものがあるに違いない。

 

 が、降りた先に現れたのはただの窪んだ壁と、様々な形をした十数個のブロックだった。

「まあ、よくある仕掛けだな。この窪みに正しくブロックをはめ込むと、奥へと続く扉が現れるというやつだ」

 そうアデスさんが言うと、早速皆ブロックのはめ込み方を考え出した。

 まずアデスさんが二つブロックをはめ込む。その時は上手く行きそうに思えたが、ある程度まで行くとこのやり方では無理なことが分かり、また最初からやり直す羽目になった。

 そんな事を繰り返す事数回。ああでも無い、こうでも無いと言うばかりで、一向に成功する気配は見えなかった。

 何だ・・・これ・・・?物凄く手がウズウズしてくる。出しゃばった事をしてもいいのかと思ったが、俺の脳は止まらなかった。

「え・・・?どうしたの、須賀・・・?」

 いつもと違う俺の様子を察したらしい進藤が語りかけてきたが、構わず俺は前に進んで行った。

「ちょっと、俺にやらせて下さい!」

「お、おう・・・?」

 戸惑うアデスさんを尻目に、俺はブロックをはめ込み出す。

 頭の中に、正しいブロックの動きが入り込んでくる。俺は、それに合わせて心を無にして手を動かして行くだけだ。

 任務(ミッション)完了(コンプリート)

 最後のブロックを入れると、奥にあった隠し扉が重々しく開いた。

 周囲を見回すと、皆驚きの目を向けている。

 きっとこれは、今までのパズルゲーと、楽器運搬時に打楽器を効率よくトラックに詰め込むことを何度も繰り返した経験が融合して身に付いた能力に違いない。自分にこんな才能があるとは思ってもみなかった。

 そう言えば。俺は、アデスさんに魔法について聞いた時の事を思い出した。

「もしかして、前に言ってた俺に向いてることってコレじゃないですよね・・・?」

「・・・アホ」 


 隠し扉の向こうには人が辛うじて二人通れるくらいの通路が続いていて、その奥に小部屋があるらしかった。

「残念だが、もう目ぼしい宝は無えな。ひとつ、三角形の鉄の棒があるだけだ」

 先に小部屋の中へと入ったアデスさんが言った。

 その時。()()()()()()()という言葉を聞いた進藤が、眼の色を変えて奥へと向かって行った。

 その言葉で表わされる物には、俺にもよく心当たりがあった。が、それはこの世界には存在しないはずのものだ。でも―――

 俺と進藤は小部屋へと踏み込んだ。そこにあったのは、元の世界のトライアングルそっくりの物体だった。

(つづく)

 

賢明なる読者様はお気づきかもしれませんが、今回出てきた仕掛けはドラクエIIIのエジンベアにあったみたいなあんな感じをイメージしてます。

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