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ブラック吹奏楽部員の異世界サバイバル記  作者: 雷電鉄
第二章 イェルドン大陸
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#23 望郷の泉

 森を抜けて数日後。俺たちは、新たな宿駅にたどり着いた。

 辺りを見回したが、どうもこの宿駅は今までと感じが違う。何やら、妙に賑わっている気がする。

「この宿駅、何かあるんですかアデスさん?」

「ああ、ここには夜交泉があるからな。それ目当てで集まってるんだろ」

「やこうせん?」

「魔力が込められた泉で、夜になると、顔を映した人間が頭に思い描いた場所と交信が出来るんだ。まあ、概ね故郷が恋しくなった旅人向けの物だな」

「公衆電話みたいな物なんスね」

「こうしゅうでんわ?」

「・・・何でもないです」

 頭に思い描いた場所と交信が出来る泉。一瞬でこの地方まで飛んできた時にも感じてたけど、つくづく何でもアリだな、魔法って。

 

 夜。俺と進藤はアデスさんのパーティーが集まっている所に昼間の泉のことを聞きに行った。

「アデスさん達はあの泉を使われないんですか?」

「いや、俺達はいい。使うんならお前たちで使え」

 アデスさんは視線も合わさずに答えた。何か、「俺たちの事情に構うな」と釘を刺されたような感じだった。

「じゃあ先輩は・・・」

「フッ、俺は旅から旅にさすらう男。過去は捨て去ったのさ。今までの町の思い出など昨日に置いてき(以下略)」

「私たちで使っちゃおっか」

「だな」

 

 俺たち転移組四人とエスランさんで泉の前に来た。さっきアデスさんに聞いてきた通り、五人で泉に顔を映して頭に交信する場所を思い描いた。もちろん、俺たちが旅立つ前にいたソガ―ブの町だ。

 泉に映った月と俺たちの影が次第にぼやけ始め、どこかの家の中らしき場所が浮かび上がってきた。

「これは・・・私の家・・・。!・・・母さん・・・!」

 エスランさんが言った。

 そう言えば、エスランさんの母親、つまり師匠の奥さんもあの町に住んでいることは聞いていたけど、一度たりとも俺たちの前に顔を見せた事は無かった(道場は師匠たちの家とは別の場所である)。

「もしかして・・・病気とかですか?エスランさんのお母さんって」

「いや、そういう訳ではないんだが・・・」

 妙に焦っているような口調でエスランさんは言った。

 そうこうしているうちに水面に一人の女性の顔が浮かび上がった。(この人が母親だとすると)俺より年上の人の親とは信じられないほど若々しい顔をしている。

「あら?壁にエスランたちの姿が・・・ねえ、あの子たち夜交泉を使ったんじゃない?」

 次いで師匠の声が聞こえてきた。 「ああ?悪いが今日は疲れてるんだ。また明日にでもやらせろ」

「もー、しっかりしてよルザン君」

 えーと、師匠・・・?ルザン君・・・・・・?????


「てめえ、今引いてやがっただろ!!」

「わああ、師匠!!」

 あまりの想定外の光景に思考停止状態になっていたら、突然師匠の怒鳴り声で現実に引き戻された。

「いや、何と言うか意外というか、師匠にもこんな一面があったんだなと言うか・・・」

 俺は思わず笑いがこぼれそうになるのを必死で堪えている。

「てめえ・・・町に帰ってきたらたっぷりシゴいてやるから覚悟しやがれ」

「そんな、旅が失敗に終わる事前提っスか!!?」

 そんなやりとりをしていると、さっきの女性が割って入ってきた。

「もう、そんなにスゴんじゃ駄目じゃない。そんな事だから、道場から何人も逃げちゃうのよ」

「ふう・・・で、お前はパーティーの中で上手くやれてるのか?」

「はい、お陰さまで何とか・・・といっても、戦いではほとんどエスランさんたちに任せきりなんスけど」

「フン、ハナからお前を戦力としてなんか期待して無えよ。でも、まあまだ逃げ出さずにエスラン達に付いて行ってることは褒めてやるよ」

「んもー、嬉しいなら素直にそう言えばいいのにね。ルザン君ったら、毎日のように夕食のときにテッタ君たちのことを話題にしてるのに」

「うるせえ」

 奥さん(?)は師匠の頬をつつきながら話している。

「驚いたろう。私が子供のころからずっとあんな感じなんだ」

「はあ・・・」

 師匠 (とエスランさん)がこの人を人前に出したがらなかった理由が何となく分かった気がする。確かに、強面の師匠が「ルザン君 (はぁと)」とか呼ばれる姿はいろいろとインパクト大だろう。

