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ブラック吹奏楽部員の異世界サバイバル記  作者: 雷電鉄
第二章 イェルドン大陸
25/74

#22 恐怖の吸血菌(後編)

(承前)

 まだ胞子が靄のように立ち込める中、誠矢は矢筒から矢を取り出していた。

 ヴァンプマッシュルームに遭遇したのは初めてだったが、以前アデスから、この魔物は倒したと思っても生き残りが襲ってくるかも知れないということは聞かされていた。

 なので、もし生き残りがいた場合に備えて弓を構えようとしていた。

 靄が完全に晴れるまでわずか数十秒ほどに過ぎなかったが、それまで待っていては生き残った茸は仲間に噛みついてしまうだろう。

 相手の姿を確認したら、一瞬で決めなければならない。

 

 一秒・・・二秒・・・少しずつ靄が晴れてきた。だが、不用意に矢を放てばパーティーのメンバーを傷つけてしまう。

 他の者の会話から、どうやら香織が茸に取りつかれているらしいと分かった。だが、まだはっきりとした姿は確認できない。

 こうしている間にも、香織は茸に噛まれているかもしれない・・・。

 

 その時、

「こっちです、先輩!!」

 という哲太の声が響いてきた。

 咄嗟にそちらの方を振り向いた瞬間、靄が晴れて進藤、そしてそれに取り付いている茸の姿が確認できた。

 刹那、誠矢は矢を放った。矢は地面に伏せった香織の体の上の茸に命中した。

 茸は鈍い音を立て、次の瞬間、矢とともに地面に転がった。茸の転がった辺り一面の地面に黄色い胞子がばら撒かれた。


 

 


 ◆◆◆◆

 茸達は倒れた。すると、途端にひどい腐臭が漂ってきた。戦いの時はそんな事を気にしている余裕はなかったが、あれだけの死体を相手にしていたのだから無理もないだろう。

 改めて、俺達は「みんな無事か?」などと声を掛け合った。さっきの戦闘の時もそうだったが、みなヘトヘトになっているのに声はしっかりと出ていた。当然と言えば当然の話だろう。進藤たち管楽器組は部活で毎日肺活量を鍛えていたし、俺や先輩も声出しや挨拶などで四六時中声を張り上げていたのだから。その努力が正しいかはともかくとして役には立ったということなのだろう。

 

 進藤が先輩に礼を言っていた。さすがに、今回は相当怖かったらしく体は震えていたが、それでも必死に笑顔を作っていた。そんなあいつと比べて、今回ほとんど何もできなかった自分がひどく不甲斐ない存在に思えた。

 進藤は次に俺の元に駆け寄ってきた。

 俺の口から自然に、

「大丈夫だったか?進藤。・・・怖かったよな」

 という言葉がこぼれた。

 進藤は小さく頷くと、

「でも、須賀も最後に声を掛けてくれたよね」

 と言った。俺は、力なく

「別に、あんなの大したことじゃねえし・・・」

 と答えた。

 多分、進藤は慰めとかじゃなく本心で言っているのだろう。

 けれど、そんな進藤の思いに、今はより不甲斐ない自分を意識させられた。 



 夜。ようやく森を抜けた後、テントの寝室で昼間の事を思い出していた。昼間はあんな事を考えていたけど、もちろん進藤が助かった事はたまらなく嬉しい事には違いなかった。

 先輩の方を見ると、先輩もまだ起きているようだった。俺は、改めて昼間のことの礼を言った。

「ありがとうございます、先輩。何か、俺達が強引に旅に巻き込んだみたいな感じなのに、こんな助けて貰って・・・」

「気にするな。俺もあいつの笛が聴けなくなるのは嫌だからな。お前たちと一緒だよ」

「・・・何か俺、自分が情けないっス。今回も最後先輩に助けて貰って・・・」

「そうか?お前もまあまああいつを救ってると思うけどな。まあ、今の俺は所詮一介の冒険者だしな」

 そう、この世界で生きて行くつもり(らしい)の先輩は、本来俺達を助けなくてもいい立場だったのだ。でも・・・

「・・・何か、格好いいっスね、先輩」

 先輩は少しはにかんだような表情を見せた。それは、この世界に来て初めて見るかもしれない先輩の年相応な男子の顔だった。

「・・・先輩だからな」

「ははっ、何なんスかそれ」

 

 今でも先輩の戦いぶりを見ていると戸惑うことも多いけど、そんな先輩の力のおかげで進藤を守れたことは事実だろう。


 俺も、そんな力が欲しい・・・

(つづく)


「声が大きい」のは、作者が吹奏楽部時代によく言われていた事です(部の活動と関係があるかは分かりませんが)。

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