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ブラック吹奏楽部員の異世界サバイバル記  作者: 雷電鉄
第二章 イェルドン大陸
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#19 夜の冒険者たち

※(現代で言う)性風俗の描写があります。不快に感じる方はご注意ください。

 ヤズゥさんは部屋の中まで入ってきた。

()()だよ」と言う言葉に、

「え、何なんスか?」

 と聞き返すそばから、部屋から連れ出された。戸惑う俺に先輩が、

「大丈夫。変な事にはならねえよ。・・・多分な」

 と声を掛けた。


 まだ少し酔いの残る中、三人に連れられて町を歩き回る。

「大体、少し奥まったところの町外れにあったりするんだよなあ・・・おっ、見えてきたぞ」

 とヤズゥさんが言った。

 ヤズゥさんが指差した方には、狭い路地とそれに不釣り合いな色とりどりのランタンの灯り、そして、酔っぱらったり上機嫌で歩いている男たちの群れがいた。

 町を歩きながらうっすらと感づいてはいたけど、これは、紛れもなく、歓楽街というヤツだな・・・

「おい、その腰に差してる物預けとけよ。こういう所には武器は持ち込まないもんだ、常識だろ」

 とアデスさんが言った。俺は戸惑いながらも、言われるまま剣を入り口の小屋に預けた。

 

 道を進んでいくと、脇にある小屋の窓からランタンの灯りにうっすらと照らされて、女たちが顔を見せて道行く男たちを誘っているのが見える。

 ・・・とか落ち着いて語っているが、実際は心臓のバクバクが治まらなかった。

 ・・・念のために言うが、俺は16年間の人生で一度たりとも性的な経験に及んだ事はない。

 まっさらな体だ。

 色を知らない年頃だ。

 知らず知らずのうちに挙動不審になっていたのだろう。ヤズゥさんが、

「えっ、お前もしかして女としたこと無えの?」

 と語りかけてきた。俺は、少しためらいつつも首を縦に振る。

 それを見て、アデスさんとヤズゥさんはニヤニヤしながら顔を見合わせた。

「よし、じゃあセイヤ、こいつに女を教えてやってやれ」

 アデスさんにドンと背中を押され、先輩は俺の腕をムンズと掴んで歩きだした。

 元々、コントラバスの太い弦を押さえていた先輩の握力は割と強かったが、今はもうそんなレベルではない。

 一言で言うなら、戦士、という感じだった・・・

 えっ、ママママママジで俺、こんな異世界で童貞捨てちゃうの?

 

 先輩に手を引かれながら周囲を見回す。小屋の中には、女戦士や聖職者の姿をした女性が顔を出しているものもある。元の世界でいうイメクラみたいなものだろうか?中にはエルフやシルフのような姿をした女が顔を出している所もあった。

 「ああ、その女たちは本物じゃなくて扮装だ。本物のエルフなんて冒険者(オレたち)でもそうそうお目に掛かれないぞ・・・もしかしてお前、最初からそんなマニアックなの選ぶつもりか?」

 とアデスさんが言った。選ぶも何も、誰も今日するなんて決めてないのだが。

 そうこうしているうちに、ヤズゥさんが客引きに掴まった。

「そこのお兄さん、ウチでやっていきませんか。いい娘揃ってますぜ」

「へへっ、じゃあ俺は先に行くぜ。あとでどんな感じだったか教えろよ、テッタ」

 教えろよ、と言われても。

 改めてあたりを見ると、客引きが熱心に動き回っている。このあたりは、元の世界の歓楽街と変わらないようだ(いや、こんな所に来たことないからよく分からないけど)。

 いつの間にか、酔いもすっかり醒めていた。


 スッキリした頭で考えてみる。もし店に入るつもりが無いのなら、なぜ俺は店の娘の格好をいろいろ観察したりした?

 俺は本当にこういう場所に興味はないのか?

 否。

 ある。あるに決まってる。

 今でも、ビビりつつも内心胸の高まりを押さえられないくらいだ。

 ならば、俺も男だ。もうジタバタするまい。

 考えても見たら、俺もいつかは童貞を捨てるんだ。ちょっと早くなるか遅くなるかの違いじゃねえか。

 

 いつの間にか、アデスさんもいなくなっていた。

 大きく息を吸っては吐いてを繰り返すと、先輩に声を掛けた。

「もう、手引っ張って貰わなくても大丈夫ッス。自分の足で行きますから」

「須賀・・・!もしお前が嫌だったら、二人がいなくなった後でどこかにバックれようかと思ってたが・・・。もう今のお前にはそんな事必要ないんだな・・・」

 それなら先に言ってくれよ、と少し思ったがもう後には引けない。

 俺は歩き出す。俺の勘によると、この通りの一番奥の店に俺にとっての最高の娘が待ってる気がする(いや、こんな所に来たことないから以下略)。

 前方を見ると、黒のベストを着た筋肉ムキムキの男たちが三人固まっていた。どう見ても客引きなので、俺は目を合わせないように走ろうとした。

 と、その時、道の脇から地の底を揺るがすような声でこちらを呼ぶ声がした。

 思わずその店の方を振り向くと、そこにはオークを思わせる容姿の女たちがいた。扮装という意味ではなく。

 間の悪い事に、その店の方を向いたことでさっきの三人組と目が合ってしまった。この店の客引きだったのだ。

 筋肉ムキムキの男たちは、俺を囲むようにジリジリと迫ってきた。その威圧感に、全身から変な汗が噴き出す。俺は哀れにもここで貞操を奪われる、じゃなかった、童貞を捨てるのか・・・?????

 と、その時、男たちの前に先輩が立ちはだかった。

「ここは俺に任せろ。お前は先に行って男になってこい、須賀・・・!」

「先輩・・・!」

 三人の男に取り囲まれる中で、先輩が手を上げてサムズアップするのが見えた・・・もしかしたらただの幻影かもしれない。だが、そんな事はもうどうでもいい。

 「うわあああっ・・・!」

 俺は通りの奥に向かって走った。先輩の熱い思いに応えるために。先輩の犠牲を無駄にしないために。

 

 脇目も振らず走っていると、道に立っていた甲冑の人にぶつかってしまった。

 なぜこんな所に甲冑が?だがその背格好には見覚えがある。・・・・・・エスランさんだ。

「スナリアに聞いて、多分ここだろうと言われて来てみれば・・・」

 エスランさんは片手で俺の首根っこを掴んで持ち上げた。俺を大人の世界の闇から助け出してくれるというのか。

 持ち上げられる中で、兜の奥の目が見えた。その目を見て、ああ、俺は助けられるのではなく狩られる小動物なのだと理解した。

 というか、この人は女一人だけでこんな歓楽街の奥まで来たのか。いや、この光景を見て相手が女だと思う人はそういない気もするが。

「全く、君がこんな所に来るのは十年早い。大体、こんな所に来た事をカオリが知ったら何と思うか考えてみろ」

「・・・アイツの事は関係ないじゃないスか」

 むくれる俺を、エスランさんは再び睨みつけた。

「分かりましたから、その目!その目はやめて!」

 連れ戻される中で思った。

 そう言えば先輩、いま息してるのかな・・・

(つづく)


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