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ブラック吹奏楽部員の異世界サバイバル記  作者: 雷電鉄
第二章 イェルドン大陸
24/74

#21 恐怖の吸血菌(前編)※簡易的キャラ紹介(#12~)付き

・能登川誠矢 アデスたちのパーティーの一員。弓手。哲太たちの部の先輩。部活内ではコントラバスを担当。

・アデス 哲太たちが異世界で出会ったパーティーのリーダー格。魔術師。

・ヤズゥ アデスたちのパーティーの一員。盗賊。

・スナリア アデスたちのパーティーの一員。回復師。



・アクルム ガルナレアの町で鑑定屋を営んでいた謎の男。何か企みがあるようだが…?


※今回(後編も含め)、微グロ描写があります。苦手な方はご注意ください。

 ガルナレアの町を出た後、俺達はジェニジャル大陸への航路があるというイズマールの港を目指していた(自前の船を持っているのは、冒険者の中でもごく一握りの者だけらしい)。

 航路がある中では町に一番近い港らしいが、街道沿いに歩いても結構な日数が掛かる。おまけに、今歩いている場所はあまり道が整備されてないらしく、目の前には深い森が広がっていた。

 森の中では魔物だけじゃなく、虫や獣、森そのものも危険な存在となる。何しろ、もし迷いでもすればここでは助けに来てくれる者はまず居ないのだ。俺たちは慎重に茂みの中に足を進めていった。

 ふと地面に目を見やると、何かの骨が散らばっていた。そう言えば、初めてこの世界に来た時進藤が動物の骨に躓いてたなあ・・・などと思い出していた。幸か不幸か、俺はもう骨程度では驚かなくなっていた。

「・・・・・・」

 ふと一条寺を見ると、何かを考え込むように骨を見つめていた。

「どうした、一条寺?」

「・・・人骨だぞ、今の」

 俺はさすがにたじろいだ。

「あの、この先って何かヤバい物があったりとかは・・・」

 と言ってみたものの、

「そうは言っても、地図によるとここが一番の近道なんだから仕方ないだろう。道を逸れると、それこそ元に戻れないかもしれないぞ」

 と言って先輩は歩きだした。アデスさんも、

「そうだぞ。人骨って言っても、俺達もいつそうなるか分からないんだから気にしても仕方ねえさ」

 と進んでいった。

 いやいや、それなら余計ヤバいだろうと俺は思った。やっぱり、冒険者と言うのは俺たちとは感覚が違う生き物なのかもしれない。・・・先輩も含めて。

 仕方なく俺は進んで行った。時々、目の前に垂れ下がる枝や足元の木の根に阻まれつつも数十分ほど進んだ時だった。

「きゃっ!」

 と叫んで俺の左手側を歩いていた早坂が進藤に抱きついた。

 彼女の手が指し示す方を見ると、そこには野ウサギの死体があった。

「大丈夫か?日が暮れる前に早く森を抜けるぞ。さすがにこんな森の中で野営はできないからな」

 淡々と言いながらアデスさんは進んで行った。

 確かに、(グロいと言えばグロいが)いちいち気にしていてはキリが無いだろう。どう見てもただの動物だし・・・などと思いながら、俺は左手の方にある死体を見返した。

 

 あれ?

 俺たち、今歩いてるよな?

 何で、さっき左手の先にあった死体が今もまだ左手の先にあるんだ?

「あの、まさかとは思うんスけどこの死体動いて・・・」

 そう言い終わる前に、アデスさんのパーティーは一斉に身構えた。

 人骨にも動じなかった人たちがだ。

 それを見て、俺たちは今只事でない状況に陥ったのだと理解した。

 次の瞬間、その死体(・・・と言えるかはもはや分からないが)は唸り声を上げながら俺達に飛びかかってきた。

 そいつはエスランさんが剣で薙ぎ払ったが、瘴気、と言うのか、周囲に異様な気配が漂うのが感じ取れてきた。

「マズいぞ、ここはヴァンプマッシュルームの巣だ」

 アデスさんがそう言うと、瘴気の中からいくつもの茸のような物体が姿を現してきた。

 それは、毒キノコに関する知識が無い奴が見ても絶対に食べたくないと思わせるような―――そんな不気味な色をしていた。あんな魔物は町の記録でも見たことがなかった。

 戸惑っていると、森の奥からキツネや、リスや、蛇や、山鳥が次々と姿を現してきた。

 どいつもこいつも、涎を垂らしたり目を血走らせたり異様な姿をしている。見たこと無いけど、狂犬病にかかった動物はこんな感じなのかもしれない。中には肉片を垂らしている奴もいた。

「気を付けろ、そいつらは()()動物じゃない、魔物だ!」

 アデスさんがそう言うやいなや、その獣たちは俺達に向かってきた。エスランさんとヤズゥさんが中心になって、獣たちを倒して行く。不幸中の幸いと言っていいのか、防御力は元の動物と大きくは変わらないらしい。

 慌てふためきながら周囲を見渡すと、進藤は、こんな時でも早坂を守っていた。

 あいつにそんなに頑張られると、俺も戦わないわけにはいかねえじゃねえか・・・!