 

「私も名乗らないとね。私はレシアラ。あなたはテッタ君、そちらにいるのはカオリさん、ルイ君、トウカさんね。ルザンく・・・主人から話は聞いているわ」

 俺は改めてレシアラさんを見た。童顔で、エスランさんに比べて背も低いけど、体つきはしっかり「大人の女性」している。特に、胸に関してはさすがエスランさんと親子といった感じだ。その上人妻ときたら、たまらない人にはたまらない属性だろう (旦那が怖すぎるのが難点だが)。

「あなた方にはいつもうちのエスランが世話になっているわね。この場を借りて礼を言わせてもらうわ」

 レシアラさんは微笑みをたたえつつも丁寧な口調で語った。

「そんな、いつも世話になっているのはこっちの方で・・・」

 俺がそう言ったのにも構わずレシアラさんはエスランさんに語りかけた。

「大丈夫?あまり皆に迷惑かけちゃダメよ。食べすぎには気を付けて。歯磨きも忘れないようにね。あと、夜はお腹を冷やさないで、それから・・・」

「か、母さん、もう私も子供じゃないんだから・・・」

「あら、そう?でもあなた三年前まで夜はいつもぬいぐるみを抱」

「はわーーーーーー!!」

 エスランさんが叫ぶと、もうそれ以上変なことをバラすなと言わんばかりに師匠がレシアラさんを抱えて家の外の方に向かって行った。

「待ってろ、今ゴンドや町の人を呼んできてやる!」


 しばらくすると、家の前に人が何人も集まってきた(改めて、この町の人達はずいぶんと時間の融通が利くなと思う)。

「やあ、久しぶりだねえカオリちゃん。あれから魔法の筒の調子はどう?」

 人の群れの中から進藤に語りかけたのはあの道具屋の主人だ。

「うん、あれからたまに吹いたりしてるよ。そう、あの筒をきっかけにして仲間も出来たんだよ・・・」

 気のせいかすこし涙声になってる気もするが、これは突っ込んではいけない所だろう。

「ようテッタ、他の皆も無事だったようだな。・・・少し、面構えが変わってきたんじゃねえか?」

「!ゴンドさん・・・!正直、どこが変わったとかは分からないっス。まだ怖い事も沢山あるし・・・でも、進藤やみんながいるから何とか頑張れてます」

 

 そうして、俺たちは短い時間ではあるが言葉を交わし合った。その後、再びレシアラさんが現れた。

「エスラン、あまり危ない事はしないで・・・といっても無理よね。冒険に出てるんだから。だから、せめて目的を果たしたらまた町に帰って元気な顔を見せて。それが、()()()の最大の願いよ」

「母さ・・・」

 エスランさんがそう言うと、次第に画面がぼやけてレシアラさんの顔が消えていった。どうやら魔法の効力が切れてきたらしい。

 最後の会話を見ると、レシアラさんはほんわかしていながらその実肝の据わった女性に思えた。流石は戦士の妻にして母親というべきか。


「しかし、何だってあの町の中でピンポイントにエスランさんの家が出てきたんだろ?」

 ただの泉に戻った夜交泉を見ながら俺は呟いた。

 人の気配を感じて振り向くと、後ろにはいつの間にかアデスさんがニヤ付きながら立っていた。

「そりゃあ、あの泉は顔を映した連中の中で一番強く念じられた場所を映し出すからな。つまり、姐さんが実家を恋しがる気持ちが五人の中で一番強かったってことだ」

「わ、私はただ、両親の無事が気になってただけだ。いや、子供としては当然のことではないか!??」

 少し、顔を赤くしながらエスランさんは弁明した。

 確かに、俺たちですら懐かしさを感じたくらいだからあの町で生まれ育ったエスランさんは計り知れないほどの郷愁を感じているだろう。増して、この世界では通信手段もごく限られているだろうし。

 故郷、か・・・


 少し物思いにふけっていたけど、案の定進藤が割って入ってきた。

「あんたがシンとしてるなんて珍しいじゃん。・・・何考えてんの?」

 そう言う進藤も、珍しく神妙な顔をしている。

「・・・お前と同じ事に決まってんだろ馬鹿。早く帰るんだよ。俺たちの本当の故郷にな」

(つづく)


 


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