 俺は何とか剣を取り出すと、エスランさんの隣に並んだ。

「よし、パニックにはなっていないようだな。どうやら、あの後ろにいる茸が森の動物をゾンビ化させて操っているらしいな」

「よーく知ってますよ、ゾンビなら!」

 倒されたゾンビを見ると、身体から小さい茸が生えてるのが見えた。今までに見た漫画やゲームの知識から、この茸を植え付けられることで操られてたのだと想像がつく。

 

 ゾンビ獣を倒しても、また新たな奴が現れてきた。当然のごとく、森の中には動物などいくらでもいるのだ。

「やはり一匹ずつ倒していても埒が明かないな。俺が魔法で一掃するから、それまでお前たちは非戦闘員を取り囲んで守れ。いいか、絶対に敵に体を傷つけれられるな!」

 そう言ってアデスさんは詠唱に入った。

「なんとか、ゾンビ達を操っている親玉を倒せればいいが・・・」

 エスランさんがそう言うと、それを拒むかのように茸は黄色い胞子(?)を吐きだした。凄まじい胞子の量に、目の前は靄に包まれたように閉ざされてしまった。

「お、おい、大丈夫なのかよこれ!?」

「ただ胞子をばら撒いたぐらいでは茸は増えない。環境とか、いろいろな条件が重ならないと・・・あくまで、元の世界の話だがn」

 俺の隣にいた()()()一条寺が言い終わらないうちに、文字にできないほどおぞましい鳴き声を上げながら胞子の中から茸がこちらに飛びかかってきた。

 間一髪、現れたエスランさんの剣が茸を地面に叩き落とした。

「大丈夫か!?どうやら、胞子はあくまで目くらましで茸が直接攻撃してゾンビを増やしていくらしいな。ヴァンプマッシュルームとはよく言ったものだ」

 ホッとした・・・

 のも束の間、何か足に違和感を感じた。

「・・・・・・」

「どうしたテッタ?」

「いや、足に何かが絡みつくような・・・」

 恐る恐る足を見ると、足にはゾンビ化した蛇が絡みついていた。脳裏に、さっきの体から茸を生やした死体が甦る。

 何とか間に合ったエスランさんが足の蛇を引きちぎった。

 どこから襲いかかって来るかわからない吸血茸。地上からはゾンビ化した動物たち。

 もう嫌だ。なんで俺たちがこんな思いをしなきゃならないんだ。

 でも・・・

 だからこそ、俺たちをこんな世界に送った奴(居るとすればだが)をぶん殴ってやるまでは、絶対に死んでたまるかよ・・・!

 

 次の瞬間、その思いが通じたのか、アデスさんの魔法の炎が魔物たちを包みこんだ。ゾンビどもは火に弱いらしく、一斉に茸ともども燃え上がって行った。

 茸どもが燃えていくと、次第に辺りを包みこんだ胞子が薄らいできた。

「おい、みんな無事か?人数を数えろ」

 アデスさんのその言葉に、俺は立っている人影の数を数えはじめた。

 一人・・・二人・・・と、全部で八人の人影が確認できた。

 

 え・・・?ちょっと待て、()()・・・?

 恐る恐るまだ見てない方を振り向くと、そこには生き残った茸に体にのしかかられた進藤の姿があった。

 俺はたまらず駆け出そうとしたが、エスランさんに制された。

「何をする気だ、テッタ」

「何って、決まってるじゃないですか!進藤を助けないと・・・!!」

「この距離では、君が踏み込んでも間に合わないだろう。いや、私でも出来るかどうか・・・それに、不用意に踏み込んでも茸に飛び掛かられるのが落ちだぞ」

 うつむく俺にエスランさんは続けた。

「確かに君は強くなっている。だが、戦いでは誰よりも相手を助けたいと思っている者が本当に助けられるとは限らない。それを覚えておくんだ」

 エスランさんの表情を見ると、この人もまたやりきれない思いを堪えていることが見てとれた。

「でも、じゃあどうすれば・・・」

 そう言った後で、そう言えばパーティーに一人、遠距離物理攻撃のスペシャリストがいる事を俺は思い出した。

(つづく)



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